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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第七章 魔王は普通に生活したい
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魔王は怒ると怖い

 シエラの食材でどうにか昼食を食べることができた俺たちは部屋でゆっくりと過ごしていた。


「エビリスくんは疲れているのですか」


 シエラの見ていない間にレイが膝に手を置いて、優しく撫でてくる。


「何を考えている」

「他意はないですから。疲れているのならこのままベッドで……」

「ちょっと、何してるの!」


 すると、奥にいたシエラが急ぎ足でこちらに来た。


「エビリスくんが疲れているから寝かせようとしていただけですよ」

「それ以上のことも考えているでしょ」

「疲れを癒すだけです」


 レイがそういうとシエラが顔を赤らめて動揺しながらも口を開いた。


「あ、朝にエビリスが言っていたことを……す、するの!?」

「まさか、シエラさんがそう言ったことを考えていたのではないですか?」

「っ!!……違うからね」


 なぜかシエラは俺に向かって言った。

 赤面した彼女はどこか新鮮だな。もう少しからかったらどうなることやら。

 しかし、こんなことをしている場合ではないのは確かだ。


「わかっている。俺は少し外に出る」

「外で休憩するのですか? エビリスくんはお外で……」

「出るのは俺だけだ。二人はここにいろ」

「どこにいくの?」


 シエラが心配しているのか、そう聞いてきた。


「少し気になったことがあってな」

「気になったこと?」

「フィーレのことだ。レイやシエラも一緒だと色々とまた誤解されそうだからな」


 俺がそういうとレイはどこか納得したように頷いた。


「そんなことを考えていたのですね」

「だから来るなよ」

「……はい」「わかったわ」


 二人の返事を聞いて俺は立ち上がった。

 部屋に出ると、俺は部屋一帯を結界で防衛した。

 俺が出ている間にアルクが来てしまえば、何もできないからな。

 この結界ならある程度は時間稼ぎはできるだろう。


 俺が寮の外に出るとエレーナの姿が見えた。


「ずる休みとは感心しないわね」


 すると、彼女は俺を見つけるなりすぐに駆け寄ってきた。


「色々あってな。ずる休みというわけではない」

「……わかってるわよ。レイのこと、好きなの?」

「好きってどういうことだ?」


 エレーナはしどろもどろになりながらもそう質問してきた。


「そのままの意味よ」

「ふむ、別に恋愛的な意味ではないが友達としては好きかもしれないな」

「友達かぁ、友達なのね」


 彼女は何か納得したかのようにそう言った。しかし、妙なことを考えているのではないだろうか。

 まぁ今はそんなことはどうでもいいだろう。


「特に話すことがないのなら、俺は行く」

「ちょっと、どこ行くつもりよ」

「貴族学院寮にある勇者の部屋に行く」


 そういうとエレーナは意外そうな顔をした。


「どうした?」

「別に? 私も一緒に行くわ」

「どうしてそうなるんだ」


 彼女と一緒に行く必要はないと思うのだがな。


「普通、一般学院の生徒が貴族学院の寮に行くには先生と一緒じゃないといけないのよ?」

「そうなのか」

「そうなの」


 エレーナは少し悪戯顔でそう言っていた。

 何か裏がありそうな気もするとは言え、そんな決まりがあるのなら仕方あるまいな。


「では、一緒に行くしかないな」

「じゃ行こか」

「ああ」


 そう言って俺はエレーナと一緒に貴族学院寮に向かった。


 貴族学院に着くと、違和感があった。


「エビリスくん、この気配って」

「にしては少し変だ」

「じゃあ、あの人かな……」


 そう言ってエレーナが指さしたのは妙な魔導具を持っていた男であった。


「だが、ここの生徒のように見えるがな」


 あの男は貴族学院の制服を着ている。

 明らかに生徒であるのだが、力の方向的にあの人で間違いないだろうな。


「聞いてみよか……あの!」

「っ!」


 エレーナが声をかけると男はひどく驚いた。

「な、なんだよ」


「何してるのかなって思って」

「何も、何もしてねぇよ」


 ふむ、明らかに怪しいな。


