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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第八章 新たな脅威の始まり
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魔王は負けを判断する

 メライアのおかげか、フィーレは爆風に飛ばされながらも無傷でいた。

 ふむ、それにしても目の前のアルクは珍しい力を持っているようだ。


「来たか、エビリス・アークフェリア!」

「その力はどうした?」

「これこそが神の力の一部なのだ」


 そう何かを誇るように腕を見せつける。

 彼の腕は黒い色の煙に覆われている。やはりあの力は”増幅の力”だ

 重力を増やしたり動きの向きを変えるなどと言った運動に関係することにおいて力を発揮するものだ。

 物理的に攻撃を加えることができないため厄介な相手でもある。


「神の力など存在しない」

「ふざけるな!」


 再度衝撃波が発生する。

 先ほどの規模とまではいかないが、周囲の木々が押し倒されるほどの力だ。


「なっ!」

「その程度の力では俺を倒すことはできない」


 俺は腕を振り上げ、”純然たる破滅”を纏う。


「神の力は全てを操作できるのだ!」


 しかし、彼の力は不発に終わった。


「なぜだ!」

「この力は破滅でしかない。一部変えた程度は止めることはできないのだ」


 純然たる破滅は破滅でしかない。

 それらを増幅することなどできるわけがない。


「……”持てる全ての力を捧げ、真の力を解放せよ”!」


 そうして、発生した力は全ての動きを静止した。

 空間自体の密度を増幅させたことで動きを鈍らせ、時が止まったかのような状態を作り出した。

 当然ながら、俺も動くことはできない。力の放出も今は不可能だ。


「はっ! 所詮この程度よ!」


 アルクは黒い煙を纏った腕を振り下ろした。

 ”増幅”を使って自らの力を最大限に強化された腕で俺の体の半分を破壊した。

 それと同時に空間の密度が戻り、再び動き始める。


「エビリスくん! ……え?」


 フィーレが叫ぶが、すぐに困惑の声をあげた。

 俺は当然強烈な力を受け吹き飛ばされている。体の半分を一度は失った。

 だが、今は無傷である。

 アルクの体が俺の受けたのと同じように抉れ、破壊された。


「がぁ! 何をした!」


 彼は絶叫する。

 俺が受けた攻撃は全て転換され、アルクに与えられたのだからな。

 当然痛みは凄まじいものだ。


「俺の力を見縊(みくび)らないことだな」


 受けた攻撃すらも支配の力でどうとでもできる。

 もちろん、そっくりそのまま返上することなど容易いことだ。


「まさか、これほどとはな」


 それでもアルクは絶命することはなかった。

 ニヒルとなった恩恵なのか半分不死身となっているのだろう。

 やはり、こいつも人間ではなくなっていると言うことか。


「それでも俺に挑むのか?」

「だが、これは私の勝利なんだ。お前らがここに来た時点で勝っていたのだ!」


 アルクはそう言って高笑いをする。

 一体何を言っているのだろうか。


「っ!」


 俺の脳裏に嫌な予感が過ぎった。

 それはフィーレも同じだったようだ。


「エビリスくん。学院の方は大丈夫だったの?」

「学院は大丈夫だ。しかしっ」

「街の方まで気が回らなかったようだな。これで作戦は成功した」


 俺の言葉を遮るようにアルクはいうと、すぐに高次元へと門を開いて姿を消した。


 しばらく沈黙が続いたが、美しく綺麗な声が響いた。


「……大丈夫なの?」


 一気に静かになった森でフィーレは声をかけてきたのだ。


「それよりも街の方にいかないと……くっ」


 足が動かない。いや、筋肉自体が動かない。

 俺はそのまま力を失ったように地面へ倒れた。


「ちょっと! 大丈夫なの?」

「ああ、早く急がないと……」


 すると、フィーレは俺の体を抑えて起き上がらせないようにした。


「少しは安静にして、無理し過ぎよ」


 彼女は膝枕をして俺を寝かしつけようとする。

 強烈な睡魔が襲ってくるが、それを支配の力でどうにかする。


「眠たいのなら寝てていいわよ」

「いや、すぐに動けるようしたい」

「お願いだから眠って」


 そう言うと彼女は俺の目元を手で押さえた。


「何をしている……」

「街の方は後で行けばいいわ」

「それでは間に合わない」

「あなたが無理をして失う方が最悪よ」


 彼女の腕に力が入ったのがわかる。

 それほどに俺のことを心配しているようだ。

 俺は自分の心配などしていない。それよりも街の方がどうなっているのか気になっている。

 ニヒルによって殺戮が起きていないか、不安だらけだ。

