表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第八章 新たな脅威の始まり
82/129

護りたい者のために犠牲になる

 エビリス様が学院に向かって数分経った後。

 私、レイ・フィンドレアは寮に戻っていた。

 学院の寮も衝撃波の被害を受けていたのか、ガラス片が散らかっていた。


「もしかして……」


 そう悪い予感が走ったが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


「レイさん?」


 どうやらシエラさんは自力で寮から出てこれたようだ。

 外に出ること自体は正しい判断だと言えよう。


「外にいたのですね」

「うん。エビリスの結界のおかげでね」


 爆発の地点からは学校よりも遠かったのもあるだろうが、エビリス様の結界は相当強力なものだ。

 普通の魔導部隊でも突破することが出来ないような代物だ。

 彼は簡易的なものだと言っていたが、私が本気の力を発揮しても破壊できるかわからないほどだ。

 それほどのものを簡単に生成する彼はやはり私の魔王様だ。


「そうですか」


 すると、シエラさんは服についた汚れを落としてそう言った。


「そういえばエビリスは?」

「彼は学院の助けに行きました」

「ダメよ」


 彼女は今まで見たことのないような鋭い目で私を見つめた。


「どうしてですか? 生徒を助けるのは普通のことではありませんか」

「学院はただでさえ優秀な魔術師がいる。でも、街の方はどうなのよ。誰も守れる人はいないはず」

「あの爆発のこと、何か知っているのですか」

「……今は話せない。急いで街に行くわ」


 そう言ってシエラさんは駆け出した。


「ちょっと待ってください」

「何?」

「私もお供します」


 私は駆け出した彼女の腕を掴んで引き止めた。


「……わかった」


 それから私とシエラさんは街の方へと走り出した。


 商店街に着くと、爆発の影響はほとんどなかった。


「ガラスも割れていない……でもきっとアルクならするはず」


 シエラさんは真剣に考えながらそう言った。


「私はどうすればいいですか」

「確か魔導特殊部隊だったわよね」

「ええ、そうです」


 すると、シエラさんは何か思いついたかのような顔をした。


「魔族が来たと連絡してくれる?」

「まさかと思いますが、襲撃を偽装するですか?」

「そうよ」


 襲撃の偽装は重罪だ。

 国を揺るがすほどの事件を嘘だったと言ってしまったらどうなるか、それは私の地位であってもいけないことなのだ。


「……そこまでして何事もなかったら私は死刑になりますよ」

「その時は私が(そそのか)したとでも言って。それなら少しでも罪は軽くなるはずよ」

「……」


 私は考えた。

 どうしてもしなければいけないと言うのだろうか。

 もし、何もなかった時のことを考えたらどう責任を問われるかわからない。

 それでもシエラさんは真剣な眼差しで私を見つめてくる。

 ここは彼女を信用した方が良さそうだ。


「わかりました。それでは警報魔法を展開します」


 狼煙を上げる魔法を展開した。

 それと同時に禍々しい光が商店街を照らし、市民は慌てふためく。

 当然、市民はこの狼煙のことを知っている。

 知っているからこそ、恐怖を抱き慌てるのだ。


「魔族だぞ!」「みんな避難して!」「こっちだ」


 市民が一斉に動き始め、避難を始める。

 仕事を再開しようとしていた人もすぐ手を止めて走り始めた。


「これでいいのですね」

「ええ、これで大丈夫なはず」


 そして、しばらくすると建物が一つ崩れた。


「っ!」

「来たわね」


 シエラさんはその崩れた方を向いている。

 一体何が来たと言うのだろうか。


「私たちも逃げた方がいいのですか?」

「いいえ、私は別の方へと逃げるわ」

「同じ場所に逃げた方が効率がいいのではないでしょうか」

「レイさんはあの軍勢を知らないのよ……」


 そう言ってシエラさんは俯いた。

 その深刻そうな顔はその壮絶さを知っていると言うことを証明している。


「それなら私が行きます」

「レイさん?」

「あの軍勢というものを知っているのはあなただけです。それなら後のためにも私が犠牲になります」


 私がそういうとシエラさんは目を見開いて私を見た。

 得体の知れないものを知っている彼女は生き残るべきだ。

 であれば、私が囮にでもなった方がいいだろう。


「シエラさんの考えていることはわかっています。囮になって市民を助けようとしているのですよね」

「そう。それでいいのよ」


 シエラさんはそう言って目を逸らした。


「それこそ最悪な結果になります。情報は残すべきですから」


 建物が今も崩れていっている。

 何か強大な何かが攻撃しているというのは事実だ。

 私とて魔導特殊部隊の一員、時間稼ぎぐらいならできるだろう。

 エビリス様ほどにうまく魔法を扱うことはできなくとも、少しでも彼の役に立ちたい。


「レイさん……詳しくは話す時間がないの。でも一つだけ忠告、距離は十分に取ってね」

「距離、ですか。わかりました」

「……確かにレイさんが囮になった方がいいのかも知れないわね」


 するとまた俯いてシエラさんはそう言った。


「そんな悲しい顔しないでください。私なら大丈夫ですから」

「絶対に生きて帰ってきてね」

「何事も絶対はありませんから……エビリス様によろしくお願いしますね」


 そう言って私は駆け出した。

 得体の知らない者がいるのは確かだ。そして、強力な力を持っている。

 こんな私がどこまで防ぐことができるのかわからないけど、やるしかない。


「レイさん!」


 後ろでシエラが叫んでいる。

 それでも私は走り出す。

 これは間違いではないはず、今ならまだこの破壊を止められる。

 自分の力を信じないと、そして、この想いも信じないといけないのだ。

 私が本当に護りたいのはただ一人、エビリス様だけなのだから。

こんにちは、結坂有です。

やはり、レイは魔王時代のある人の想いを持っているようです。

果たしてその想いは叶うのでしょうか。


今回は少し短めですが、二回に分けての投稿です。

次は夕方八時ごろに投稿したいと思います。


それではお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