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6 フェネックとお散歩1

 唯はおにぎりを5個買った。具はいくら、しゃけ、昆布、明太子、梅を選んだ。


 唯がソファーに座って、ローテーブルの上でおにぎりの包みをはがすのを、小弥太(こやた)が床に座りじっと見ている。


 どれを選ぶかと思ったら、いくらとしゃけをくわえていった。どうやら、小弥太は高い具が好きなようだ。 


 残った明太子を食べようとすると、小弥太に横から奪われた。どうもこのフェネックは飼い主の手から食べ物を奪う習性があるようだ。諦めて昆布に手を出すと、フェネックが「キュウキュウ」鳴きながら、ころげ回った。


「小弥太、どうしたの?」

 舌を出してぴちゃぴちゃと水を飲み始めた。


「辛かったのね」

 そのくせ、明太子のおにぎりは食べきっていた。食い意地が張っている。


 一人と一匹で朝食をとっていると唯のスマホがなった。大学での数少ない友人、原田舞香(はらだ まいか)だ。


「もしもし」

「ちょっと唯、覚えてる? 今度の水曜の二時からだよ」

「え?」

「ほら、占いの予約だよ。あんたが言ったんじゃん。東京来てから、ずっとついてないし、変な悪夢ばかり見るから、私がよくいくところで占って欲しいって」


「ああ、そうだ。ありがとう」


「もう、忘れてたの? 人気の占い師で予約とるのたいへんだったんだから。私、その日いけないけれど忘れずね! 原田がよろしくって言ってたって、瑞連(ずいれん)さんに伝えといてね」

「了解」


 占い師は瑞連と言って、舞香はそこの常連だった。瑞連は霊感が強くて、場合によっては、お祓いもしてくれるらしい。


 占い処の裏には神社があり、そこは瑞連の実家なのだそうだ。なるほど、いい商売だと唯は思った。見料は二千円。唯は占いは初めてなので相場は分からないが、舞香が言うには安いらしい。


 しかし、舞香が行く一番の理由は瑞連がイケメンだからだそうだ。


「で、嫌がってた合宿どうだった?」

「ああ、それねえ。途中までうまくいっていたんだけれど、最終日にちょっといろいろと……」

 唯は合宿でのことをかいつまんで話す。


「また面倒なことに。災難だったね。だからさっさとやめればよかったのに」

「舞香は、見切りつけるの早かったよね」


 彼女はサークルに入ってひと月もすると「やばいって、ここ。あんまり雰囲気良くないよ。多分揉める。私、やめるから」と言ってから三日後にはやめてしまった。


「まあね。私、そういう勘だけは働くんだよ。それに私は唯みたいに阿藤先輩や敷島先輩にとめられなかったからね。いいじゃん、唯は人気なんだよ」


 舞香が調子のよい事を言う。


「違うって、舞香がやめるとき3人くらいまとめてやめたじゃん。私一番最後になっちゃってやめるにやめられなくなったんだよ。ってか逃げ遅れただけなんだけど!」


「あはは、そうだっけ、ごめん、ごめん」

 と笑いながらいう。


 唯の同級生の女子は、マリヤともめてサークルをやめた者が多い。マリヤは最初はとても感じがよく人当たりがいいが、徐々に本性を現していく。ちょっとやっかいな女子なのだ。

 その後、舞香と十分ほど話すと電話を切った。


 電話を切ってから視線を感じ、ふと見るとフェネックが耳をピンとたてて、唯をみていた。まるで電話の内容を聞いていたように。


「そうだ。小弥太、お散歩しない?」

 唯の言葉にフェネックが首をかしげる。


「みてみて、高かったけれどリード買っちゃった! つけてみる?」


 昔飼っていたむく犬の小弥太と散歩するときにはリードなどつけなかったような気がする。だが、ここは唯が育った田舎ではない。東京だ。放し飼いで散歩しているものなどいない。犬ではなくフェネックだが……。


 フェネックは首輪を嫌がるかと思ったが、されるがままで、唯はあっさり装着出来た。


 真っ白で毛足が長いので、青い首輪が似合っていて、とてもかわいい。ちょっと首輪は奮発してしまった。早くバイトをしてフェネックに服に買ってやりたい。


 もちろん、小弥太が嫌がらなければだが。


 唯は昨日改めてマンションの規約を見てみたが、小型犬はOKで猫と爬虫類が禁止となっていた。家主の趣味の問題なのだろうか? とりあえずフェネックは小型犬みたいなものなので、大丈夫だろうと勝手に解釈することにした。


 管理人室の前を通ると管理人の西田(にしだ)に声をかけられた。


「あれ? 高梨さん、それペット」

「え! あ、はい」


 いきなり見つかってしまいどきどきした。フェネックはOKなのだろうか。勝手に規約を拡大解釈していたが、駄目だと言われたらどうしよう。引っ越し?


「ん? あれ、それ犬じゃな……」

「きゃんきゃん!」

 西田の言葉を遮り、まるで小型犬のように鳴くフェネックを見て、唯は目を丸くした。


「ああ、小型犬か? なんだろ、パピヨンともちょっと違うような」

「あの、えっと雑種です」


 この際だ。誤魔化すことにした。


 ――小弥太、偉いぞ! というか小弥太賢すぎ……。 


 ほんの少し背筋がうすら寒くなった。


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