魔王の部隊
基地の中を案内されるエビリスくんとフィーレ、そして私はやがて大きな扉の前に立っていた。
目の前の兵士の一人が扉をノックする。
「入れ」
すると、中から野太い男性の声が聞こえた。
どうやら軍の上層部の人なのだろう。
そうして扉が開くと、そこには沢山の勲章を取り付けた将軍のような人が椅子に座っていた。
私たちが部屋に入ると、今まで案内を続けてくれていた兵士の一人は部屋に入ることはなくその場で一礼して扉を閉めた。
「まぁそこに掛けてくれ」
将軍はそう言って手のひらでソファの方を指した。
「エンヴィス将軍、お久しぶりです」
フィーレはそう言って軽く頭を下げた。
「勇者様が頭を下げる必要はない。ささ、三人とも座りなさい」
そう催促され私たちはソファに座ることにした。
このソファは私たちの体重で程よく沈み込むことで重さを分散し、長時間座っていても痛くならないような上質なものである。
私が真ん中で左にフィーレ、右にエビリスくんが座っている状況だ。
右横に座ったエビリスくんはこう言った柔らかいソファにあまり慣れていないようで座り心地が悪そうにしていた。
「それで、早速本題に入るのだが……君たちには我々の軍隊とは別の部隊として活動して欲しい」
私たちが座ったのを確認したエンヴィス将軍はそう本題を切り出した。
「どう言うことですか」
フィーレがそのように質問すると、エンヴィス将軍はエビリスくんの方へと向いた。
「君たちがどのような存在かは我々にはまだ把握しきれていない。しかし、君たちだけならお互い実力を知っていることだろう」
「確かに私たちだけであればうまく連携をとることも難しくはないでしょう。しかし、それでは軍に協力すると言う意味はなくありませんか?」
彼女の言うように軍に協力すると言うことは軍の動きに私たちが合わせなければいけない。
あくまで主体が軍にあると言うこと、しかし将軍の言ったことは違っていた。
私たちは私たちだけの部隊を作って戦えと言っている。
「……そこなんだがな、学院内でそれを反対する人がいてそう簡単にはいかなかった。だから協力という名目でここに集めたというわけだ」
「なるほど、わかりました。だいたいその人の察しは付いていますけど、結局私たちの部隊を作ってしまっては意味はないような気がします」
「意味はある。君たちを学院という檻から出すことができた」
将軍とフィーレは一体何の話をしているのかわからないのだが、私たちを学院の外に引き出すための口実として協力要請を出したようだ。
回りくどいやり方ではあるものの確かに違和感なく学院の管轄から外すことができたのは確かなのかもしれない。
「ふむ、俺も最初はどうするべきか悩んでいたのだがな。その提案なら協力してもいい」
すると、先ほどから話を聞いていたエビリスくんが口を開いた。
「ちょっとエビリスくん、将軍様なのよ?」
私がそう言うと彼はこちらを向いて口を開いた。
「将軍はただの将軍ではないか?」
「度胸があるやつだとは聞いていたがここまでとは……」
重く低い声に私とフィーレは完全に萎縮してしまった。
実力的に言えば勇者であるフィーレが一番上なのだが、権力や地位と言った面で見れば将軍が私たちよりも格上だ。
「エビリスくんはまだ学院に入って半年ほどです。大目に見てくれないでしょうか?」
フィーレが頭を深く下げて将軍にそう伝えた。
しかし彼女の言葉を聞いた将軍は予想に反し、笑顔になった。
「ははっ、気にするな。エビリスのことはシエラからよく聞いているからな」
そう言って将軍は笑いながら、ぐびっとコップの紅茶を飲み始めた。
一瞬フィーレと私は怒鳴られることを覚悟したが、実力ある者に関しては寛容なようでエビリスくんのことを大目に見てくれたようだ。
「なんだ?」
ほっと胸を撫で下ろしている私に対してエビリスくんはそう尋ねてきた。
本人は何とも思っていないようだ。しかし、私たちにとっては彼の発言一つ一つに地雷があるように感じるものだ。
誰に対しても同じ態度でいれることは尊敬できる部分ではあるし、長所でもあると思うけど場合によっては周囲がその言動に振り回されてしまうことになるということも知って欲しいところだ。
「何でもないよ。ほんと、エビリスくんってすごいね」
いろんな意味を込めて私は彼を褒めてみせた。
「そうなのか」
やっぱり何もわかっていない……
横で私とフィーレが心臓をバクバクさせながら萎縮していたことは全く気にも留めていなかったのだろう。