「ならどうしてそんなに動揺している?」

「調子に乗るなよ。庶民風情が!」


 すると、男は魔導具を振り上げて怪しい光を放った。


「エレーナ!」


 俺は彼女の腕を引っ張ってその光を見せないように目を手で抑えた。


「くっ!」

「エビリスくん?」


 やはりあの光はそう言った魔法か。

 防御魔法を展開しておいたが、ニヒルの力も持っていたようですぐに突破された。


「光浸透系の細胞破壊魔法か。その判断は確かに正しい」

「目の細胞を破壊されたお前に何ができるんだよ」


 目で見て確認はできないが、俺の手には大量の血が付いている。

 そして、顔も血塗れになっていることだろう。


「目から血が出てるわよ」

「わかっている」

「光浸透系ってそんな軍用魔法を使ったの?」

「お前らがいけないんだ。俺の計画の邪魔をしやがって」


 目の治療はかなり集中しなければいけないため、ここでの治療は無理だ。


「計画?」

「勇者様に……だが、お前らがいると邪魔なんだよ!」


 そういうとまた光浸透系の魔法を繰り出してきた。

 エレーナはそれをうまく防いだようだ。


「なっ! これを防ぐだと」


 彼女は特殊魔導部隊の一員だ。この程度の魔法であればすぐに防げれるだろう。

 しかし、奴の攻撃は止まらない。


「これはどうだ!」

「その程度の魔法なら全く問題ない」

「目が見えないのにどうしてそんな、正確に……」


 魔力を感じとることができればこの程度簡単だ。

 それよりもこいつが何をしようとしているのかが気になるところだ。

 問いただすことも可能だが、記憶を刈り取った方が良さそうかもな。


「どうした、もう手札がないのか」

「ふざけるなよ。雑魚がよ!」


 かかったな。

 魔法の展開には魔力を放出する必要がある。

 その瞬間に俺の魔力を潜り込ませることで相手の体内に自分の魔力を侵入させることができる。


「ガァッ!」

「お前の考えていることを吐き出せ」

「ああぁあ!」

「ちょっと、エビリスくん?」


 横にいるエレーナは何が起きているのか理解できないのか、目を細めて彼を見ている。

 まぁこれはやっている当人にしかわからないからな。


「なるほど、お前はフィーレのことが好きなのか」

「……それがどうした!」

「力だけで惹きつけようとするのは子供のすることだ。好きなら好きと堂々と言え」


 こいつの記憶を覗いてみれば、どうやらこいつはフィーレのことが好きなようだ。

 勇者が苦手とする魔法を強化するニヒルの力を使ってどうやら支援しようと考えていた。そして、その力でフィーレに洗脳魔法を使うと言う予定だった。

 この計画を考えたのは不安そうな顔で病院から出てきたのを見てそう計画を立てたみたいだが、その程度で気に病む彼女ではない。

 今頃メイドのレイアと話したりして落ち着いていることだろう。


「っ、お前に何がわかる!」

「力を求めようとするのは別に構わんが、力に溺れるのはこの俺が許さん!」

「……」


 しばらく怒っていなかったが、つい昔のことを思い出してしまった。

 俺としたことが感情をうまく制御できなかった。

 それにしても反応がないな。


「エビリスくん……」

「なんだ」

「顔面血塗れで言われてもただ怖いだけよ?」


 確かに言われてみればそうかもな。

 だが、力に溺れる奴は魔族にも人間にもいる。この時代になっても同じということか。

 本質的にはいつの時代も変わらないようだ。


「言いたいことを言ったまでだ。さすがにここまで近付けば聞こえるだろう」

「ふふっ、気絶してる人に怒ってるのは見てて滑稽だったわ」

「気絶しているのか」

「だって、その顔だとただ恐ろしいだけよ」


 ふむ、眼球を完全に抉られた上に顔が血塗れになった人を見るのはそんなに怖いのか。

 実戦ではこれぐらいの怪我などよくあることだろうに。


「まぁ無駄な叱咤だったということだな」


 俺は彼からフィーレに関する記憶を消してから自分の治療を開始したのであった。

こんにちは、結坂有です。


今回は力に溺れた貴族学院生徒にぶち切れる回でした。

これが今後どうなることになるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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