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第3話 港町

 ここは港町。夜にこっそりと宿屋を抜け出し海へと向かう。

 今日、ユヅキがおやつにイカという生き物を持ってきて食べさせてくれた。あれは美味しかった。海の中にあの生き物がいるそうだ。今晩捕りに行ってみよう。


 町を飛び回ると騒ぎになって怒られるけど、夜なら見つからないしいいよね。真っ暗な海を沖に向かって飛んで行く。


「何かな、あれ」


 海の上、船が出ているようだけどすごく明るい。海面もバシャバシャと何かが跳ねている。


「イカだ~」


 ユヅキに食べさせてもらった、美味しいイカが沢山いるぞ~。ボクも海に突っ込んで夢中でイカを頬張る。やっぱりこいつ美味しいや。


「お~い、なんか変なのが網にかかっているぞ~」

「何だこいつは、こんな魚見たことねえな」

「こいつは魚じゃね~ぞ、翼が生えている。ドラゴンじゃねえのか」

「ドラゴン? こんなちっちゃいのにか」

「おい、そいつは放っておけ。今はこの網にかかったイカを船底の生けすに入れるぞ」


 何だかボクの周りで、虎の獣人さん達が騒いでいる。ボクはイカを食べるのに忙しいんだから、少し静かにしてもらいたいよ。

 獣人さん達も忙しいのか、ボクを船の隅に置いて自分達の仕事に戻っていった。


 仕事が終わると網にかかったイカを、1匹ボクに手渡してくれた。この人は優しい人だ~。イカを受け取りムシャムシャと食べる。

 もう満腹だよ~。美味しかった~。お腹が膨れたら、なんだか眠くなってきちゃった。


「カカァ、変なもん拾ってきちまった」

「なんだい、こりゃ? 魚じゃないね。トカゲなのかね。それよりイカは捕れたのかい」

「ああ、大漁だ。先日ユヅキに教えてもらったランプを使った方法を試したが、上手くいったよ。で、これ全部干すんだろう」

「あれは美味しかったからね~、たぶん売れるよ。今から干して昼過ぎに売りに行ってくるよ」

「ああ、そっちは頼んだ。俺はちょっと寝かせてもらうぞ」

「お前さんは、今晩も漁があるんだ。ゆっくり寝ておいてくれりゃいいよ」



 んん~。もう朝? いや昼前かな。


「おや、起きたのかい。変な生き物さん。余った魚しかないが食うかい?」


 カリンとは違う虎の獣人さんで少し年を取っている女の人だ。その獣人さんがお魚をくれた。この人も優しい人だ~。

 その人と一緒に浜に出ると、立てた棒に何本もの紐を張っていて、そこには昨日食べたイカが吊るされていた。体を開かれて手を広げたようなイカ達が何匹も干されている。


 でもなんで、こんな事を……このイカ達、悪い事をしてお仕置きされたのかな? 虎獣人のおばさんが、そのイカを触りながら試案顔をしている。


「まだ、もう少しかね~。変な生き物さん、これは商品だから食べちゃダメだよ。おや、私の言ってる事が分かるのかね。大人しいもんだ」


 このイカはこの人達が捕った物だ。それを横取りはしないよ。お父さんにも他人の獲物を取っちゃいけないって言われているもの。それにボクはお腹減っていないしね。

 今度は椅子に座って、浜に置いてある網を広げて端の方から縫物をしている。いつもアイシャがやっている服の修理と同じだ。


 あの網は昨日イカを取っていた網だ。ボクも引っ掛かっちゃったけど、それの修理かな。

 網を広げるんだったら、ボクも手伝えるよ。こう見えてもボクは力もちなんだから。網の端っこを足で持って少し飛べば広げられる。


「おや、この子は利口だね」


 何だか褒めてもらえたようで、おばさんがボクの頭を撫でてくれる。昼を過ぎた頃には、仕事も終わったみたいだ。おばさんは浜に出て、干していたイカを手で触って感触を確かめている。


「こんなもんかね。もう引き上げてもいい頃合いだね」


 朝に干していたイカのうち何十匹かを紐から外して木箱の中に入れていく。今度はその木箱を小さな荷車に載せて、どこかに運ぶみたいだ。


「あんたも一緒に来るかい」

「キーエ」

「そうかい。この浜にひとりじゃ寂しいものね。この荷車の隅に座ってな」


 おばさんの引く荷車に乗って街中を移動する。ユヅキ達は街中に出て何か調べているようだった。僕はいつもお留守番だったからね、これなら驚かれずに街中を見て回れるよ。

 小さなお店が並ぶ道をガタゴトと揺られながら抜けていくと、荷車が家の前で停まった。あれ、ここ知ってるぞ。冒険者ギルドだ。アルヘナの町にあったのと同じだ。

 おばさんが荷車に積んでいた木箱を持って中に入って行った。僕はこの荷車に乗ったまま、窓から様子を覗う。


「こんにちは。ここの酒場の責任者に会いたいんだけど」

「はい、しばらくお待ちください。サブマスター、お客さんですよ」

「あんたが責任者の人かい。ここで売ってもらいたい酒の肴を持ってきたんだけど。どうだろう、見てくれないかい」


 おばさんは浜で干していたイカを1枚カウンターに置いた。


「ほほう、こりゃ珍しい干物だな。ちょっと食べさせてもらうぞ」


 そのイカはね、すごく美味しいんだよ。 


「なかなか美味いな。確かに酒の肴にはいいかもしれんな」

「これは半生で2日程しか日持ちしない。客に出す前に少し炙ると、香ばしくてもっと美味くなるよ」

「なるほど。このままでも美味いが、そういうのもいいかも知れんな」

「今日はお試しで、少し安くしとくよ。ここで買い取ってくれるかい」

「おう、それなら20枚もらおうか。今晩から出してみるとするよ」

「ありがとよ」


 おばさんが持ってきた物が売れたみたいだ。別に干さなくても生のイカでも美味しいのに。

 おばさんと2軒ほど他のお店を回ってから、また浜に戻って来た。

 そろそろ夕方だ。宿屋に帰らないと。


「おや、もう帰るのかい。また遊びにおいで」


 おばさんがまた、お魚をくれた。やっぱりいい人だ。また来るよ。



「おかえりなさい、キイエ。なんだかご機嫌ね」

「あっ、キイエからお魚の臭いがするわ。いえ、イカかしら」

「あたし達がいない間、海にでも行ってお魚を捕っていたんじゃないですか? 師匠、ご飯ですよ〜。キイエも一緒に夕食にしましょう」


 うん、うん。この人達と一緒だと安心するな。こんな遠い町まで旅して来たけど、これからもずっと一緒だよ。


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