第7話 みんなと一緒に
「お誕生日、おめでとう。アキト、アキナ」
赤ちゃんが生まれて1年、今日はお誕生日パーティーだ。家の近くに住んでいる人達もいっぱいお祝いに来てくれたよ。
「もう、1歳だなんて早いですね~」
「スティリアさん、余所の子供だからそう思えるんだよ。実際に子育てしたら大変なんだからね」
「そうだよ。まあ、あんたは先に恋人を作らないとね」
「ですよね~」
時々家にやってきてお手伝いをしてくれた女の人が、赤ちゃんを囲み多く集まってくれた。
「それにしてもほんと可愛いわね。アキト君の方の目はアイシャさんと同じ、み空色なんだね」
「ええ、アキナの方は師匠と同じ黒色なんですけどね」
チセもみんなと一緒に話に加わってワイワイ話をしている。ユヅキ達がいてた頃よりも今日は賑やかだ。
「髪の毛はふたりとも黒いのに、双子で目だけ違うんですよ。スティリアさん、なぜだか分かりますか?」
「まあ、子供は親に似るものだけど、詳しくは自分も知りませんね。チセさんがユヅキさんの子供をたくさん産んで実験すればいいのよ。実験得意でしょう」
「もう、何言ってんですか!」
なんだか、女の人同士で和気あいあいとおしゃべりしているよ。庭では男の人達がお酒を飲んでいるけど、お祝い事があるとすぐお酒を飲むんだね。まあ、平和なのはいい事だよ。
「チセちゃんは、ユヅキさんが帰ってきたら結婚するんでしょう」
「あっ、いえ、まだ、それは……師匠に何も言ってませんし……」
「ユヅキさんも罪作りな人だね~。今どこにいるんだろうね」
「この前帝国内にあるタティナの故郷にいるって、私にデンデン貝を送ってきたんです。たぶん今頃は、人族の国に向かって帝国内を旅している頃だと思うんですけど」
ユヅキ、早く帰って来てくれないかな~。子供はこんなに大きくなっているよ~。
「かあしゃん、かあしゃん」
「アイシャさん、赤ちゃんが呼んでるよ。もう、しゃべれるんだね」
「はい、少しずつ言葉が言えるようになったんですよ。チセの事もチーって呼ぶんです」
ボクの事も「キィー」って呼んでくれるんだよ。ほんとカワイイよね。
それから1ヶ月程が経ったある日。近くの町からドワーフの人が村にやって来た。あっ、この人知ってる。ドワーフがいっぱい住んでいる町に居た人だ。
「アイシャさん、大変だ! 帝国と人族の国が戦争を始めたぞ」
「本当なの! ゴーエンさん。ユヅキさんがどうなったか分かりますか」
「それは分からんが、帝国軍が人族の国へ攻め込んだと、トリマンの町でも大変な騒ぎになっておる」
「そんな……」
どうしたんだろう。家の中が騒がしくなってきたぞ。
「アイシャ。すぐにあたし達も人族の国へ行きましょう」
「チセ。でもあんな遠くまで……」
「大丈夫ですよ。師匠が改造してくれたエアバイクが2台ありますから、今からでも間に合います。なんとしても師匠を助けに行かないと」
「そうね。私達だけでも助けに行かないとね。ありがとうゴーエンさん、知らせてくれて」
「ワシも手伝えることがあったら、何でもする。一旦町に帰って情報を集めておくよ。人族の国へ行く途中に寄ってくれるか」
「はい、ありがとうございます。チセ、私、村長さんのところに子供達の事を相談しに行ってくるわ」
「あたしは、旅の準備をしておきますね。キイエあなたも一緒に行きましょう」
なんだかよく分からないけど、ユヅキが危険な目に遭っているみたいだ。ボクもユヅキの元に行かないと。ユヅキ、無事でいてね。
アイシャ達とすごく遠くまで来て、今、帝国軍と戦っている。まだユヅキとは会えないけど、ここで戦うことがユヅキのためになるって言っていた。
ここで戦って幾日か経ったある日、アイシャがボクの目を見つめて真剣に言葉を掛けてきた。
「キイエ。あなたはこれを持ってユヅキさんの所へ行ってちょうだい。いい、今からユヅキさんの元へ行くのよ。そこにカリンとタティナもいるはずだわ」
ユヅキを探しに行ってもいいの? 地図を見せてもらうと、ここから真っ直ぐ南に行った場所。ここなら前に行った事があるよ。
背中にユヅキに届ける荷物を持ってボクは飛び立つ。
「いい、こっちの方向よ。キイエ、頼むわね。必ずユヅキさんの元へ辿り着いてね」
大丈夫だよ。ボクはユヅキがどこにいても、必ず見つけ出すよ。ユヅキ! ユヅキ! きっと見つけて側に行くからね。
ボクは、アイシャ達の上を一回りして、指差す方へと飛び続けた。
昼も夜もなく、飛び続けた先に人影を見た。辺りは暗くなっていたけど、あれはユヅキだ!
「ユヅキ! ユヅキ!」
ボクは何度も呼び続けた。
「キイエじゃないか! いったいどうしてこんな所にいるんだ」
やっと会えた。ユヅキにやっと会えたよ。ユヅキの胸に飛び込み、何度も頬ずりする。
それから、ボク頑張ったんだ。ユヅキ達の言う通りに戦って、やっと戦いが終わった。
アイシャもチセもいる。カリンやタティナ、セルンもみんな無事だ。さあ、ボク達の家に帰ろうよ。
◇
◇
「ねえ、キイちゃん。お父さん、どこに行ったか知らない」
「多分、研究室の中だと思うよ」
「もう! 私達の誕生日パーティー、もうすぐ始まるのに」
「アキナ達にプレゼントする魔道具を作ってるって言ってたよ」
「えっ、そうなの。それでチセ母様もいないのね。まあ、いいわ。早く家に戻って来てって伝えてくれる」
アキナとアキトも、もう12歳になる。ボクも人の言葉を話せるようになった。他の子供達もすくすくと育っているし、この村も平和だ。
ボクはユヅキと約束した。これからもユヅキ達家族を守ると。ユヅキに受けた恩を少しでも返したい。ボクはユヅキのお陰でこんな楽しい毎日を送れているんだから。
あの日、故郷を離れ山を越えてこの大陸に来て良かったよ。ユヅキも時々、この世界に来たことに感謝していると言っている。人族の国ではない遠い故郷からここに来たと言っていた。
そしてボクとユヅキは巡り合って、今ではこんなに沢山の家族に囲まれている。この幸せを誰に感謝すればいいんだろう。
さあ、アイシャやカリンが怒り出す前に、ユヅキ達をパーティー会場に連れて行かないと。
今日もボク達の楽しいスローライフが始まるよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回で完結となります。
今後の事については、活動報告をご覧ください。
また、お会いできる日を楽しみにしています。