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魔王は破壊する

 地下基地に潜入していた俺とフィーレは外から中に入ってくる気配に身を隠していた。

 リーシャからの念話がないことから、外から入ってきたわけではないようだ。おそらくはどこかに隠されていた転送魔法陣か何かで入ってきたのだろう。

 それにしても魔力に妙な点がないことからニヒルのものではない。

 まだニヒルに侵されていないということなのかもしれない。


「ん?!」


 フィーレが頬を紅潮させながらこちらを見つめてくる。


「誰かが入ってきた。少し静かにしてくれ」


 俺がそういうと彼女は小さく頷いた。

 しかし、このままこの空間に居続けるのはあまり得策ではない。

 こうした密閉空間では気付かれるのは時間の問題だ。


「リーシャちゃん……待たせてごめんねぇ」


 戻ってきた男は奥の部屋のリーシャの体を触りながらそう言っている。


「……!」


 フィーレが体を震わせている。

 しかし、あれはリーシャの顔をしているが本物ではない。変態的な行動とはいえ実害がないのであれば行動するべきではない。


「おほほっ、フィーレちゃんも待っていて我慢できなくなったのかい?」


 男がベッドのある方に向かう。


「ん!」


 今から嫌なことが始まるのではないかとフィーレは不安に駆られる。そして目の前で男はベッドの横たわっているフィーレを模倣して作られた体の服を脱がした。

 柔肌はかなり精巧に作られているようで、質感はかなり本物のようだ。まるで生きているかのように赤みを帯びているため今にも動き出しそうなほどである。


「ちょっと良いかしら!」


 俺の腕を払うとフィーレはそう言って男へと近付いて行った。

 俺は隠れたままだが、この方が後々で支援がしやすいからな。


「なっ! フィーレちゃん!」

「あなたにそんな風に呼ばれるのは気持ち悪いわ」


 どうやらあの男とフィーレは面識があるようだ。

 俺はリーシャに念話を送る。


『リーシャはあの男を知っているか?』

『私からはシルエットぐらいしかわからないの』

『そうか、視界を共有しよう』


 念話を通して俺の視覚情報も送りつけることにした。

 そうすることでリーシャの脳内に男の姿が見えることだろう。


『え、モルディン?』

『あいつはモルディンというのか』

『そうよ。モルディン・レリガルド』


 レリガルドというのは聞いたことがないようだが、どうやらこの時代では有名な一族のようだ。

 貴族学院に入学しているのだ。それなりには名の知れている一族だろう。


『狙撃は可能か?』

『うん。弾道確保したからね……でも同級生を撃つのは躊躇するわ』

『そうだろうな』


 それなら狙撃は最終手段としよう。

 それにフィーレは取り乱しているとはいえ、勇者の力を持っている。そう簡単に負けることはないはずだ。


「……だが、ここに入ってきたのは間違いだったね」

「なんのことかしら」


 フィーレの目は怒りと恐怖に満ちている。

 そう言った感情は力を最大限に引き出すのに十分である。しかし、彼女は周りが見えていなかった。いや、彼女には見ることができなかったのだ。


「っ! 一体何を!」

「拘束魔法さ。暴走したときのために作っていたんだよ。まさか君に使うことになるとはね」


 ふむ、条件発動の魔法か。

 電子機器を使った特殊な魔法陣を使ってたようだ。現代の知識にまだ慣れていない俺を欺くにはちょうど良かったのだろうな。

 しかし、奴は俺の存在を知らない。

 今のうちに俺は拘束魔法を解いて彼女に聖剣を抜く猶予を作った方が良さそうだな。


「フィーレちゃん……もう少しで一緒になれるよ?」

「いや!」


 彼女は抵抗するが、魔法で拘束されているせいで思うように逃げることができない。


「暴れると痛いからねぇ」


 モルディンは口からよだれを垂らしながらフィーレに近づく。

 そして、フィーレの足が広げられ、スカートの中身が見えそうになる。

 鼻の下を伸ばしていやらしい目でそれを見つめる彼は何かに取り憑かれているようであった。

 それにしてもどこか。魔法陣の中心は……っ!


