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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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一ヶ月後、魔王は試験内容に驚く

 俺が学院に通い始めて一ヶ月が経った。

 人間のマナーや生活には慣れてきたところだ。

 科学に関しても俺に仲良くしてくれる友人たちから教えてもらっている。

 そのおかげか、ある程度までは授業についていけるようになった。もちろん魔法に関しても授業でしているが、俺にとっては初歩的なものだった。

 周りの力量に合わせてはいるが、いずれ誰かにはバレるだろうな。


 入学当時から一ヶ月経ち、十二月に差し掛かっていた。

 気温も下がり、雪が降り始めている。学生寮から出ると寒さが体を突き刺す。

 学院指定の上着を着込んで街中を歩いている。この道もだいぶ慣れてきた。

 通り道でもある商店街では夕食の食材を手に入れることができる。学院の手当でもらえる金額は限られているが、他に欲しいものもないためだいぶ溜まっている。

 一般学院の生徒は貧困の人もいるため、なるべく手持ち金による差別をなくす配慮だそうだ。もちろん、一文無しの俺でも学院で生活できている。


 商店街を通り過ぎ、しばらくすると静かな場所にたどり着く。そこが俺が通っている魔法学院だ。

 貴族学院と一般学院に分かれており、俺は孤児ということで一般学院に所属することとなった。

 そこで知り合ったマーフィンは頭が良く、魔法技能も高い。俺の配下にはちょうどいい人材だろう。他にもコリンやレナと言った個性溢れる女性とも知り合えた。

 周りの生徒も多くは俺に対して優しく接してくれている。魔王である俺がこうも人間に優しくされるとは想像すらしていなかった。

 学院の教室に入ると、いつものように挨拶が交わされる。これはなぜか心地が良いものだ。


「おはよ!」


 数人と挨拶を交えていると、一際明るい声が聞こえた。コリンの声だ。


「おはよう。今日はいつもより元気だな」

「だって、今日発表でしょ?」

「ああ、そうだったな」


 発表というのは進級試験の内容だった。毎年変わる試験の内容は俺たちには予測することができない。

 もちろん、今日発表されてすぐに開始というわけではない。試験当日は一ヶ月後だ。


「どんな試験かな? 筆記試験だったらいいなぁ」

「学院が実力を見るんだ。筆記だけではないだろう」


 学院が個々の実力を測り、進級させる試験。筆記試験などでは本当の実力は測れない。

 かといって、実戦が行われるというのも性急過ぎる。対人戦などは特に実力が物を言うからだ。

 学院が求めているのは実戦などではないと予想しているが、結局のところわからない。


「おはよう、試験の話?」


 俺より少し遅れて教室に入ってきたのはレナだ。


「レナはどんな試験だと思う?」

「うーん、正直よくわからないかな。試験内容も結構ランダムだし」

「そうだよね。あ、確か去年は対人戦だったっけ?」

「そうね」

「一年生の間に対人戦したのか?」

「うん。でも勝負が目的ではなかったよ。確か、戦場でどう立ち回ったか、が重要視されてたみたい」


 実力があっても必ず勝てるとは言えない。だが、勝敗はそこまで重要ではないのも確かだ。

 個々がどのように立ち回り、戦ったか、それが本当の実力と言える。


「一年生の魔術じゃ対人戦もロクにできないんじゃないか?」


 今まで授業で行われてきた攻撃魔法などは実戦で役には立たない。より即効性のある魔法が戦場で必要になる。

 授業で教わった魔法はどれも設置型に向いていると言える。ただ、それだけでも十分ではあるが。


「実戦ではうまく使えるかわからないよね。色々条件があるもんね」

「もし対人戦だったら負ける気しかしない……」


 面と向かって勝負すれば必ず負けると言えるな。それにしてもマーフィンが遅い。

 彼が遅刻とは珍しいものだ。

 そう考えていると廊下から猛ダッシュで男が入ってきた。


「エビリス! いるか?!」


 そう呼びかけたのはマーフィンだった。


「どうしたの?」


 コリンがマーフィンに話しかける。


「貴族学院の生徒がお前に対して宣戦布告しているぞ? 何かしたのか?」

「……いや、貴族学院とはあまり関わっていないからな。よくわからん」

「玄関先で貴族学院の奴らがお前を探し回っていたぞ?」


 はっきり言って、思い当たる節はある。

 先日のことだ。商店街で俺が夕食の買い物をしていたところだ。

 ただ、()()は向こうが悪い。


「どうしてだろうな。俺が出向いた方がいいか?」

「あの調子だと絶対喧嘩になる」


 マーフィンがそこまで言うのならそうだろうな。間違いなく喧嘩になるか。


「ずっとあそこに居座られても一般学院として迷惑だ。追い払った方がいいだろう」

「まぁ確かにそうだが……」


 マーフィンは荒事があまり得意ではない様子だ。


「玄関には俺一人で行く。みんなはここで待っててくれ」

「でも……」

「貴族学院の生徒だ。どんなことをするか分からない。試験前に怪我なんてさせたら責任取れない」

「確かにそうだよね」


 コリンが頷くが心から納得している様子ではない。


