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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第一章 魔王は人間として生活したい
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魔王は模擬戦をする。科学を知る。

 メモを書き終えた教師は二人の名前を呼んだ。


「次はレナ、コリン」

「あー、めんどくさいなぁ」

「ごめんね、私なんかで」

「別にレナの責任じゃないよ。この魔導具との相性悪いから嫌なだけ」


 そういって二人は訓練場の中心に向かった。


「マーフィン、さっきはなんの魔法を使ったんだ? 空力系か?」

「電撃系だよ。あの魔導具の特性をうまく使わないとね」

「電撃系であそこまで威力を出せるのか?」


 俺は不思議に思った。普通電撃系を繰り出すと熱を発したりするものだ。しかし、さっきの試合ではそれは起きなかった。


「俺が発生させた高電圧の電流がケレインを感電させ、ダメージを与えたんだ」

「詳しく聞きたい」


 俺の知らない魔法の理論か何かなのだろうか。


「いや、魔法具の金属に高電圧の電気が流れて反発した。ただそれだけだって」


 詳しく教えてくれないのか、それ以上は答えてくれなかった。


 レナとコリンの試合はコリンの勝利だ。

 コリンは危ない場面は多々あったものの安定した攻撃でレナを追い詰めていった。対するレナは身体能力は高いのかコリンの攻撃をうまくかわしていた。

 しかし、コリンの魔法による攻撃で致命打を受けてしまい、試合は終了した。

 その他の生徒が次々に呼ばれていき、ついに俺の番になった。


「次、エビリスとユリスだ」


 入学して教室に入った俺に真っ先に攻撃してきたやつだ。こんな無礼なやつには負けたくないものだ。

 ユリスの魔法具の魔法特性は水系だ。対する俺は炎系、相性は悪いといったところだろう。


「エビリス! 頑張って」

「無理のない程度に頑張るよ」


 俺はみんなと同じように訓練場の中心に向かう。

 ユリスが俺の前に立つ。


「本当に魔法なんて使えるのか、俺が試してやる」

「試されなくても試験で合格している」


 ユリスは何やら不敵な笑みを浮かべて俺の方を見る。何かを企んでいるのだろうか。


「試合開始!」


 教師の合図でユリスと俺の魔法障壁が発生する。


「いつまでクールでいられるかな!」


 ユリスが大ぶりの一撃を俺に振るう。俺はその攻撃をエストックで流すように受け流す。

 この時、俺は周りから見えないように微量の魔力を放出し相手の魔導具にダメージを与えてみる。さすがに魔導具の品質がいいのか、俺の攻撃は無意味なようだ。


「へぇ、頭は回るんだな」

「どうだか」

「次はどうかな」


 再度大ぶりの攻撃が来る。しかし、今度は魔法を付与しているようだ。

 水を発生させる魔法は怖くない。傷口から相手の体内に水を入れるといったことで致死に至らせるものだ。

 人間には有効だが、魔族には有効ではなかったためあまり使われていなかったな。

 水を発生させた大剣を大きく振り回し、周囲に大きな水滴を撒き散らす。

 それが俺の予想と反して攻撃力を持っていた。


「これは……」

「ズルイよ!」


 外野からマーフィンとコリンの声が聞こえる。


「ズルくねぇよ。勝負には勝つんだ」


 さらにユリスは水滴を撒き散らす。俺はダメージを最小限に防ぐべく、離れた場所に逃げる。


「逃げるのか?」

「流石に危ないと思ってな」

「じゃ、これは避けられるか!」


 太い線のように大剣から噴射された水はまっすぐに俺の方へ向かってくる。

 その勢いは凄まじく、これを避けると流石に人間離れしている。ここは剣で弾くしかないか。

 エストックの剣先に魔力を纏わせることで耐久性をあげ、その強烈な攻撃を防いだ。

 その時、持ち手のガード部分が削れていくのが見えた。

 何か細工でもしたのだろうか、そう思いながら俺は次の攻撃に移った。


「防いだのか?!」


 相手は動揺している。俺は炎でもう一人の俺を作り出し、俺は姿をくらます。


「くそ!」


 ユリスの大振りは空を切り、俺はユリスの背後についた。


「ぐはぁ!」


 俺はユリスの背中をエストックで突く。高火力とまではいかないが、致死のダメージを与えることに成功した。

 そしてユリスの第二の障壁が発生し、戦闘不能となった。

