勇者としての自覚
フィーレを狙う何者かはとりあえず、無力化した。
ニヒルの力も俺の侵食系魔法などで完全に消去し、エレーナの配慮でその生徒は自室へと運んでもらった。
そして、俺たちは勇者であるフィーレの部屋へと向かっていた。
「本当に勇者フィーレに会うの?」
「ああ、そのために来たからな」
「そうなんだ……」
何か言いたそうにしているが、それ以上は何も言わなかった。
それからフィーレの住んでいる部屋の前へと着いた。
俺はインターホンと呼ばれるものを押す。
『はい』
「……エビリス・アークフェリアだ」
このスピーカーと呼ばれるものは便利だ。
音波系の魔法をうまく利用して作られており、さらには科学の力もある程度使われていると言われている。
詳しいことはまだわからないが、とりあえず便利なものだ。
まぁ俺自身まだ装置に話すということはあまり慣れないのだがな。
『エビリス様ですね。用はなんでしょうか』
「先ほどのことを話したくてな」
『わかりました』
勇者のメイドであるレイアがそういうと、しばらくして扉が開いた。
そこにはいつも通りのメイド服を着た彼女が立っており、その奥にはフィーレの姿も見えた。
「エビリスくん……」
「フィーレか。今は落ち着いたか」
俺がそういうと彼女は俺から顔を逸らした。
「ええ、少しはね。さっきはごめんなさい」
「気にするな。誰でも取り乱すことはある」
最初に顔を見たときはかなり落ち込んでいた様子だったからな。
何があったのかわからないが、嫌なことがあったのは間違いないだろう。
「そうよね。立ち話もあれだし、部屋に上がって」
「……私は、ここで解散するね」
すると、俺の横に立っていたエレーナがそう切り出した。
「勇者と会うにはエレーナの許可がいるのではないか?」
「貴族学院に入る時だけよ。これ以上は生徒同士の話、教師たちが干渉することはよくないからね」
ふむ、一人では貴族学院には入れないということは知っていたな。
寮に入るには必ず、寮生か教師の一人が同伴でなければいけないそうだ。
「なるほど、確かにそうかもしれないな」
「うん、じゃあまたね」
そう言ってエレーナはどこか逃げるように帰っていった。
フィーレに会うのはあまり好きではないのだろうか。まぁそのことについては俺が知る由もないのだがな。
「部屋に入るぞ」
「ええ、どうぞ」
フィーレとレイアに連れられて応接間へと向かっていった。
勇者の部屋は他の人よりも大きくなっており、この時代では豪邸ほどだと言われている。
確かに普通の部屋にはない聖剣のかかった棚があったりと色々珍しいものが歩いているだけで目に入ってくる。
聖剣を持っているあたり、普通の豪邸でもなかなかないような光景だ。
応接間に着くとレイアは一礼をして飲み物をテーブルの上に並べてくれた。それを挟むように俺とフィーレはソファへと座る。
「それにしてもエビリスくんから私の部屋に来るのは珍しいわね」
「明らかに様子が変だったからな。心配になっただけだ」
「……心配してくれてたのね」
視線を逸らしながら彼女はそう言った。
「要らぬ配慮だったか」
「別にそんなことはないわ。嬉しいのには変わりないからね」
彼女は一息ついてから続けて口を開いた。
「今朝、マリークが目を覚ましたということで病院に行ったの。そこで色々とあって彼を殺してしまった。それでひどく動揺してしまって……」
「そういうことだったのか。どうしてマリークを殺す必要があったんだ」
「彼に残っていた謎の魔力が暴走を始めたの。ある程度は取り除いてくれていたのだけど、ほんの少しだけまだ残っていたようで」
普通であれば、ニヒルの力を完全に消すことなど不可能だ。俺の侵食系の魔法であってもニヒルに適した魔法陣を展開する必要があるからな。
何時間、何日やったとしてもどうしても残っているものだ。
まさか、エーデンがあの一瞬で分け与えていたとはな。俺も気付くべきだった。
「ふむ、俺もその残存魔力については考えるべきであった。すべての責任がフィーレにあるわけではない。それに暴走していたのなら被害が出ていたのだろ?」
