29 追いかけられて3
「ああ、私そういえば村瀬君にしめ縄の中に入るよう誘われた」
「そいう事だ。瑞連や瑞穂ならば絶対に犯さない愚だ。だが、そのせいで俺の封印が解けた。誰かが、唯を神域に引っ張ってくれたおかげなのだが」
唯が小弥太の言葉に首を傾げる。
「ん? ちょっと待って、小弥太の封印って私のせいでとけたの? 阿藤先輩がお札をはがしたからじゃないの?」
「札をはがしたのもあるが、お前が近くにいたからだ」
「嘘でしょ? なんで?」
「縁があったのだろう」
「縁ってどういうこと?」
「今はそんな事より、考えることがあるだろう。村瀬の正体が気にならないか? どうもあいつの行動は不自然だ」
「小弥太は何にそんなにひっかかているの? 私はそんなことより……」
「あいつは胡散臭い」
「ああ、同意。私も助けてもらっておいてなんだけれど、それは思っていた。なんか爽やかな笑顔を貼り付けたようで、胡散臭いんだよねえ」
唯は自分でも酷いことを言っている自覚はあった。
「それで、なぜ、お前は、マリヤという女にあれほど恨まれているんだ? なまなりになるなど半端な恨みではないぞ」
「だよね。ちょっとショック、普通なら刺されていそう」
「妖の関与があり増幅されたのだろう。それと、村瀬がおおかた、その女を煽ったのだろう」
「へ? 煽ったって。もしかして、私と村瀬君がつきあっているって?」
「村瀬がそうし向けたということはないか?」
「まさかあ」
さすがに信じたくない。第一そんなことをしても村瀬の特にならないだろう。
「素養があって、悋気の強い者は、なまなりになりやすい」
「やだ。なんでそんな難しい言葉使うの。 で、村瀬君がマッチポンプだって言いたいの? でも、それはさすがにないんじゃないの?」
「考えるには材料が足らない。あいつには注意しろ。必要以上に関わるな」
「それは分かってるけれど、助けてくれた借りがあるから、困ったな」
ご飯ぐらいおごらなければならないかなと思っていた。どうも人に借りがあるのは落ち着かない。
「自分から関わるな。上手くさけろ」
「頑張ってみる。ようは村瀬君とばったり出くわさなければ、いいんだよね。なんか小弥太、探偵みたい」
「ふん、この時代では馬鹿な刑事に代わって子供姿の探偵が活躍するのだろ?」
小弥太がしたり顔で言う。
「小弥太テレビの影響受けすぎ、相当気に入ってんだね」
本当に小弥太はテレビが大好きだ。
「大丈夫。ここが、凝った殺人事件で毎週何人も殺される土地だということは把握している」
「違うから! それアニメで想像の産物だから!」
「まあ、道端に骸が転がっていないだけ平和だということか」
「道端に骸って……。ねえ、実はけっこう思い出しているんじゃない」
「疲れた、俺は寝る」
そういって小弥太は再び子ぎつねになってしまった。
「ちょっと小弥太! ずるいよ。本当はいつでもスイッチ出来るんじゃないの?」
♢
大学に行くと、何後もなかったのように平穏無事に授業を受けた。
小弥太を大学に誘ったが、しっぽを振ってテレビを見ていた。
学食で舞香とご飯を食べていると、阿藤がやって来る。
「唯ちゃん、行方不明だった瀬戸が大学内で見つかって。大けがを負って病院に運ばれたって知ってる?」
といいながら、唯の隣にがたりと座った。
「ええ? 瀬戸さん行方不明だったんですか? そんな噂聞いていませんよ」
確か村瀬は一年二人が発見されたことについては、公表されていないといっていた。
「阿藤先輩、そんな話しても大丈夫なんですか?」
唯は彼の口の軽さが心配になって聞いてみる。
「ああ、平気平気、もう警察も結構大っぴらに聞いて回ってるから。もう噂は広まってるんじゃない? 何せ見つかったのは大学構内だしね」
なんでもないことのように軽く手を振る。むしろ阿藤が広めているような気がする。多分悪気はないのだろうが……。
「もう、俺も何がなんだか分からないよ。サークルから三人もいなくなって、おかしな状態で見つかるなんて」
「え? おかしな状況って?」
舞香がびっくりしたような顔をする。彼女は何も知らない。
「何か警察からきかれたんですか」
唯は聞いてみた。
「今朝警察が来て、今解放されたよ。サークル内でなにかあるんじゃないかと痛くもない腹をさぐられてさあ」
「かおり先輩もですか」
「うん、敷島はよく、瀬戸の相談に乗っていたらしい」
「え? かおり先輩が」
唯にとっては初耳だった。
「ああ、それ、私も見ました。なんだか、真剣な表情で、学生館のロビーで話していました」
と舞香が言う。
知らなかった。かおりは唯と折り合いの悪いマリヤとの板挟みになっていたのかもしれない。
「かおり先輩、大丈夫ですか?」
「うん、あいつも疲れているみたいだけれど。唯ちゃん、俺の心配はしてくれないの?」
「そうですね。先輩もお体に気をつけて。今日はもう家休んだ方がいんじゃないですか」
と言って唯は微笑んだ。このままだと阿藤が大学中に噂を触れ回りそうだ。
まだ、阿藤ははなしたそうだったが、舞香が気を利かして、「私達これから、明日締め切りのレポートやらなきゃなんで」と唯を連れ出してくれた。彼女もあまり校内の噂話は好きではない。
大学の廊下を歩きながら舞香が言う。
「食堂であんな大っぴらに話していいのかなあ。唯、あんた、サークルやめたんじゃなかったの? どっぷりつかっちゃてるけど。平気?」
「うん、マリヤが私のこと恨んでるから、そのことが尾を引いているみたい」
「だって、あんた、別に何にもしてないじゃん」
「そうなんだけどね」
「もてる女も大変だね」
舞香が同情したように言う。
「だから、それが誤解なんだって、私もててなんかないよ。それだったら、マリヤや明美ちゃんの方がずっと人気だったよ。あの子たち、男子と個別に遊びに行ってたみたいだし」
「個別にって、阿藤先輩と二人でのんだり、井上君と二人で遊び行ったりってやつ」
「そうそう、マリヤも明美ちゃんもやってて、明美ちゃんなんか、『唯先輩も気軽に付き合えばいいのに』て言ってた。でも、その気軽にっていうのが、よくわからないんだよね」
「あんたって、おめでたいというか」
舞香が呆れたように言う。
「え? おめでたいって?」
「それ間に受けたの? 嘘に決まってるじゃん。たいだい、阿藤先輩ならまだしも井上君はそういうタイプじゃないじゃん」
「でも、ツーショットの写真見せられたよ」
「それはあんたが参加しない飲み会で撮ったんでしょ」
「やだ。やめてよ、舞香。怖いこといわないでよ。人間不信になりそう」
「何ってんのよ。ただの女同士のマウントよ。大丈夫、私がいるでしょ? それとあいつらの話にいちいち付き合う必要はないよ。サークル辞めたのに呼び出されるなんておかしいよ。嫌だからやめたんでしょ? 付き合う必要ないって。
それと舞香は随分敷島先輩を信用してるみたいだけど。あの人ちょくちょくあんたのこと利用している気がする。兎に角気をつけな」
「うん、わかった」
唯は神妙に頷いた。
――東京って妖はいるし、へんなマウント合戦はあるし、なんだか怖い。




