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魔王は山を削る

 俺たちはまず山岳地帯の地図を見てから作戦を決めた。

 この地形的には普通攻め込むと谷に誘導されやすいため少し慎重な立ち回りが必要になってくるだろう。

 それにしてもまるで整備されて作られたかのような地形だ。


「ここは昔、城が建っていたりしていたのか」

「私は知らないわ」

「うーん、あったような気がするけど」


 フィーレは知らないようだが、リーシャは心当たりがあるようだ。

 まぁこの立地条件であればあったとして不思議ではない。

 もし当時の資料があるのなら拝見してみたいところだ。


「資料室に行ってこよっか?」


 すると、リーシャは立ち上がりそういった。

 どうやらこの基地には資料室があるみたいだな。

 まだ朝食を食べたばかりで時間もまだたっぷりある。それなら行ってもらったほうがいいかもしれない。


「頼めるか?」

「うん、この地図の場所にあったかどうかよね」

「ああ」


 すると、リーシャは「わかった」とだけ言って資料室に向かった。

 その様子を見ていたフィーレが首を傾げながらこちらに質問してきた。


「昔の資料を見てどうするつもりなの?」

「この地形はどうも意図的なものを感じてな。もし資料が残っているのなら対策を考えるのに参考になると思ってな」

「……この複雑な構造が意図的な地形ってどういうことなのかしら?」


 さらに質問を続ける彼女も俺と同じく違和感を覚えているらしい。

 リーシャは特に何も感じていなかったようだが、やはりフィーレは感覚が鋭いのだろうな。


「ああ、基地があると思われる場所から放たれるように伸びた谷があるだろ。これがどうも作られたような感じがする」

「そうよね。自然の形にしては変だわ」


 確かに彼女の言う通りで、自然な形ではない。

 この直線的な谷は明らかに人工的なものを感じさせるものだ。


「もしここに城のような重要施設があったとすれば、このような大規模な土木作業も行ったのかもしれない。だから資料を探してきて欲しいと思ったんだ」

「なるほど、もともと軍が担当していたのなら資料があってもおかしくないからね」


 そう言うことだ。もし資料が残っていればの話だがな。

 残っていたらそれをもとに俺が作戦を立ててもいい。それに俺の力でもう一度破壊してやってもいいのかもしれない。


 それからしばらくすると、リーシャが戻ってきた。

 手元には少し大きめの資料を携えている。


「あったよ。ここに軍事的な城があったみたい」


 そう言って机に資料を並べ始める。

 どうやら俺の予想通りのようだ。


「やっぱり人工的に作られた谷のようね」

「そうだな。細かい地形までも書かれているから地図よりもわかりやすい」


 ここの資料は俯瞰で捉えたものだけでなく、立体的に描かれているため非常に地形が分かりやすい。

 かなり古い資料のようだが、多少この時と地形が変わっているかもしれない。とは言っても誤差の範囲なのだがな。

 俺が知りたいのは谷底の地形だったのだ。


「やはり、道らしきものがあるな」

「この資料だと谷底までが詳しく書かれているわね」


 俺とフィーレがその谷底の資料に目を向けていると、リーシャが奇妙な資料を取り出してきた。


「これって関係あるのかな?」

「なんだ」


 その資料を見てみる。

 『魔力波発生装置』と書かれたその資料は禍々しい図を交えて詳細に記されていた。


「確か魔力波って魔術師が何人も集まって作る強力な魔法よね」


 すると、フィーレがそう俺に聞いてきた。


「魔力量が少なければな。だが、レイのように魔力量が膨大だと一人でも作り出すことができる」


 レイは凝縮した魔力球を作り出すことができる。そのため当然のように魔力波を生み出すことはできるはずだ。

 だが、彼女が得意としているのは魔力球のようだがな。


「それはそうかもしれないけど、魔導具に作らせることなんてできるのかしら」

「不可能だな。強力な魔石などを使えば問題ないと思うのだが……」


 いや、魔族相手であれば無限に発生させることができるのかもしれないな。

 魔族の体内には人間よりも膨大な魔力が眠っている。

 当然、魔族の死体からはそれら魔力が漏れ始め空気中に魔力が漂い始める。

 それらを一気に集めることができれば、魔力波のような強力な魔法が生み出せるのかもしれないな。


「ここで魔族と戦った記憶はあるか?」

「ええ、これによると四百年前に魔族と大きな戦争をしたと書かれているわ」

「こっちの資料にも魔力波発生装置のこと書かれているよ?」


 フィーレに続いてリーシャも資料を見せてくる。

 ふむ、当時の戦争においてどうやらこの魔力波発生装置が猛威を奮っていたようだ。

