第4話 新しい住処
あれ、お風呂でもないのに今日はみんな服を脱いで裸になっているぞ。ああ、そうか。今日は暑いから、村に流れてる川で水浴びするんだね。家の中の温かい水浴びもいいけど、たまには冷たい水も気持ちいいものね。
この川は前まで毒が流れていて変な色してたけど、今は澄んだキレイな水が流れている。いつでも水浴びができて楽になったよ。
川の中でバシャバシャしてると、この村に住んでる小さな子供も川に入ってきた。最近はこんな子供ともよく遊ぶようになった。最初ボクを怖がってたみたいだけど、ユヅキと一緒に子供達と遊ぶうちに仲良くなっていった。
翼を広げて、水を掛け合って遊んでいると岸からいい匂いがしてきたぞ。
ボク達のご飯を作ってくれている。こうやって外でみんなと食べる食事も美味しいものだね。
今度の住処はいい所だ。シャウラ村と言うらしいけど、周りは深い緑の森に囲まれていて、生まれ故郷にも似ているし、ボクは気に入っている。魔獣が多くて大変なんだけど、何よりユヅキ達が毎日楽しそうだもの。
ここなら空を飛び回って鳴いても攻撃してこない。道をチョコチョコ歩いていたら、この村に住んでいる人が頭を下げて挨拶してくれる。
子供達はボクにベタベタ触って来るけど、小さな子供だからね。少しぐらいは我慢してあげないと。
いつものように村の周りを飛んでいると、カリンが東の林の向こうに消えていった。その先には森が広がっているだけで何も無いはずなんだけど……。
上から見ていると森の木を切り倒しているようだった。下に降りてみようかな。
「何だ、キイエか。驚かさないでよ」
「なにしてるの?」と聞いたけど、ボクの言葉は通じない。カリンの肩に乗って様子を見ていると、風の魔法を使って目の前の木を左右に倒していた。ここにまっすぐな道を作っているみたいだ。
「こっちなのよ。こっちからお魚の臭いがするの」
ビシッとカリンが指差す。何を言っているのか分からないけど、前にやっていた魔法勝負をするつもりなのかな。
「ボクも、魔法は上達してるんだよ」
炎のブレスを回転させながら一直線に吐き出す。炎は広がらずブレスの勢いで木が吹き飛ぶ。ほらね、真っ直ぐな道ができた。
「キイエもなかなかやるわね。今度は私の番よ」
そうやってカリンと交互に魔法で木をなぎ倒しながら、先へ先へと進んで行く。
森の奥から魔獣がこっちを見てるけど、大きな音に驚いているのか近寄って来ないみたいだ。近づくとカリンの魔法で黒焦げになってしまうのが分かっているのかな。
「今日はこれくらいでいいわ。キイエ、帰りましょうか」
そう言ってカリンはすごいスピードで村に向かう。もう日も傾いてきたし、急いで村に帰るみたいだ。
ユヅキ達はいつもゆっくりと歩いているけど、時々すごいスピードで走る。カリンが一番速くて、ボクも力を入れて飛ばないと追いつけない。
2日後、またカリンがいない。きっとあそこだ。ボクは林の東、森の一本道へと飛んでいく。
「来たわね、キイエ。でもこの事は誰にも言っちゃダメなんだからね」
今日もカリンが指差すその方向に向かってブレスを吐く。
「あれ、この匂いは……」
そうだ、これは美味しいイカのいる海の香りだ。そうか、カリンはここに来たかったんだね。ボクを肩に乗せたまま港町に入って、美味しそうな匂いのする家が並ぶ場所へと向かった。
「久しぶりの港町ね。やっぱこういう所にもたまに来ないと」
あれ、あっちからいい臭いがするぞ。
「生のイカが売っているわね。キイエはこれ好きでしょう。買ってあげるわ」
カリンがイカを3匹くれた。うん、うん。今日のカリンは優しいな。
「あんたはここで待ってなさい。私もちょっと魚料理を食べてくるわね」
カリンはウキウキしながら、どこかに行ってしまった。ここで待つような仕草をしてたから、ボクはゆっくりとイカを食べながら待つことにしよう。
帰りカリンが迷わないように、一緒に帰ってあげないとね。
その後何日かして、今度はカリンとユヅキが木の椅子に座ったまま、すごいスピードで東の森の一本道を走っていった。ユヅキはいつもすごい道具を作る。人族ってやっぱりすごいや。
今日ボクはお留守番で、アイシャ達を守る。夕方には、カリンとユヅキが帰って来て、お土産のイカをもらった。これは港町のおばさんが浜で作っていたイカだ~。
これも、なかなか美味しいよ。ユヅキ~、ありがとう~。