 すぐに駆け付けたい気分なのだが、体が言う事を聞かない。

 どうやら一度体を半分失った事で中枢神経がまだ混乱しているのだろうか。

 これだから人間の体は不便なのだ。

 魔王の時の体ではどんなに酷使したとしても素直に動いてくれたからな。


「俺のことなど考えなくていい」

「だめよ。あなたは私のパートナーなのだから」


 ふむ、そういえばそんな話をしていたな。

 そう言われてしまっては俺も返す言葉がない。


「とりあえず、今はここで休みましょう。魔物や魔族が来たら私が対処するわ」


 どうやらフィーレは本心から言っているのだろう。

 ここは彼女に甘えて体を再調整した方がよさそうだ。

 少し眠れば体も言う事を聞くはずだ。

 それにしても眠りから覚めて初めての気分だ。アルクとの戦いには勝てたのだが、戦術的に負けた。

 これからはしっかりと考えてから行動しなければ、また足を掬われることになるな。

 そんな事を考えながら、俺はゆっくりと目を閉じることにした。


   ◆◆◆


 エビリスくんがフィーレのところへと向かってから数分経った。

 学院の中に取り残されていた生徒たちも無事に救出することができ、生徒全員の確認もできた。

 そうとは言っても最悪な状況なのは変わりない。

 命に関わるような致命傷を負っている生徒は今のところいないが、大半の生徒が大怪我を負っている。

 入院が必要な生徒も少なくない。これは学院を一時的に閉鎖するしかなさそうだ。

 すると、一人の生徒がこちらへと駆け寄ってきた。


「ミリア先生! 街の方が大変です!」

「え?」


 そう、この学院の近くには商店街や住宅街がある。

 まさか、そこまで被害が及んでいると言うのだろうか。


「何があったの?」


 私はそう聞くが、その生徒は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに答えた。


「商店街を破壊している人がいるとのことで……」

「破壊? 爆発で壊れたわけではなく?」

「人の手で壊しているようです」


 あの爆発によって壊されたのではなく、人の手によって壊されていると言うのだろうか。

 一体誰が何のためにこんな事をしているのか私には全く見当がつかなかった。


 ドォン!


 そんな会話をしていると、また空気が振動するような音が鳴り響く。

 その音が轟くと周りの生徒は兢兢(きょうきょう)とした。

 当然、彼らは先ほどの惨状を知ったばかりだ。恐れるのも無理はない。


「……私たちもすぐに向かうわ。生徒たちのこと頼んでもいい?」

「ですが、相手は得体の知れない魔法を使っているのですよ」

「得体の知れない魔法だろうと恐れていてはだめよ」

「そうですか。わかりました」


 巷で噂になっている高次元の力というものを信仰している団体が行なったようだ。

 それにしてもこう言ったテロ行為に近い事をする集団だとは聞いていなかったが、やはり放っておいては行けない存在だった。

 私たち教師陣にも注意するよう呼び掛けられていた。

 まさか、こんなことになるとは誰が想像できただろか。

 私は生徒の治療をやめてそのまま商店街の方へと向かった。

 すると、エリーナも付いてきた。


「エリーナ?」

「ミリア一人だと心細いでしょ? 軍に応援は要請したから、時間稼ぎぐらいはしておかないとね」

「ありがとう。すぐに行きましょう」

「ええ、もちろんよ」


 そう言って私たちは駆け足で商店街へと向かった。


 商店街……いや、更地となった元商店街へと私たちは着いた。


「ここ、お店とかいっぱいあったところよね」

「確かここは服屋だったと思うけど……」


 建物も含め、街灯や整備された道路といったものまで全て破壊されてしまっている。

 一体何人がここを攻撃したというのだろうか。


「見たところ死体はないようね」

「市民は避難したってことかしら」


 人の死体はどこを探してもなく、血痕なども見当たらなかった。

 いち早く避難できたというのならよかったのだけど、誰が避難させたのだろうか。


「それにしてもこれはいくら何でもやり過ぎよね……」


 エリーナはそう言って建物の残骸に触れる。

 今朝まで賑やかであった商店街は今はただの瓦礫の山と化している。

 これは紛れもなく戦争行為だ。

 ここに住む一市民としても憤りを隠せないでいた。

こんにちは、結坂有です。


いくら魔王でも持っている体は一つだけ、同時に複数の事件には対処できなかったようです。

そして、商店街の市民を避難させた人は一体誰なのでしょうか。

皆さんも大体は予想できていることだと思います。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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