1,肝試し1
「この近くに心霊スポットがあるって知ってた?」
バドミントンサークル会長のお調子者の三年阿藤祐司がウノの最中にそんなことを言いだした。
「おい、大丈夫か? 立ち入り禁止とかじゃないよな」
四年生の丸越保が心配そうに言う。彼はサークルを引退したにも関わらず、就職が決まったからと今回の合宿という名の飲み会に参加している。
「はいはーい! 私行きたいです。村瀬君も行くよね」
と唯と同じ二年の瀬戸マリヤが、サークルで女子に一番人気の村瀬渉に声をかける。
唯はそれを面倒くさそうな目で眺めていた。マリヤは村瀬が大好きだ。他の女子が村瀬と話そうものなら、怒りの形相で睨みつけられる。
総勢十名のサークル合宿、正直、気乗りがしなかったが、急遽欠員が出たせいで人数合わせで強引にいれられてしまったのだ。
「あ! 唯先輩も行きますよね?」
後輩の一年生の山野明美が声をかけて来る。
「いや、私はいいや。お風呂にでも入って寝るから」
早速さっくり断った。現在午前零時を回ろうとしている。こんな時間に出かけたら、それこそ蚊の餌食だ。
それでなくとも古い木造の宿の周りに雑木林が広がり近くに川まで流れている。蚊が多いに決まっている。
もともと来たくもなかった合宿だし、明日でやっと帰れると言うのに蚊に刺されてボコボコになるはいやだ。
それに唯はとっくに寝ているはずだったのだ。それがたまたま参加したウノで勝ち続けて、抜けるに抜けられなくなった。
「勝ち逃げすんなよ」
と会長の阿藤に引き留められ、すっかり遅くなってしまったのだ。
皆が肝試しで盛り上がっているところ唯は静かに席を立つ。
「え? 高梨、行かないの?」
村瀬が声をかけて来る。その横で同級生の瀬戸マリヤが唯を睨みつけて来る。
「はい、もう眠くなっちゃったんで」
本当は眠くないが、肝試しなんて参加したくないし、マリヤが面倒くさい。
「えー! 高梨、来ないの?」
同じ二年の井上武が言う。
「高梨先輩行きましょうよ」
一年で茶髪の幸田太一が誘ってくる。
「何言ってんのよ。唯はもう寝るって言ってんじゃん。みんなしつこいよ」
とマリヤが言う。今回はナイスアシストだ。唯はマリヤの言葉に甘えて寝ることにした。
「ああ、だめだめ、高梨はウノで勝ち続けたから、絶対参加!」
会長の阿藤が叫ぶ。その隣で前会長の丸越もうんうんと頷いている。
これで唯の参加が決まった。
色々と面倒くさい。唯は密かにため息を吐く。
東京に帰り次第、このサークルを今度こそやめると決意した。