「まぁ何かあればすぐに戻る」

「わかった。無茶はするなよ」

「そのつもりだ」


 俺はそのまま玄関の方へ向かった。


 足早に向かった先には先日商店街で出会った男が複数人連れてやってきていた。

 全員で五人ほどか。程度によるが、手加減はできそうだ。


「ノコノコと出てきやがったぞ」


 男五人が俺に近づいてくる。人相はとても良いとは言えない。

 今すぐにでも殴ってきそうな勢いで俺に詰め寄る。


「いつまでも玄関先で居座られると迷惑だ」


 俺は玄関の奥に目を向ける。そこには貴族学院の生徒で制圧され玄関に入るのを戸惑っている生徒がいた。

 しかし、ここにいる男たちは貴族学院の一年生だ。胸元の札を見ればすぐにわかる。


「俺たちも迷惑なんだよ」

「どう言う理屈でそうなるんだ」


 俺が魔力を込めた目で威圧するが、この男たちには効果がないようだ。殺気立っていると言うか、こう言う場は慣れていると言った様子だ。


「一般学院にもそう言う目をする奴がいるんだな」


 後ろから現れたのはいかにもリーダー格の男だ。

 続けて男が言う。


「俺はオービス・ティーザリアだ。マリークが世話になったようだな」

「ここで喧嘩は避けたい。今日は引き下がってくれないか」


 話に乗らずに主張を続ける。


「強情だな。いいだろう。俺は引き下がるとしよう」


 実力がわからない奴に手を出さない。警戒心が強い証拠だ。

 あの目で警戒されてしまったようだ。


「何言ってるんですか。一般学院の奴ですよ?」

「”人喰いの森”の生存者だ。どんな力を持っているかわからないからな」

「編入生だから問題ないでしょ。運が良かっただけですって」

「あの森は現役魔術師でも苦戦する魔境だ。そこにずっといたって言うからにはただ運が良かっただけではないだろう」


 やはり切れ者だ。俺がどこから来たのか情報をしっかりと調べた上でこの場に来たようだ。

 あのオービスからすれば今回はただ様子見をしに来たってところだろう。


「とりあえず、引き返してくれ」


 俺がそう言うと奥から一人の男が飛び出してきた。商店街で出会った男、マリークだ。


「俺に恥をかかせてタダで済むと思うなよ」

「恥をかかせた覚えはない。お前が勝手にバカなことをしただけだ」

「なんだと!」


 マリークが俺の胸倉を掴み上げる。俺はつま先が少し浮く程度にまで力が入っている。相当な腕力だ。

 俺はそのまま壁に押し付けられる。

 その様子を見ていた玄関の前で立ち往生をしている生徒は怖気付いていた。


「マリーク。手を放してやれ」

「だって、こいつは!」

「それ以上は()()しきれない」

「オービスさんまで」


 するとそこにミリア先生がやってきた。


「ちょっと何してるの?」

「ちっ、来やがったか。今日は見逃してやる」

「そうしてくれ」

「試験の日まで待っててやるよ」


 マリークがそう言うとすぐに立ち去った。

 オービスは立ち去る直前まで俺の目を見ていた。


「大丈夫?」

「俺は問題ない」

「貴族学院に絡まれると厄介よ?」

「玄関を制圧していたから……」


 発言を止めるようにミリア先生は俺の頭を撫でる。


「ここに来てまだ一ヶ月ぐらいでしょ? 無茶はしないの」


 俺はミリア先生に背中を押され教室に戻ることにした。

 玄関の前で萎縮していた生徒たちもゆっくりと校内に流れ込んでくる。


「どうだった?」


 先に戻った俺にマーフィンが声を掛ける。


「その様子だと何事もなかったようだけど」

「ちょうどミリア先生が来て、貴族学院の奴が帰っていった」

「それは良かった」


 席に着き、先生を待つことにした。

 しばらくすると、ミリア先生が入ってきた。


「おはよう。ちょっと騒ぎがあったけど大丈夫よ」


 そうミリア先生は言うが、実際あのまま続いていたらマリークの片腕が潰されていただろうな。


「とりあえず、今日は進級試験の発表ね」


 そう言うとミリア先生は黒板に書き始めた。


「今年の試験内容は貴族学院との競技戦になります」


 まさかの対人戦。幸いなことに防御魔石を用いた模擬戦のようだ。


「ただ、進級の評価基準は”貴族学院に三回勝利すること”です」

「「えーー」」


 生徒全員がそう言った。


「去年は勝敗は評価されませんでしたよね?」

「ええ、確かにこれは不平等だと思うけど……」

「先生の力でなんとかしてくれよ〜」


 確かに今のままでは貴族学院に勝利を勝ち取ることは不可能に近い。


「私にそんな力持ってないから」


 ミリア先生は申し訳なさそうにしていた。

 先生は悪くない。おそらくこれを決定した人が悪いだろう。


「でも、しっかりとみんなで訓練して魔法を練習すれば競技戦はなんとかなるよ!」


 ミリア先生がそう元気付けようとする。

 確かに練習は大切だ。しかし、俺らより高度な知識を得ている相手には勝利は難しい。

 あまりにも違いがあり過ぎるのだ。


「そ、それじゃあ、みんな頑張ってね!」


 チャイムが鳴り、急いで話を切り上げるミリア先生。

 ただ、その言葉は生徒には届いていないようだった。

こんにちは、結坂有です。

第二章が始まりました。魔王はこれから昇格試験に挑むそうです。


それでは次回もお楽しみに

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