「そうね。医師や看護師たちを守るためにも必要な行動だった。だけど、本当に殺すべきだったのかと今でも疑問なの。他にも何かできたのではないかってね」
フィーレはそう自分を戒めるように言って、紅茶を一口飲んだ。
自分がもう少し考えていれば、マリークも助けることができたのかもしれない、もう少し穏便にことを運べたのかもしれないと悩んでいるのだろう。
それができたとして、後悔するのも今は意味のないことだ。それだから彼女は覚悟を決めたと言った。
その点については成長したと思う。しかし、もう少し理解しておかなければいけないことがある。
「俺から言える助言としては勇者としての自覚を持つといい」
「勇者としての……自覚?」
「ああ、力があるだとかそう言ったことではない。いろんな意味での自覚だ」
俺の言葉に疑問を浮かべて顔を傾げているフィーレに俺は続けて説明する。
「自分は勇者だからこう言ったことができる、というのは考えるだけ無駄だ。それよりもできないことをしっかりと意識することが大事なんだ」
「自分のできないことを意識する……」
そう復唱したフィーレの目は真剣だ。
「周りから勇者だと期待されてきた生活を送ってきたのだろう。それで本当にできないこともあれこれと考えてしまうようになったのではないか」
以前、彼女と初めて対峙したときに勇者としてではなく一人に人間として見てほしいと言っていたな。
人というのは自分よりも強い人に頼りたくなるもの、勇者というのは強い人の代表例だろう。
それが行きすぎた結果、圧力として本人に降りかかってくる。
そのため、本来の能力を発揮できずに終わる。さらにそれが重い枷となって次の行動も萎縮気味になってしまい、負の連鎖が始まってしまうのだ。
今回はフィーレ自身で覚悟を決めたことでひどく落ち込むことはなかったようだが、場合によっては自己嫌悪に陥っていた可能性もある。
「やっぱりエビリスくんはなんでも見通しているのね」
「そうか?」
「私の悩んでいること、すぐに言い当てるんだから」
そう言って彼女はコップで顔を隠すようにまた紅茶を一口飲んだ。
「俺の特技のひとつだ」
「ふふっ、人の悪いところを見つけるのが?」
そう悪戯顔で微笑を浮かべた彼女はそう言った。
どうやら俺をからかっているようだ。まぁその調子を取り戻せたのならもう大丈夫だろう。
「そう言った解釈となるのは少し心外だな。まぁ言い換えればそうなるのだが」
「冗談よ。勇者としてできることだけでなく、できないこともしっかりと自覚しろってことね。今回もエビリスくんに助けられたわ」
そう言って今まで以上に表情が明るくなっていた。
俺の言葉で助かったのなら嬉しい。
今後も彼女には強い勇者になってほしいからな。まさか魔王が勇者に助言とは、なかなか珍しい構図ではないか。
「助けになったのならよかった」
「……ところでエビリスくん」
すると、コップを置いて彼女が切り出した。
「なんだ」
「私とペアにならない?」
「ペア?」
「うん。お互いパートナーとして一緒に戦いそして……一緒に過ごしたりとか、するの」
自分の言葉に赤面しつつもそう言った。
「いい考えかもな。だが、今はやるべきことがあるからすぐには難しい」
「検討、してくれるの?」
「その方が俺としても動きやすくなるからな」
勇者と聞けばほとんどの人間は話を聞いてくれる。それが軍上層部であってもだ。
そう言った面で勇者とペアで行動するのは利点だらけで、欠点が何一つない。
当然、俺としても検討に値するものだ。
「そっか、それならよかった」
耳まで赤くしたフィーレは一見すると乙女のようにも感じられた。
勇者としては彼女はまだ若い。そう言った一面が見られるのも今だけなのだろうな。
こんにちは、結坂有です。
フィーレもいつも通りの調子に戻ってきたようです。
魔王の言う通り勇者にもできること、できないことがあります。もちろん、魔王であるエビリスにもできないことがあるようです。
誰でも欠点を持って生きているのですね。
それでは次回もお楽しみに。




