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第6話 二人の赤ちゃん

 ある日の明け方。誰もいない家の裏手の原っぱでユヅキが何かしている。いつもカリンが乗っている木の椅子に、新しく作った部品を取り付けているみたいだ。この木の椅子は、すごい速さで走る。まあボクよりは遅いけどね。


 人族であるユヅキは色々とすごい道具を作っている。今日は速く走る椅子の横に翼なのかな……赤く塗装された板をくっ付けた。お父さんの翼の半分ぐらいの大きさだけど、一体何をするのか分からず、近づいてよく見てみる。


「おお、キイエか。どうだ、すごいだろう。でもみんなには内緒だぞ。ちょっと危険な乗り物だからな」


 ユヅキは椅子にまたがり、新しく付けた窓ガラスを閉めて走り出した。ボクも一緒に横にならんで飛んでみる。するとその椅子が浮かび上がった。


「すごい、すごい。ボクと一緒だ!」


 そうか、ユヅキはボクと一緒に空を飛びたくて、こんな物を作ったんだ。でもすごいや。どうなっているんだろう、翼を羽ばたかせている訳でもないのに。


 隣でユヅキがすごくうれしそうにボクに笑いかける。ボクと一緒に飛べるこんな道具を作る人族ってすごいな。

 お父さんが言っていた事を思い出した。人族はボク達と同じように世界を滅ぼす程の道具を作る事ができるそうだ。だからその力を正しく使いこなせる人族を探しなさいと。その人とならずっと一緒に暮らすことができるって言っていた。


 ユヅキの作る道具はそんなに怖い物じゃない。その道具でボクと遊んでくれたりするし、この村は平和だ。ユヅキは道具を正しく使っているに違いない。

 アイシャやカリンやチセもすごく強いけど、みんなすごく優しい。いつも一緒にいてくれて家族のようだ。ボクはこの人達とずっと一緒に暮らしていきたい。



「ワァ~、これがアイシャとユヅキの子供か~。カワイイな~」


 アイシャが双子を産んだ。オオカミ族の男の子と、人族の女の子だ。

 ユヅキがベッドの近くまでボクを連れてきて、赤ちゃんを見せてくれた。

 ボクの手には鋭い爪があるから、指を曲げて指の背で触るようにユヅキが教えてくれた。眠っているほっぺたをそっと撫でてみる。


「やわらか~い。プニプニだ~」


 すごく小さいけど温かくて、ちゃんと息をしているよ。これが赤ちゃんか~。


 アイシャが子供にお乳をあげているところを見せてもらったけど、アイシャが幸せそうな顔をしてた。これが新しい家族。ボクもこの子供達を守っていかないといけないな。

 しばらくして、目が見えているのか「ダァ、ダァ」と言って、ボクの顔を見つめて触ってくる。ペロペロと頬を舐めると、キャッキャと喜んでくれた。


 ユヅキは透明な丸い筒に入れたお乳を子供に与えたり、子供を洗ってあげたりと忙しそうだ。この前は子供用のおもちゃだと言って、木で作った回る道具を赤ちゃんの上に取り付けた。ちょっと大きすぎたのか子供達の顔に落として泣かせてしまったよ。ユヅキはすごい道具を作れるのに、今回は失敗だったみたいだね。


 アイシャに怒られているユヅキも久しぶりに見た。代わりにボクが子供達の上を飛んであやしてあげると笑顔になってくれる。やっぱり赤ちゃんってカワイイな。


 ユヅキとアイシャの子供は元気に育っているよ。ボクが近づくと翼や耳を引っ張ってくる、しかもふたり同時だ。


「痛い、痛いからね」


 少し元気すぎるくらいだよ。


 そんなある日、ユヅキがこの村を離れてどこかに行くと言った。ボクもついて行くと言ったら、アイシャや子供達を守ってほしいと言われた。代わりにカリンとタティナがついて行くみたいだ。


 確かにカリン達ならユヅキを守る事ができるはずだ。そしてボクには、アイシャとその子供達を守ってほしいようだ。お互い言葉は分からないけど、気持ちは通じた。

 ユヅキが言うなら仕方ない。ボクも少しは強くなったからね。ちゃんと守ってみせるよ。

 アイシャは悲しそうな顔をしてたけど、「ボクがいるよ」と言ったら頭を優しく撫でてくれた。




 アイシャは最近、子供達にご飯を作っている。お乳以外にも食べ物を食べさせた方がいいそうだ。この村の偉い人の奥さんが時々家にやってくる。


「アイシャさん、この離乳食を1日1回食べさせなさい。後は今まで通りお乳をあげればいいよ」

「お乳っていつまであげるんですか」

「そうさのう。人にもよるが2歳位までお乳を飲む子もいるな。1歳を過ぎ、飲まなくなるまで与え続けなさい」


 なんだか子供達の話をしているようだけど、ボクにはわからない難しいことを言っていた。


「そろそろ、魔獣狩りや村の警備もしないといけないと思うんですけど。ユヅキさんも居なくなったし、私が頑張らないと」

「今では、自警団だけでも十分この村を守れておるよ。じゃがたまには運動も兼ねて警備に出るのもいいじゃろうて」

「はい、そうします。キイエも手伝ってね」


 アイシャはボクを抱いて話しかけてくる。どうも前みたいに、外に出て狩りをするみたいだ。


「赤ん坊の生活リズムも安定しておる。少々子供から離れても大丈夫じゃよ。外に出とる間はワシらが世話をしよう」

「ありがとうございます。いつも村の人達には、お世話になっています」

「いつも魔獣に怯えたり、飲み水の心配をしていた頃が遠い昔のようじゃ。これもあんたらのお陰じゃ。子供の事はワシらを頼ればええ。子供はこの村の宝じゃからな」


 アイシャやチセが家に居ない時は、近くの村人やボクが子供をあやしている。

 泣いてもボクが飛ぶだけで、泣き止んですごく喜んでくれる。ユヅキがいなくてもちゃんとボクが子供を守るから……ユヅキできるだけ早く帰ってきてね。


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