 それにしてもこの装置の奇妙なところは空気中の魔力を吸い取ると言うところにある。

 ここの空気に含まれている魔力がなくなればただの鉄の塊に過ぎないが、一度ここで大量の殺戮が行われたことによってこの谷には大量の魔力が空気中に含んでいるのだろう。

 そして、この谷は空気の流れが悪いために空気中の魔力が失われないのも利点となっているのだろう。

 今でもこれが残っているとすれば、厄介なのには変わりないな。


「それだったら作戦はひとつだ。山を削る」

「山を削るって、どうやって?」

「簡単なことだ。凝縮した魔力球を使えば自由に山を削ることができるだろう」

「……エビリスくんほどの力があっての荒技だと思うけど」

「いいわ。それで行きましょう」


 リーシャは目を細めて俺の方を見ているが、フィーレは俺の作戦に賛成してくれているようだ。

 まぁこの作戦が失敗したとしても魔王の力である”支配の力”を解放すればこの山岳地帯ごと吹き飛ばすことは可能なのだがな。

 そこまで目立つことをしてしまっては後処理が大変だろう。

 いや、山を削ることも面倒なことには変わりないか。


 それから作戦が決まりすぐに準備を始め、隠れ家のある山岳地帯へと向かった。

 昼過ぎにはその場に到着し、途中で昼食も挟んで今から攻撃を仕掛けるところだ。


「ふむ、やはり資料と変わりはないな」


 谷底は資料とほとんど変わりない。

 草が生い茂っているぐらいで道のようなものがはっきりとあるのがわかる。

 そして、何よりもこの空気中に含まれている魔力の量が尋常ではない。

 過去にここで大量の魔族の死体があったことを物語っている。


「そうね。それで、山を削るのはどうするの?」


 谷底に降りた俺たちはこのままではあの魔力波発生装置に蹂躙されてしまうことだろう。

 当然、俺は自分の身を守ることができるのだが、リーシャやフィーレはそうはいかない。

 この空気に含まれている魔力を利用した魔力波となれば相当なものだろう。

 俺が全力を出して作り出すものよりも一段強いものが生み出されることになるかもしれない。


「まずは俺たちの背後にある絶壁を削る」


 俺は魔力球を展開し、背後の崖に向かって放つ。


「きゃ!」


 ドゴゴッ!と言う轟音を立てながら俺の魔力球は崖を円形の穴を開けて削り進んでいく。

 数分すると魔力球は貫通した。


「……一瞬でトンネルが作られたわね」

「エビリスくんがいたら土木工事とか一瞬だよ」


 ふむ、この程度数分で作らなければ俺の時代では生き残れなかったからな。

 俺が作ったトンネルは馬車が四台ほどが並んで通れるほどだ。

 壁面を補強すればすぐに使えるものだろう。


「でもこれだけだと空気が流れないわよね」

「ああ、さっきの音で気付かれているかもしれないが、基地の近くを削る」

「えっと丁字路的な感じで作るわけね?」


 俺はリーシャの発言に頷いて肯定した。

 彼女の言う通り、俺たちはそのまま谷底を進んでいき基地の崖下に到着すると俺は左右にある山に同時に魔力球を展開した。

 地割れのような轟音を立てながら魔力球は左右の崖を削り始める。


「魔力球の維持をしたい。護衛は頼めるか?」

「え?」


 すると、谷の上から人が飛び込んでくる。

 勇者に対してその人数で攻撃を仕掛けるなど、無謀なことだ。


「せいっ!」


 勇者の力で聖剣を一振りすれば、その空気圧で人は簡単に飛ばされる。

 空中で体勢を崩した魔術師たちはそのまま地面に激突し、意識を失った。


「リーシャ、その人たちを治療して拘束してくれる?」

「……わかったわ」


 ふむ、この二人がいるとなんとも心強いものだな。

 そして、左右にトンネルが形成されると谷底の空気が一気に流れ始めた。

 俺は科学の力を使って空気の流れを生み出した。

 これで少しでも魔力が薄まればいいのだが、どうだろうか。

 すると、上部から金属の怪物がこちらを覗き込んできた。


「あれが”魔力波発生装置”か。一体どれほどの実力があるのか、見せてみろ」

「ちょっと、逃げないの?」

「やばそうななんだけど……」


 二人は逃げ腰なのだ。

 あの資料で見た通り、魔力波は強力な力を持っている。

 そのことを知っている二人だからこそそう提案してくるのだが、俺には一つの確信があった。

 さて、戦争を始めるとしようか。

こんにちは、結坂有です。


魔王は新たな道を切り開いたそうです。

そして、この戦いの行方はどうなるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに!



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