 ピュウンッ


 今、何かが横切ったような気がした。


「ぎゃ!」

「え?」


 ズボンを脱ごうとしていたモルディンの右腕が吹き飛ばされた。


『ごめんなさい。みていられなかった……』


 やはりリーシャの狙撃であったか。

 この見えない場所からの銃撃は恐怖でしかないな。

 もし俺が魔王であった時代にこのような魔導具が存在していれば、魔王城など簡単に崩落していたのかも知れないな。


「別に気にするな』


 腕が吹き飛ばされた程度では人は死なないからな。

 ちょうど良い場所を狙ったと言えよう。

 そして、俺も魔法陣の中心を見つけることができた。

 そこに魔力を集中させることで魔法陣を破壊する。


「フィーレ。今だ」


 俺がそういうと彼女の拘束が解いた。

 それと同時に彼女は聖剣を引き抜きモルディンの首元へと剣先を向ける。


「ヒィッ!」


 先ほどまでの余裕で気持ちの悪い顔は一瞬にして引き締まり、恐怖に満ちている。


「私たちをその作り物で散々辱めてきたのでしょう? その罰よ」

「なんだよ! あれは僕の芸術作品だぞ!」

「ふむ、あの程度で芸術か。お前に芸術とやらを教えてやろう」


 俺は立ち上がると、一つの魔法を展開した。

 すると、そこにはまるで女神のように美しいドレスを着た女性を作り上げて見せた。


「はっ! あぁ!」

「人の体を作るのは得意のようだが、中身まで作ることはできたのか? 筋肉の構造、内臓の配置、それから血管の一本一本まで作り上げることはできたか?」

「こ、こんなに細かく……無理だよ」

「無理、か。ならお前に人間を作る資格はない。輪郭だけではなく、本質まで調べる必要がある」

「……っ!」


 すると、男は拳を突き上げて何か宝石のようなものを壊した。


「自壊魔法か」

「え?」

「へへっ、これでお前も僕も終わりだよ。最後にフィーレちゃんと心中できて嬉しいよ」

「あなたと心中するつもりはないわ」


 そう強気にフィーレは言っているが、どうやら出口である通路は完全に塞がれたようだ。

 一つしかないあの階段がなければ地上には上がれない。

 だが、一つしかなければ二つ目を作ればいいだけのことだ。


「それにここは防御クラス五を超える最強の防壁だ。内部からも外部からも破壊は無理だ」

「防御クラス五?」


 それの知らない単語だ。


「なんてことを……」

「知っているのか」

「ええ、防御クラス五は宮殿の待避所に使われるほどの強力な防壁よ。原子魔法を使っても破壊することができない強力な物質で出来ているわ」


 なるほど、つまりはとても強力な防壁ということだな。


「物質と言ったな」

「……それがどうかしたのかしら?」

「それなら問題ない」


 俺はこの空間全てを埋め尽くすほどの魔法陣を展開した。

 そして、魔王の力である”純然たる破滅”で天井を突き破る。

 物質そのものを破壊するのではなく。、物質を構成している分子を刺激することでまるで砂の壁が崩れるかのように穴が開く。


「ど、どうして!」

「力については強力な防御力を誇るが、それを構成する分子が破壊されればあとは砂塵のように消えていくだけだ」

「そんなことができるわけ……」

「転移する」


 俺はリーシャのペンダントを頼りに転移魔法を展開し、その場を三人で離れた。


 転移すると、そこにはリーシャが驚いた顔で見つめてくる。


「……二回目、よね」

「そうだな」


 すると、モルディンが怒り狂った表情で俺に詰め寄ってくる。


「貴様っ!」

「そこまでよ」


 それをフィーレが聖剣で制止する。

 当然、基地から離れた彼には力があるはずもなく、彼女に従うだけであった。

 その様子を見てリーシャはほっと胸を撫で下ろし、俺に声をかけてきた。


「ごめんなさい。撃ってしまって」

「気にするな。そのおかげで隙が生まれた」

「リーシャが謝る必要はないわ。私こそ怒りに駆られて先攻してしまったのだから」


 そう言ってフィーレとリーシャはお互いに謝罪をした。


「別にいいではないか。結果が全てなんだろ」


 俺は二人にそう言葉をかけながら、モルディンの腕を再生させる。


「う、腕が……」

「最初は動かせないと思うが、すぐに馴染む」


 どうやらこの時代ではこういった再生魔法は主流ではないのだろうな。

 ここにいる俺以外の三人はこの魔法を不思議そうな目で見つめていたのであった。

 そして、俺は自壊魔法で崩れていく地下基地をまた純然たる破滅で徹底的に破壊した。


「っ! 僕の大事な……」

「もうあんなことはするな」


 自壊魔法とは言ってもあの部屋だけは破壊されないように計算されていたらしいな。

 魔王の力は地下基地を完全に破壊したために、森の中心部に大きな穴が形成されてしまった。

 目立つ行動は避けたかったのだが、フィーレやリーシャたちの辱めに比べれば小さなことだろう。

こんにちは、結坂有です。


結局、地下基地は完全に消滅してしまったようです。

これでアルクの軍勢にどう影響が出るのかわかりませんが、痛手だったのは確実でしょう。

そして、終始変態的な行動が目立ったモルディンはこれからどうなるのか、気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



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