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魔王は知りたい

 森林地帯と山岳地帯の隠れ家と思わしき基地を襲撃した俺たちは大量の捕虜を確保していた。

 森林地帯では一人だけとその基地の消滅を行なったが、今回の山岳地帯は十七人ほどの貴族学院の生徒、そして四人の貴族を捕らえることに成功した。

 このことから多くの貴族が関わっていることがわかっている。

 フィーレやリーシャの情報によるとどうやら自分のクラスだけでも半分近くが行方を眩ましているとの事であった。


「私も貴族だけど、こんなにも多くの人が国に対して反乱を起こすなんてね」


 リーシャは応援で駆けつけてきた政府軍に大きな馬車の中に収容されていく貴族たちを見てそう呟いていた。

 彼女の一族は政府に武力を提供する貴族のようで、このようなことはよくあると言っていたが、やはりこの数の多さは異例だそうだ。


「あの人たちはどう言った貴族なんだ?」

「私とフィーレみたいに軍事力に関わっているような貴族じゃないわよね?」

「ええ、あの目立つ服を着た貴族の人なんかは確か資金の面で提供していたわ」


 あの赤と金の派手な装飾で彩られたいかにも基地に似つかわしくない服装をした貴族が今、馬車に収容されていくところを見た。

 貴族にも色々あるそうで、フィーレやリーシャのように軍事力を提供する者、あの貴族のように財力を提供する者、そして経済を動かす者がいる。

 他にも政治に情報を提供する者であったり、技術を持った者も一部貴族になっているそうだ。

 そんな複雑に絡み合った仕組みで政府というものが成り立っている。

 俺の行なっていた魔王を中心とした国の治め方というのはもう古いやり方のようだ。


「でも、どうしてなんだろうね。政府に反旗を(ひるがえ)すなんて考えられないけれど……」

「財力は権力とは違うからな」

「どういう事?」


 リーシャとフィーレが俺の方を向く。


「金がいくらあったところで権力や力は手に入らない。買うことはできるかも知れないが、手に入れるのはまた別なんだ」

「つまり、あの人たちって財力以外の力を得たかったから協力していたのかしら?」


 フィーレが首を傾げながら、そう質問してきた。


「ああ、その一つとして特殊な魔力というものに興味を持ったんだろうな。これなら政府に勝てると思っていたのかも知れない」


 金を持っている人が次に狙うものは権力や武力といったところだ。

 図書室で人間の歴史をある程度見てきたのだが、やはり今も昔もほとんど変わっていないようだ。

 人間の欲と呼ばれる部分はどうやら不変なのだろう。

 そうとはいっても俺も欲がないと言えば嘘になるのだがな。


「神の力、なんて噂を広めていたからね」

「そういった宗教のようなものを使えばあらゆる人を操ることができるからな。財力という力もうまく使えばすぐに広まることだろう」


 こうして俺たちが魔王の部隊と呼ばれる前から学院の方でも話題になっていた。

 神の力と呼ばれるものを信仰する組織がいるみたいだから気をつけてくれとな。

 だが、その真意を知らない一般市民や正しい情報を読み取れなかった貴族なんかは心酔していったのだ。

 その結果、政府に反旗を翻す存在へと成り下がってしまった。

 そもそも人間は不平等の中で生きることを強いられた存在、皆が全て同じではないのだ。


「民間の間でかなり広まっていたみたいだから、ここまで勢力が大きくなったのかも知れないわね」

「……でもちょっと怖いよ。間違っているのにどうしてこんなに人が集まるのかな」

「ふむ、人間というものは幻想を信じることのできる生き物だからな」


 ないものをあるものと信じることができるのは人間の強みの一つだ。

 俺たちが毎日のように使っているお金に関しても本来であればただの紙切れなのだ。だが、それで物を買ったりすることができる。ただの紙切れに価値を見出しているからだ。

 お金というものはそもそも存在していなかった幻想でしかないのに、それでも人間は信じている。