まぁそう言った部分も含めて好きなんだけどね。
そんな私たちを見ていた将軍は飲み干したティーカップを机の上に置いて話し始めた。
「そこで君たちに頼みがあるんだが、アルクの隠れ家に潜入して欲しい」
「はい。すぐに作戦を……」
「急な頼みごとだな」
すると、フィーレの言葉を遮るようにエビリスくんが声をあげた。
「エビリスくん?」
「隠れ家に潜入するのは別にいいのだが、そこからどうすればいい?」
「どうすればいい、というのは?」
「そこで壊滅させてもいい」
彼が自信満々の表情でそう将軍に向かって言った。
「やはり君を呼んでおいて正解だったな。しかし、壊滅させることは不可能に近い」
「どうしてだ?」
エビリスくんがそう質問すると、将軍は立ち上がり横に立てかけられている地図を指さした。
「ここが我々の基地だ。そして確認されているアルクの隠れ家がピンを立てている場所になる」
地図は今私たちがいる基地を中心にして描かれているようで、南側にある森の部分に一つ、そして山岳地帯に一つと計二つの場所にピンが立っている。
どうやらその二つの場所がアルクの隠れ家、もしくは敵のアジトだということらしい。
「ふむ、これ以外にも点在していると言うことだな」
「その通りだ。とりあえずはこの二つの場所を調査して欲しい。まず我々が手に入れるべきは勝利ではなく情報だ」
戦争は情報が物を言う。
情報も少ないまま戦って勝ったとしてもそれは偶然でしかない。
安定した勝利を手に入れるには情報をしっかりと手に入れて作戦を考えていかないといけないのだ。
「わかった。では早速準備に取り掛かろう」
そう言って立ち上がろうとしたエビリスくんを将軍は手で引き止めた。
「……てっきり勇者様が取り仕切ると思っていたが、エビリスがここまで実行力のあるやつだとは思ってもいなかった」
「いいえ、エビリスくんが特別なだけですよ」
フィーレはそう半分呆れたように呟いた。
「では、魔王の部隊はすぐに作戦に移ってくれ」
「「はい」」
ん? 魔王の部隊?
そんな疑問に真っ先に質問したのは右隣にいたエビリスくんであった。
「待て、魔王の部隊というのはどう言う意味だ?」
「アルク・エグザリウスの先祖は魔王だったそうではないか。魔王を討伐する部隊、略して魔王の部隊だ」
いかにも今考えたかのような部隊の命名だが、あながち間違っていないのかもしれない。
そんなことを思ってしまった私は感覚がずれているのだろうか。
「なるほど、他意はないな?」
「ただそれだけだが、何か問題か」
エビリスくんは鋭い目で確認するように見つめていたが、すぐに視線を外して将軍の部屋からでた。
扉を開けると、そこにはまだ案内役の兵士が立っていた。
どうやら私たちが将軍と話が終わるまでここで警備も含めて待っていてくれたようだ。
「では、部屋の方へと案内します」
「部屋っていうのは私たちが寝泊りする部屋?」
「ええ、そうです。大変申し訳ないのですが、三人とも同じ部屋となっています」
そう言って申し訳なさそうに兵士は頭を下げた。
「どれぐらいの大きさかしら」
フィーレがそういうと兵士は頭をあげて質問に答える。
「なるべく大きな部屋にしましたので……」
「そう、それなら問題ないわ」
それなりに大きな部屋であれば何も恥ずかしがる必要もないか。
そうとは言ってもエビリスくんと同じ部屋で過ごすというのは緊張するな。
ふとした言動で私のイメージが損なわれないよう注意する必要がありそうだ。
それから部屋まで案内を続けていると、フィーレが呟いた。
「魔王の部隊……勇者である私には似つかわしくない名前だわ」
「確かにそうね。真逆なイメージ」
「まぁ臨時で編成した部隊だ。名などなんでも良い」
そうエビリスくんは言っているが、一番反応に困惑していたのは彼なのだ。
今は別にそうでもないみたいだけど、内心どう思っているのかはわからない。
しばらく歩いていくと一時的に私たちが泊まることになる部屋に案内された。
こんにちは、結坂有です。
将軍によって”魔王の部隊”などと呼ばれてエビリス本人はどう思っていることでしょうか。
そして、アルクの軍勢はどのようなことを企んでいるのか、気になるところですね。
これからの展開に期待です。
それでは次回もお楽しみに。
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