変わりゆく日常
眠りから目覚めて早くも半年ほどが過ぎようとしている。
まさか、半年でここまでの大事になるとは思ってもいなかったことだが、現実に起きてしまっている。
人間の体となってしまったことや魔法学院で魔法を学んでいること、そして仲の良い友と言える人間と出会ったこと……思い返せば色々と濃厚な半年であった。
だが、いい事ばかりではない。
ニヒルを完全に抹消できていなかったことや魔族の文明が滅亡していたこと、さらには魂幹の力を悪用しようとしている人間がいること。
平和にゆったりと過ごすというのはそう簡単ではないのだ。
「エビリス様、お茶ができました」
「ありがとう。だが、レイも無理はするな。先日まで寝込んでいただろう」
三日ほど前、凄まじい爆発が街を襲った。
それと同時に商店街が悪魔によって襲撃、建物は全て破壊された。
一時的にとはいえ、レイはその悪魔に飲み込まれていたのだ。
当然ながら体力の消耗は激しく、魔力もかなり弱っていた。だから二日ほど休養させていたのだが、今日は朝食を自ら作りこうしてお茶まで用意してくれている。
側から見れば大丈夫そうに見えるが、本人がどう感じているのかはわかりようがない。
「もう体の方は大丈夫です。それにエビリス様のために尽くしたいのです」
レイはそう言っている。
本当にそうなのかは不明である。
今のところは魔力に乱れはなく、内なる魔力の暴走も見受けられない。
つまりは安定しているということだ。まぁ日常生活を送る分には問題ないのだろうな。
「それにしてもどうしてそこまで俺を慕ってくれるのだ?」
「それは……」
レイはそこまで言って口をつぐんだ。
何か言いたくない事情でもあるのだろうか。
「どうした?」
「いいえ、私のことは気にしないでください」
「レイはもともと魔導特殊部隊の一員だ。それも副隊長というかなり上の位だ。そんな人が一般人である生徒にここまで関与しているとなれば変だと言われるだろう」
事実、彼女の正体を知っているミリア先生やエレーナ、フィーレからは怪しい目を向けられているのは確かだ。
「……私の意思でこうしているのです。何を言われようと私の勝手ではありませんか?」
「ああ、自分がそうしたいようにすればいい。しかしだ。自分勝手の行動は時に悪目立ちすることだってあるのだ」
「分かっています」
「それがきっかけとなって、妙な噂が立つことだってある。その噂で自分が苦しむことだってあるのだ」
俺がそういうとレイは俯いた。
彼女が一般人である俺に慕っているが周知の事実となった時、どのような噂が立つのか分かったことではない。
しかし、どのような噂であれ嘘の情報が広まれば色々と問題が生じるのもまた事実だ。
そう言った噂は人々の興味を引き立て、話がさらに飛躍する。そして、本人が知る頃にはすでに広まってしまった後ということになる。
そうなってしまえばそれを否定し、情報を訂正するのは容易ではないだろう。
「それでも私は構いません。ですから、気になさらないでください」
「……そうか、そこまでいうのなら俺は何も言わない」
俺がそういうとレイはどこか申し訳なさそうに上目遣いで見つめてきた。
「エビリス様はご迷惑なのですか?」
「いや、別に迷惑と言うわけでもない。俺としても色々と助けてもらっているからな」
レイには色々と助けてもらっている。
人間の世界での生活は思ったよりも難しい事ばかりだ。
料理一つ作るにしても器具の扱い方がよくわからない。電子レンジと呼ばれる装置の使い方を覚えたのもつい最近のことであったからな。
次の目標は炊飯器を覚えたいと言ったところだ。
そう言ったことを一つ一つ丁寧に教えてくれるのは今のところレイだけである。
これからも人間の生活について知っていく上で彼女は重要な存在だからな。今いなくなられては非常に困る。
「そうですか。それならよかったです」
俺の言葉にレイは満面の笑みでそう答えたのであった。
そして、彼女は続けて口を開いた。
「それにしてもシエラさんがいないと静かですね」
「ああ、何か違和感を覚えていたが、シエラがいないのだったな」
いつもなら何かと言動を飛ばしてくるシエラだが、あの襲撃の後で国の重要参考人として軍に保護されており、その軍に彼女は情報提供を行っている。
アルクのことや彼の持っている軍事力に軍勢の特徴、またその対処法と言ったあらゆる手段をシエラは持っているのだからな。
エグザリウス家の一人であるのなら知っていて普通と言える。
ただ、彼女の言っていた”信仰の対象が先祖である”がどうも引っ掛かりを覚える。
どこまで遡ればいいのかわからないが、エグザリウスの先祖で俺が知っているのはノーレンぐらいだ。
彼に直系の子孫がいたようで、彼が神となっているのだろうか。
確かに異常な強さを持っていた。しかし、いつの間にか存在がなくなっていた。
地球上のどこを探しても見つからなかった。
当時の俺は奇妙なこともあるものだなと軽く考えていた。
どうやらその考えは楽観的過ぎたのかもしれないな。
「彼女も今は大変でしょうね」
「もし、外出ができるのなら少し様子を見に行きたいところだ」
今の俺たちは寮で外出してはいけない状況だ。
生徒の多くはあの爆発でガラス片などで怪我を負っていた。そのため病院の方で治療を行っている。
そのせいで授業を進めることができず、こうやって休校という措置にしている。
学院も被害は少ないとはいえ、無傷ではなかったからな。修復も兼ねてこうすることには賛成だ。
とは言っても外出まで規制する必要はないと思うのだがな。
「そうですね。今の私たちは日々支給される少なめの食料で日々を過ごしていくぐらいしかできませんから」
少し嫌味を込めた言い方でレイは呟いた。
確かにいつも買っている量と比べて支給される食料は少なめだ。
商店街があのようになってしまったのだ。多くを食べることはできないと言える。
外出したところで買える物などほとんどないのだからな。
「まぁ栄養には偏りないようだしな。生きていく分には問題はない」
「……そうですけども」
レイは体に似合わずよく食べる女性だからな。
ご飯はいつも三杯近くは食べている。
失礼かもしれないが、それほどの食料はどこに蓄えられているのだろうか。
「……」
「どこを見ているのですか?」
「気にしないでくれ」
いかん、気になって見ていると確かに大きい部分があった。
大きく膨らんだ胸に蓄積していったのだろうか。
そんなことを考えている場合ではなさそうだ。
「……今のエビリス様はいやらしい目つきをしています」
「そう見えるのか?」
「嘘ですよ。少しからかっただけですから」
ふむ、このやりとりはどこか懐かしい感じがするな。
そして、どこか安心するのはなぜだろう。
「ですが、もしエビリス様がご所望であればそう言ったことも奉仕致します」
「いや、そこまでは考えていない」
「ではむっつりなのですね?」
「……その言葉の意味がわからないのだが?」
「そのままの意味ですよ」
そう言ってレイはふんっと顔を背けて自分の部屋へと戻っていった。
むっつり、か。俺は口数の少ない無愛想な人なのだろうか。
自分ではそうとは思っていなかったのだがな。
これからは気を付けるとしよう。
こんにちは、結坂有です。
アルクの暴走、そしてニヒルの力を借り商店街を破壊した悪魔。それらによって魔王の日常は大きく変化したようですね。
これからこの国はどうなっていくのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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