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10 小弥太と寄り道1

 実際その客から交際を申し込まれたが、唯はきっぱりと断った。それからストーキングが始まったのだ。


 背後に気を付けているので、自宅はバレていないと思う。


「まあ、それもこれからは大丈夫でしょう」

「え? お祓いしてもらったからですか?」


「それもありますが、そのお狐様が見守ってくれていますから」

「小弥太が?」

 瑞連が深く頷く。

「はい、素晴らしいボディガードになると思いますよ」

 小弥太は唯の隣に座って、出されたほうじ茶を飲み、茶請けの水ようかんをもぐもぐと食べている。どうみて綺麗なことを差し引けば、タダの子供だ。


 すると小弥太とかちりと目が合った。吸い込まれそうな琥珀の美しい瞳に白銀に輝く髪。やっぱり普通じゃない。


「唯、食わないのなら、お前の分の水ようかんもくれ」


 我がままで、マイペースなお狐様だ。やはりただの子供としか思えない。守られている実感などなく、どちらかというと守ってやらねばと思わせる。


「そうだ。高梨さん、バイトがまだ決まっていないのなら、うちで働きませんか?」


「え、本当ですか!」

「社務所にちょうど欠員がでていて、掃除が主で、お茶出しの雑用ですが、どうですか?」


「ぜひ、使ってください! よろしくお願いします」

 唯は食べ盛りの小弥太の食費を稼がねばならない。渡りに船だ。


「それから、妖を飼っているなどと人には言ってはいけませんよ」


 ちらりと舞香の顔が浮かぶ。


「えっと、それは頭がおかしいと思われるからですか? 友人には言っても大丈夫ですよね?」

 きっと舞香なら、信じてくれる。


「やめておいた方がいいですよ。高梨さんは陰陽寮というのはご存じですか?」


「おんみょうりょう? 陰陽師とかそんな感じのものですか? テレビとか映画でやっていたような……」


「ええ、映画や小説で出てくるアレです。安倍晴明が有名ですよね。実際に存在していました」


「ああ、平安の頃でしたっけ? 昔のはなしですよね」

 

唯もうろ覚えだ。あまりそっち方面には興味がなかった。


「もし、それが今もあるとしたら?」

「え? まさか」

 にわかに信じがたい。


中務(なかつかさ)省陰陽寮がいまだに存続しているという噂を聞いたんです。氏子さんからですけれど」

「なかつかさ省?」


 確かこの国の省庁は1府11省2庁だったような気がする。中務省など聞いたこともない。歴史でちらっと習った気がする。唯の記憶も定かではない。


「ただの噂ですが、妖を監視している者たちがいるという話を聞きました。それから、狐様の道案内には気を付けて」

「狐様の道案内?」


「はい、こちらが近道だと言われても絶対について行っては駄目ですよ」

「小弥太が道案内ですか?」

 

 道案内できるとは思えない。


「はい、珍しい草があるとか、いろいろなことを言って誘ってくるでしょう。狐はとても悪戯ですからね。それから、よかったら、バイトの時は狐様も同伴でどうぞ」


「え? 小弥太も連れてきていいんですか?」

「本人が来たいといったらですけれど」


 そう言って占い師はふわりと笑った。唯が思わず隣の小弥太を見る。彼はうまそうに水ようかんを食べていた。


 帰りは少年姿の小弥太と帰った。当然エコバッグには入らないので、バス代も電車代もかかった。小弥太の見た目は9歳から10歳くらいだ。連れて歩いているとすれ違う人が振り返る。小弥太の容姿はとびぬけて美しい。

 

 唯は慌てて途中で帽子を買って、被らせた。綺麗な顔に銀髪など目立ちすぎるが、彫りの深い狐顔の小弥太にはそんな色がよく似合っていた。


 どこの国の者とも分からない不思議な顔立ち。


 しかし、服装は紺絣の着物に兵児帯。この時期だと祭りに行く子供に見えるところが救い。それに今は帽子をかぶりどこかちぐはぐだ。冬はどうしよう?


 最寄り駅に着くと小弥太が、うどん屋のチェーン店を指さした。


「唯、俺はあれが食べたい」

「ええ、小弥太お家まで我慢できない?」

 小弥太を連れて歩くのは目立ちすぎる。


「出来ない」

 わがままなお狐様だ。


「さっき二つも水ようかんを食べたでしょう?」

「あんなもの腹の足しにもならん」

「しょうがないな」

 唯もこういう店には初めて入る。まず店の外で食券を買わなければならない。


「小弥太は何が食べたい? やっぱり狐うどん?」

「何? 狐うどんだと?」

 小弥太が、不機嫌そうに柳眉を上げる。


「そう、狸うどんもあるよ」

「ならば、狸を食らってやろう」

 満足そうに言う。


「はいはい。冷たいのと熱いのあるけれどどっちがいい」

「冷たいの」

 唯は券売機のボタンを押した。


 小弥太は上手に箸を使い、美味しそうにうどんを食べた。

 ふと唯の食べているものに目を向ける。


「その上に乗っている小判のようなものはなんだ」

 小弥太は好奇心旺盛のようだ。主に食に関して。


「コロッケだよ。食べてみる?」

 小弥太に半分コロッケをやると嬉しそうに食べた。


 言葉遣いは奇妙でものの言い方は上からだが、根は素直な子供のようで安心した。琥珀の瞳も澄み切っている。


「ねえ、小弥太って、いくつなの?」

「年齢を聞いているのか?」

「そう、それとも年齢なんてないの?」


 物の怪や妖のたぐいは年齢など気にしないのだろうか。


「わからん、目が覚めたら、お前が目の前にいた」


 小弥太が興味なさそうに言う。彼はどれくらい封じ込められていたのだろう。あの祠は随分と年季が入っていた。




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