言えないよ。チェリーだなんて!
俺の援護を受けた魔法少女ペアーは、難なくエリンギみたいな化け物を倒してきた。
撃破を確認した彼女は、俺のほうに振り替えって笑顔になり、こちらに向かってきた。
うん、莉乃は笑顔がやっぱり可愛いよ!
魔法少女になって、髪色とか表情とか色々変わってるけど、おとうさんには莉乃だって分かるよ!
もう十年以上、あの笑顔を見守ってきたんだ!
どこの誰か知らんが、莉乃にコクった奴がいるらしいが、まだまだ莉乃は渡さん!
なんてね。まぁ、莉乃が選んだ相手がいるなら、仕方がないんだけど…
「あの、チェリーさん。ありがとうございました!」
ちゃんとお礼が言える良いコ。親御さんからしっかりと教育されているな。
って、親って俺なんだけど……
「うん、お疲れさま。怪我もなさそうで良かった。」
と言って、いつも莉乃にするように、頭をナデナデした。
「……っ」
莉乃から笑顔が消え、真っ赤な顔になってうつ向いている。
しまった。前に莉乃の頭を撫でたら、喜んでくれたから、つい…
「あ、嫌だった?ごめんね。でも、俺…」
ここで、チェリーが、詠介だって言うべきだろうか?
迷っていると、
「違うんです。こんなご褒美……嬉しくて…」
ん、話が変な方へいってる?莉乃が続ける。
「この前、初めて会ってから、ずっと会えなくて…」
「この前って、駅前で?」
…莉乃さん!実は俺とは毎日、会ってますよ。
「はい、ずっと逢いたかったです。チェリーさん」
見上げたペアーの顔は、童貞で恋愛経験ほとんどない俺にもわかる、その瞳は恋する乙女のそれだった。
チェリーが俺だと知ったら、どうなるんだろう。
せっかく、俺への恋心から、立ち直ったのに…
今度は、俺への想いで悩むのか……
難しいっ。どうすれば良いんだろう?
あと、些細な理由。ホントに些細な理由なんだけど……
俺が、チェリーだと知ったら、俺が、あの、その、経験無いことがバレる。
そこは、父親として、その、若い時はそこそこモテてたと見栄はってたので……
「チェリーさん。あれは、破壊力抜群ですよ~」
別の現場で戦っていたアップルさんが、遅れてやって来た。
「急にいなくなったと思ったら…」
最近は、アップルさんと一緒に戦うことが多くなっている。
少し援護してアップルさん一人でも、大丈夫な状況になったとき、莉乃がピンチと知らせがあったので…
破壊力って、俺ができるのは、援護だけなのに…
「アップルさん。破壊力抜群とは?」
「誉められて、頭ナデナデなんて……」
アップルさんは一呼吸おいて、聞こえないくらいの声で
「私にも……してほしいな。」
「えっ、何て?」
聞き間違いじゃないよね。いや、たぶん聞き間違いだろう。
アップルさんに、ナデナデは出来ないよ。
「何でもないですぅ!」
「アップルさん、来てくれたんですね。ありがとうございます!」
魔法少女アップルを見て莉乃が言う。
アップルさんとペアーは知り合いなのか?
「うん、でも、ペアーちゃん。強くなったね!」
「エヘヘっ。チェリーさんのお陰です!」
アップルさんは、この地域の魔法少女の中で、一番強くて、一番長く活動している。
新人のフォローもアップルさんが頑張っている。
莉乃も、アップルさんには幾度となく助けられて、姉のように慕っているみたいだ。
「それじゃあ、また」
結局、莉乃には何も言えずに役所に戻ることに。
すると、袖を捕まれて莉乃に言われる。
「また、逢えますよね?」
ウルウルしてる。切ないな…
「大丈夫だよ。莉乃は、俺が守るから!」
「だから、破壊力抜群なんですって!」
アップルさんが呟く。
「私だって、守ってもらいたいのに…」
アップルさんの呟きは、風にかき消されていく…
……聞こえていたよ。でも、アップルさんが守ってほしいって…
どういう意味なんだろうか?
恋愛経験あると意味わかるんかな?
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