チクリン
寒風に震える手に
煙草の火は意味無く燃ゆる
腰からの風が
全く無いようにしても
冷たさは貫通し
肌に張り付く
手では持てないほど
温度差のある缶コーヒーは
太ももの隙間で
カイロと化している
次の電車までは
この田舎駅で待たねばならない
待合室など無い簡素な作り
自販機があることが
唯一の救いであった
日のわからぬ雲を
随分と眺めたが
一向に照り始めることは無く
太陽は使えない塵として
今日は処理された
三本目のタバコに火を付け
ぬるい缶コーヒーを開けた
舌で糖分がはっきりと分かる
甘ったるい液体は
喉奥に吸い込まれ
とりあえずのエネルギーとなり
時間を潰す為に思考する頭を
従順にサポートする
欲しくはないのだが
必要なものだったと思い
中身が消えるまで
煙草と合わせて味わった
腕時計と時刻表が
行ったり来たりした映像が
見えてくると
大分、待ち疲れしていることに
気がついた
到着時刻は5分ほど過ぎている
直線の線路には
姿も形も見えてこない
遠くを眺めていても意味は無い
電車が来たように
錯覚することもある
見たいものを見ようとするからだ
それから10分後
ようやく目の前に
二両編成の電車が来た
薄緑色である
席は両サイドにあるものと
対面式であるものが
組み合わさっている
人は乗っていない
対面式の座席に座り
荷物を目の前の席に乗せた
人が居ないからこその
贅沢な時間である
車窓から外を見るが
山と木々しか見えない
反対側も同じである
特に何も面白さは無い
人間の輸送に
面白さは要らないのだろう
安全が保証され
目的地に着けば良い
それが一番正しいことだ
動いている風景を見て
楽しいと思えた子供の頃と
変わっている感覚
それを忘れてはいけないが
慣れの果てとは思いたくない
成れの果てとも違う
なんとも小さな枯渇である
外を見ると
竹林が目に入った
そういう月へ帰るには
どうすれば良いのか
新しい玩具を見つけたかのように
思考し始めた