遅刻魔少女と時計少年
試験勉強の痛みに耐えられず、ついかっとなってやってしまった。本当に済まないと思う。
「いつか、こうやって過ごせるって信じてた」
俺の背中に背を預け、そのように少女はつぶやいた。
満天の星空が咲くこの河川敷で、ふたり、お互いの鼓動が聞こえるくらい静かな夜。
俺は、ようやく自分自身を許すことができると、そう思った。
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「1時間と12分47秒の遅刻だ、先崎」
俺の前にいるこの少女は、先崎唯 18歳、俗に言うLJKというやつだ。
「ごめんごめん田中、ちょっと用事があってさ」
悪気はないんだよ、と言ってはいるが、こいつは遅刻常習犯、つまりは遅刻魔だ。
一応紹介として、俺は田中正義っていう名前の18歳 先のように言うとLDKだ。間取りじゃないぞ。
「用事って、どんな?」
1時間も遅れる用事だ、気になりはする。
「ちょっとトラックに引かれて異世界に…」
「そうか、ならいい」
「いいのかよ!本当にそれで、いいのかよ!」
「季語がないな」
「俳句でもないし!」
彼女のツッコミの熱量はすさまじい。
「…では、行くか」「うん、行こうか」
お決まりの流れを済ませ、目的地の水族館に向かうことにした。
先に言っておくが、俺は彼女の遅刻癖に文句をつけるつもりはない。何故なのか、とは思うが。
「おおっ!すごいねこれは!カラフルなクラゲか!」
水族館が大のお気に入りの先崎は月の1回のペースで俺を誘って水族館に来る。
以前に飽きないのか、と聞いては見たが季節や時間で変化する魚たちの生態が、やらなんやらで素人にはサッパリだ。
ただ、この目の輝いた様を見れば、楽しんでいるのは明らかだった。
「ああ、うまそうだな」
クラゲ、酢で食べたらうまそうだ。
「いや来て早々それ!?何、お腹すいてるの?」
素早いレスポンス。やるな先崎。
「2日前から水呑み百姓と化している」
「水呑み百姓って絶対そういう意味じゃないよね!?」
「「「いや、ツッコむとこそこかよ…」」」
来場者の全てが、そう言った。
「イルカショーだって!行く?」
彼女の大好きなもの、それは水族館ではあるが、その中で一番好きなものは、イルカであった。
「ああ、行こうか…そうだな、開催まであと18分後の15:00…5分残しで到着するだろう」
俺の計算力に恐れをなしたのか、先崎は驚いた様子で話す。
「相変わらずナビみたいだね、君は?」
「鍛え方が違うからな」
「鍛えればナビみたいになれるのかい…」