 同じくこの神の力を信仰する宗教にも言えることだ。

 間違ったことでも心酔してしまっていては考えることを放棄し、過激な行動を取ることがある。

 あの貴族たちも同じようなものだろう。

 得られるはずのない力を愚かにも信じてしまったが故にこのような行動に出た。

 だからと言って、幻想を信じることで社会を円滑に動かしたり、幸福感が得られるのも確かだ。一概に間違いだとは言えない。


「幻想、か。そうなのかも知れないわね」

「人間って複雑よね。私たちもそうだけど」


 そういって二人は反旗を翻した貴族たちが収容された馬車が移動していくのを見つめていたのであった。


 それから俺たちも政府軍の基地に戻って部屋で休憩を取っていた。


「エビリスくん、ちょっといい?」


 部屋に戻り服を着替えた俺にフィーレが声をかけてきた。


「なんだ」


 俺がそう返事をすると、彼女は顔を真っ赤にしながら口を開いた。


「リーシャがいない間にお風呂に入ってきて欲しいの」

「……どうしてだ」


 すると、彼女は恥ずかしそうに身を動かしながら俺を見つめてきた。


「今日のあの触手魔法、恥ずかしかったわ」

「すまないな。解除に手間取ってしまって」

「だから、このむずむずした気持ちを取り除いてくれるかしら」


 一体俺に何をさせようというのだろうか。

 恍惚とした表情を浮かべるフィーレはどこか色気を感じさせる。

 いつもは凛々しい面影は一切ない。


「何をいって……」

「フィーレ?」


 すると、奥からリーシャの声が聞こえた。


「……何?」

「エビリスくんと何を話してるのかなって」


 さっきの会話の内容は聞こえていなかったようで、リーシャは何も知らない表情で言った。


「なんでもないわ。気にしないで」

「そうなんだ」


 リーシャは首を傾げながらもそう返事をしたのだが、すぐに俺の方へと顔を向けた。


「エビリスくん、そろそろ行かないと」


 リーシャは将軍と話し合って捕らえた生徒と話す機会を作ってくれていた。


「そうだったな。今から行く」


 俺は着替えをタンスに入れて部屋を出ることにした。


「フィーレ、一緒にはいろ?」

「……ええ、お願いするわ」


 ふむ、一体彼女たちは風呂場で何をしているのだろうか。少しばかり気になってしまったのだが、詮索することはよくないことだろうな。


 それから捕らえた貴族学院の生徒のところへと向かった。


「なんだ、お前かよ」


 部屋に入ると先ほどまで狂信的だった男が俺を見つめてきた。


「悪かったな。今は二人きりだ」

「それがどうしたっていうんだ」

「もちろんこうすることだって……」

「あぎゃあぁ!」


 俺は魔力の腕で男の心臓を鷲掴みした。


「や、やめてくれ。ぐはっ!」


 男は吐血しながらもやめろと懇願してくる。


「なら教えてくれないか? 他に隠れ家はどこにある」

「……教えるわけ、あがっ!」


 俺は一度、男の命を奪った。

 心臓を握り潰したのだ。その激痛は信じられないものだろうな。

 しかし、すぐに殺すことはしない。

 俺は太古の魔導技術である蘇生魔法で再度命を吹き戻した。


「あ、今俺は」

「もう一度死ぬか?」

「やめてくれ、殺すなら殺してくれ」


 すると、男は椅子から飛び降りて頭を下げた。


「頭を下げても意味はない。教えるまで心臓を握るとしよう」

「わかった、わかったから! 教えるよ!」


 そう言って狂気に満ちた表情で俺を見つめた。

 ふむ、やはり死というものは怖いのだな。

こんにちは、結坂有です。


エビリスはどうやら何かにお怒りのようですね。

怒りに満ちた魔王は誰にも止められることはできないのでしょうか。

それにしてもフィーレたちはお風呂場で何をしているのか、気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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