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4 合宿終了、その後

 唯が目を覚ますとすっかり朝だった。畳に敷かれた布団から体を起こすと、頭がガンガン痛む。


「よかった、唯、目を覚まして」

 副会長の敷島(しきしま)かおりだ。

「あれ、私」

「まったく、阿藤の奴調子にのって、こってり叱っといたから!」

 かおりは昨夜23時には部屋に引き上げたので、肝試しには参加していなかった。


「やだ。私、気絶しちゃったんですね」

 後で何を言われることやら。

「いやいや、このまま目覚めなかったら、病院に連れて行こうかと思ってたよ。

 もう、ここチェックアウトしなきゃだけど、動けそう」


「はい、大丈夫です。ご迷惑おかけしました」

「いやいや、私は構わないんだけどね。マリヤに気を付けた方がいいよ。物凄く怒ってるから」

 かおりが気の毒そうに言う。


「え?」

「昨日村瀬君が、唯を宿まで運んできてくれたんだよね。御姫様抱っこで」

「ええええ! そ、それは面倒くさい事になりそう……」

 ありがたいと思うよりショックが大きいし、気が重い。


「いや、そうだけど。あんた、村瀬にちゃんと礼を言うんだよ」

「はい」


 礼を言うのは筋だ。ただ、マリアが怒っているのだろうなと少し憂鬱になる。他の女子たちも村瀬に話しかけているのに、なぜかマリヤは唯を敵視して来る。


 実はそういう人間関係が面倒で一年でやめようと思っていたのだが、会長の阿藤と前会長の丸越、かおりに説得されて今に至っている。


 一刻も早くこのサークル辞めようと唯は胸に誓った。合宿で金を使った上に嫌な思いをしたのでは世話がない。


 それにしても酔っ払い阿藤は、なぜ肝試しとか思いついたのだろう。どうせなら、最終日の夜は花火でもして締めくくれば良かったのに。




 ♢


 ターミナル駅につき、唯はその後も阿藤や村瀬たちに茶を飲んで帰ろうと言われたが、具合が悪いと言って断った。


 ひとりキャリーバッグを引きずり、電車にのった。20分後には自宅最寄り駅でコーヒーを飲んで一息ついた。


「はあ、やっぱり、一人って落ち着く」


 とかく刺激の多い都会は苦手だと思った。だから、駅から十五分程度歩いた先にあるアパートに住んでいる。もう少し便利なマンションにも住めたが、すぐ近くに広い公園があるのが気に入ったのだ。


 公園の奥には地元のお寺があるので、こんどお参りに行こうと思う。あまりにも不幸続きだからお祓いをしてもらうのもいい。


 合宿に参加する前にバイトも首になったばかり……。

 これで祠の祟りなんてないといいけれど。

 

 途中で気を失ってしまったから分からないけれど、少なくとも唯は神域には入っていないと思う。




 今日は疲れたし荷物もあるので自宅マンションまでバスにのった。


 バス停から、マンションまでは歩いて五分もかからない。エントランスを抜け郵便物をチェックしてエレベータへのり、三階まで上がる。左から、6番目の角部屋が唯の部屋だ。


 ドアを開けると三日間留守にしたせいか部屋にはむあっと夏の熱気が籠っていた。早速クーラーをつけて、水を一杯飲む。

 1LDKの部屋はあっという間に気温を下げた。


 午後七時、もう休みたいが、まず荷解きをしようとキャリーバッグを開ける。

 すると中から、ポンと白いものが飛び出して来た。


「きゃあ! 何? なんなの?」


 慌てて飛びのくと、白くもふもふしたものがじっと唯を見つめている。床にちょこんと座る犬とも猫ともつかない小さな生き物がいた。


「え? うそ、フェネック?」


 少し前にペットショップで見たことがある。でもたしかあれはキツネ色をしていたと思う。


「フェネックだよね?」


 今、目の前にいるのは真っ白だ。なぜ、キャリーバッグに入っていたのか疑問だが、なによりもフェネックの可愛さに心を打たれた。


「か、かわいい。ものすごく可愛い」

 ゆっくりと近づく。怯えて逃げ出す気配はない。恐る恐る手を伸ばし、その毛並みに触れる。柔らかく温かい。フェネックはきょとんとした金色の目で唯を見返すばかりで、ぬいぐるみのように動かない。


「生きているよね?」


 するとまるで人の言葉がわかっているかのように、フェネックはコクリと頷く。


「そういえば、どこからついて来ちゃったの? なんでキャリーバッグに?」


 唯は合宿先からここまでキャリーバッグを開けることは無かった。という事は宿からついて来てしまったという事か? それとも誰かのキャリーバッグと入れ替わってしまったのか。






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