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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第一章 魔王は人間として生活したい
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魔王は模擬戦を観る

 訓練場に到着する。

 訓練場にはいくつか魔法具が常備されており、そこから好きな魔法具を選ぶようだ。

 俺はエリーナに学院を案内してもらった時を思い出した。


『魔法実技はみんな必死よ。だって、最初に質のいい魔導具を手に入れるのにみんな血眼になって密集するんだから』


 その言葉を思い出した。

 あのように並べられた魔導具にみんなが殺到するとなれば、どうなるかは想像がつく。

 そして、教師から魔導具を選ぶよう指示が出る。


「一級品、もらい!」


 ユリスが少しフライング気味に飛び出したおかげで、一級品の魔法具を手に入れたようだ。ユリスが手に入れたのは大ぶりな剣の魔法具だ。

 扱うには多少力がある人でないと難しい品物だ。

 俺とレナを含めたその他大勢の女子は遅れて魔法具を選び始める。


「エビリスはこれ見るのは初めてだよね」


 後ろから来たマーフィンに呼び止められる。


「驚いた。みんな必死だな」

「一級品がいいわけではないんだがなぁ」


 マーフィンが言う通り一級品の魔導具が全てではない。扱う人の相性もあるため、自分にあったものを選んだ方がより良いと言うことだ。


「じゃあ、俺はこれにするよ」


 マーフィンが選んだのはサーベル型の魔導具だ。特性は電撃魔法を付与することができるようだ。

 一級品ではないものの非常に扱いやすい上、付与される魔法特性も汎用性が高い。彼の見立ては素晴らしいものだ。

 それを見て俺は少しばかり質の低いものを手にした。エストックと呼ばれる刺突剣の一種だ。魔法特性は炎系だが、これも使い方次第では一級品に近い能力を発揮するだろう。

 レナはメイス型のものを選んだようだ。厳つい棘などはなく、打撃系に特化している。


「みんな、武器を選んだな? じゃあ、次はあれに向かって魔法を放ってみろ」


 教師の指示でみんなが人型の木でできた人形を攻撃し始める。

 人形には防御魔法が幾重にも重ねられており、そう簡単には壊れないように設計されているようだ。

 近接系の魔法具を持った生徒は人形に接近し、連続的な魔法を付与している。

 遠距離系は人数は少ないものの、高火力の魔法を出力しているようだ。どれも俺の時代では一級魔法師レベルだ。

 これはおそらくあの魔石のおかげもあるのだろうが、単純に魔導具の質が高い。

 俺が持っているものは他の人が持っているものには多少劣るものの、戦場ではよく見かけたものに近い。

 一級品となればもっと強力な魔法を付与することができるのだろうな。

 そう見ていると、レナが俺の制服の袖を引っ張る。


「こっちが空いてるから」


 レナに引っ張られながら向かう。誰も使っていない場所で俺たちは練習する。

 マーフィンは遠目で少しわかりずらいが、しっかりと練習しているようだ。しかし、出力が低い。何か自分に負荷をかけて練習しているのだろうか。


「じゃあ、私から先にやるね」


 レナがメイスで人形に攻撃する。しかし、魔法の付与が間に合っていないのか、ただ打撃を与えただけだった。

 もちろん、それだけでも十分攻撃力はあるが、本来の威力ではない。


「それは爆破系の魔法が付与できるんだろ?」

「え? どこかに書いてるの?」


 まさか、魔導具の性質を読み解けないのか。まぁ実技が苦手なら無理もないか。


「その武器は爆破系だ。打撃の瞬間に魔力を流し込むと発動する」

「え、そうなんだ」


 レナがもう一度攻撃してみる。人形に当たると小さな破裂音が聞こえた。

 威力は小さいものの魔法が発動したようだ。


「やった!」

「性質を読み取れなければ魔導具の扱いは難しいからな。ゆっくりと慣れていけば良い」

「私が教えられる側になっちゃったね。ありがと」

「そうだな。次は俺がやってみよう」


 俺が人形に攻撃を仕掛ける。魔力の出力を最小限に抑えながら攻撃する。

 この魔導具は遅延発生型の魔法が使えるようだ。

 斬った後に炎が発生する凶悪な武器だ。もし相手が人間や魔族なら傷口はひどく火傷をし、修復が難しい怪我になるだろう。

 現にこれを受けて後遺症が残った魔族は何万といる。

 発生した炎は小さいものの十分攻撃力のあるものだ。

 下手過ぎるのも逆に目立つと思い、平均レベルを維持したつもりだ。


