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27 追いかけられて1

 十メートルほど先に、白装束の髪の長い女がいる。浴衣ではなく白い着物。髪は長くぼさぼさで、女の顔は隠れている。学生の悪戯だろうか? それにしても趣味が悪い。



 唯は足早に通り過ぎようとしたが、着物女が行く手を塞ぐようにゆっくりと違づいて来る。女は面のようなものをつけていた。般若の面。そして、どういうわけか白い着物の合わせが逆。


 無言でゆっくりと動き、唯の行く手を阻む。いつもなら腹が立つところだが、さすがに気持ち悪い


「ちょっと、何なの」


 怖くなって、声をかけてみる。悪戯ならばやり過ぎだ。


「ウグググ」


 着物の女が、くぐもった唸り声をあげ唯はぞっとする。その瞬間、体は、金縛りにあい動かなくなった。


(嘘でしょ! なんで?)


 唯は焦った。

 逃げなくてはと本能が危険を告げるのに体は指一本動かせない。


 そうしている間にも白い着物は迫って来た。そして近づくにつれ、女の長く垂れた髪の間から、こぶのようなものがみえてきた。


(もしかして、角、本物? まさか……面じゃなくて本物?)


 唯が恐怖と焦りで満たされていく間にも女はゆっくりと近づいて来る。


 生臭い匂いが充満し、やがて女の土気色の手が唯の元にゆっくりと伸びて来た。身体が、動かないうえに、恐怖に目を閉じることも出来ない。


 シュウと女が生臭い息を吐く。唯は吐き気を催した。

 その手が唯の首に届く間際、


「ウーっ」


 と低くうなる声がした。その瞬間唯の金縛りは解ける。


「小弥太!」


 振り返ると小さなフェネックがしっぽをピンと伸ばし、白銀の毛を逆立てていた。唯は小弥太の元に駆けだした。小弥太を抱き上げると全速力で走る。


 小弥太はまだ白装束の女に向かって歯を剥きだして唸っている。


「駄目だよ。小弥太、おとなしくして」


 唯は女に向かって行こうとする小弥太をぎゅっと抱きしめて走った。


「待で ごぉら」


 着物の姿の女が、男とも女ともつかぬ、ガラガラの声で叫ぶ。今までゆっくり動いていたのが嘘のように速い。カランコロンと下駄の音を響かせて、追ってくる。



 唯も恐怖のあまりいつものように体が動かない。走っている自分の動きが、まるでスローモーションのように感じる。


 すぐに白装束の鬼が後ろに迫ってきた。長く鋭い爪の生えた青黒い手が伸びてくる。


「ひっ」


 あともう少しで肩をつかまれるというところで白銀の残像が。


 小弥太が、唯の腕をすり抜け、鬼の顔面に体当たりする。鬼が長い髪を振り見出し、さらに口から生える鋭い牙が長く太くなる。面なんかじゃない。本物の鬼、本能的悟った唯は腰が抜けて座り込んでしまった。


 一方、小さなフェネックは逆毛を立ててうなり、鬼を威嚇する。鬼からのプレッシャーで唯の体は重くなり、地面に沈みそうだ。


「小弥太! やめて、逃げて!」


 何とか声を振り絞る。


 しかし小弥太は果敢にも弾丸のような猛スピードで鬼への体当たりを繰り返す。しかし、三度目に鬼の顔面に届く直前、かぎづめのような鬼の手で小弥太の小さな体が振り払われた。


 子狐は軽く飛ばされ、地面に打ちつけられ、毬のようにバウンドする。子供の頃、唯を守って死んだ犬の記憶がフラッシュバッグした。


 小弥太が死んじゃう!


「やだ……やめてっ! 小弥太!」


 唯は小弥太の元へにじり寄る。小弥太はぐったりとしていた。それを見た唯はふつふつと怒りが湧いて来た。怒りが恐怖を凌駕した。


 許せない。許せない。許せない。


「小弥太に何するのよ! この化け物!」


 ぎゅっと小弥太を抱きしめる。これ以上彼を傷つけさせない。絶対に守らなくては。


 鬼からのプレッシャーをはねのけ、小弥太を抱いて立ち上がり、走った。ところがどれほど走っても、一向に校門にはつかない。


 気付けば同じところをぐるぐると走り、鬼が唯を追う雪駄の音が近づいて来る。


「うそ、どうなっているの? なんで、どうして出られないの」


 気持は焦って行くが、立ち止まったら追い付かれてしまう。


「高梨!」


 その時、唯を呼ぶ声が響いた。目を向けるとさっと視界が開け、探し求めた校門があり、そこに村瀬がたっていた。




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