 周りにはあの炎が見えていないはずだ。つまり、俺がユリスの大振りをかわして背後を突いたようにしか見えていないだろう。


「勝者、エビリス! 新入なのによくやったな」

「相手が大振りだっただけだ」

「はは、確かにそうだな」


 ユリスは呆然としていた。

 確かに二回目の魔法は異常だった。水の中に砂のような物が混じっていたが、あれが原因だろう。

 俺が戻るとレナとコリンが心配そうに見ていた。


「剣で防いでたけど大丈夫だった?」

「うん。あれは魔導具をボロボロにする魔法なの」


 確かにガード部分は削れてしまったが、刃先は大丈夫だ。


「水がうまく弾いたんだろうな。ところであれは何なんだ?」

「マーフィンがよく知ってると思うけど」


 コリンがマーフィンに話を振る。


「あれは研磨剤を混ぜた水を高圧で噴射することで相手や魔導具に攻撃を与えるんだ。俺としては初心者相手ににするのは大人気ない」

「そうだよね? あれはやり過ぎだよ」

「研磨剤か」


 そんなものを混ぜていたのか。


「ユリスもあれよね。自分の力に見合ってない大振りな剣を持ってたからエビリスに避けられたんだもん。かっこ悪い」


 コリンが軽く嘲笑う。それもそうだろうな。


「あれはユリスの判断ミスだね」


 続いてマーフィンも答える。


「やっぱり、ミリア先生の科学って魔法でもうまく使えるから勉強しててよかったと思うよ」

「ああ、確かに使える部分はあるな」


 コリンが科学を口にした。ユリスの研磨剤と水を使った攻撃、マーフィンの電撃魔法は科学を勉強すれば謎が解けるのだろうか。


「科学はすごいのか?」

「少なくとも私はすごいと思うよ」

「でも、あまりみんなは勉強しないよ。魔法と科学は別物って考えてるからね」


 やはり魔法とは別のものなのだろう。だがそれを応用すると強力な魔法が扱えるわけか。

 この人間が裕福に暮らしているのもそれに関係しているのだろうか。


「今日の授業は終わりだ。今日負けた奴はなぜ負けたのか考えるように、勝った奴も次に負けないよう考えてこいよ。以上だ」


 俺とユリスの勝負が最後だったようで一限目の授業は終わった。

 俺はこの授業で科学の偉大さに気付いたのだ。

 あの強力な魔法攻撃は科学のおかげなのだからな。人間は魔法以外の知恵を磨いて自ら力を生み出した。

 それは魔法のような才能に関わるものでもない、皆が平等に扱えるものだと知った。

 ユリスとの魔法勝負では正直危ない部分だった。俺がもし魔力で剣を守っていなければ刃先も削れてしまっていただろう。

 あのような簡単な魔法で俺に危害が及ぶとは思ってもいなかった。


 訓練場から出て、教室に戻っている間はずっとそのことについて考えていた。


「エビリスくん? 難しい顔してるよ?」

「あ、いや何でもない」

「さっきのはエビリスにとっては刺激的だったんじゃないのか?」

「そうだよね。いきなり戦わされるんだからね」


 まぁそう思ってくれた方が不審に思われずに済むか。


「でも、勝ててよかったよ。危なかったのは仕方ないけど」


 レナが話に乗っかってくる。


「ところで、次の授業って科学技術だよね? レナ、ちゃんとフォローしてあげてね」

「う、うん。できるかな」

「大丈夫だよ。レナは科学の成績も高いし」

「じゃ頑張ってみるね」

「すまないな。二回も教えてもらって」


 レナは手を振って否定する。


「魔法実技は逆に教えてもらったしね。気にしなくていいよ」


 人間は優しいな。こんな温かい対応は魔王時代にはなかったな。みんな戦争でそんな余裕はなかったからだ。

 俺は次の授業に向けて準備を始める。科学技術と大きく書かれた教科書は俺の興味をそそる。

 知らないこと、不安はあるものの十分に期待していいものだろう。

 チャイムが鳴り、二限目の授業が始まろうとしている。


「席について。授業始めるよ」


 ミリア先生が教室に入ってくる。それと同時に生徒たちは席に座り始める。


「じゃ、科学技術の授業を始めるね」


 俺はこの時、科学について初めて学ぶのであった。

こんにちは結坂有です。

魔王は未来の人間がどのように科学を応用しているのか知ることができました。これから魔王はそれらの科学をどのように使っていくのでしょうか。

これにて第一章は終わりとなり、次回からは第二章に突入です。


それでは次回もお楽しみに。

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