「魔石がないのに魔法が発動した……」


 レナがそう呟いた。


「今の俺にはさっきのが限界だな」

「火力は低いかもしれないけど、十分だよ」


 確かに攻撃力はある。だが、戦争で使うにはまだ弱い。防御魔法をまとった兵士には有効打は与えられないからだ。

 すると、コリンがやってきた。


「どうなるかと思って様子見てたけど、初撃で魔法を出せるなんてね。やっぱり編入するべき人材だってことだね」

「そこまでなのか?」

「だって、私たち半年近く練習してやっとここまで来たのよ?」


 半年、遅過ぎると思うのは俺だけだろうか。

 戦場で相手は半年も待ってはくれない。与えられた魔法具をすぐに使えなければ意味がないのだ。

 いや、これは魔族での場合か。あの魔石を使ったとしても魔族の平均レベルとは程遠いのだろう。


「たまたまこれとの相性が良かっただけだ」

「そうなのかな?」

「私、魔石を使っても魔法出せなかったから」

「レナちゃんは可愛いからさ。こんな武器なんていらないよ」


 コリンがレナの肩を軽く叩く。


「でも、守らないといけない人たちがいるから」

「その可愛さがあるなら守れるよ」


 敵に色仕掛けでもするつもりだろうか。確か、昔にそんなことをして難を逃れた上級魔族が一人いたような気がするな。

 それも今では遠い昔か。


「守る人がいるなら戦うと良い。俺たち魔法師は人類の切り札だからな」

「そうね」


 コリンとレナが納得する。続けてコリンが口を開く。


「もしかして、エビリスってすごい人?」

「ただの孤児だ。それほどすごくはない」

「そうなのかな……」


 すると、教師が手を叩いて練習の終了の合図を出す。


「よし、ウォーミングアップは済んだな。次は模擬戦だぞ」

「模擬戦か……」

「もしかして怖いの?」


 コリンが見つめてくる。


「ああ、そうだな」

「大丈夫よ。魔法障壁が壊れた時点で終了だから。実質痛みはあまり感じないよ」

「魔法障壁?」

「えっと、なんて説明したら良いかな」


 コリンがレナに話を振った。


「あの道具を体に取り付けると、全身に魔法障壁が発生するの」


 レナが指差したのは教師が持っている帯だ。

 その帯には特殊な魔石が取り付けられているようだ。


「魔法障壁は致死量のダメージが蓄積されると壊れるようになってる。それが壊れた瞬間に第二のさらに強力な魔法障壁が発生して競技者は守られる」

「確か、第二の障壁は完全防御用だから動けなくなるんだよね」

「うん。競技者のどちらかが、戦闘不能になった時点で試合が終了だよ」


 なるほど、魔法障壁を携帯できるのはすごいことだが、動けなくなるのか。戦場では使えないが、こういった模擬戦といった場合では使えるものだろう。


「生徒の安全はしっかりしているんだな」

「無理に戦うこともできないし、安全だよ」

「そうか、それなら安心だ」


 下手に加減しなくても良いということだな。それなら安心して魔導具を振るうことができる。


「じゃ始めに優秀な奴からやってもらおうか。マーフィン、ケレイン、やってみろ」


 マーフィンとケレインが訓練場の中心に向かう。両者は立ち位置に向かい魔法具を構える。

 マーフィンはサーベル、ケレインは長剣を持っていた。魔法具の形状からしてもマーフィンの方が不利になるだろう。


「試合開始!」


 教師の合図とともに両者には魔法障壁が発生する。

 マーフィンは相手の隙を突くようで、攻撃の隙を狙っているようだ。対するケレインは魔法具のリーチを活かした攻撃を繰り出している。

 ケレインの攻撃は大振りだが、マーフィンの魔法具に対しては優位に働いているようだ。

 サーベルは形状からして大型の武器を防ぐことが難しい。それを狙っているのだろう。

 俺の横で見ているコリンが呟く。


「いくらマーフィンでも厳しそうね」

「いや、まだ魔法を使っていないからな」

「マーフィンのって、雷撃系だよね」

「そうだな」


 この話を聞いてレナが入ってくる。


「雷撃系なら勝ち目あるよね」

「どういうことだ?」

「金属は電気をよく通すからね」

「あ、そういうこと!」


 いまいちわからない話をしている。


 マーフィンの相手をしているケレインは空気を操る魔法を繰り出しているようだ。はっきり言ってあまり上手に扱えていないように見える。

 しばらくするとケレインの大ぶりに隙ができた。それを逃さずマーフィンが刺突をする。

 ケレインはそれを防ごうと体を器用に動かして長剣で刺突を防ぐ。

 防御の瞬間、マーフィンは高出力の電撃を流した。

 そして、ケレインは弾き飛ばされ致死量のダメージを受けたようだ。

 第二の魔法障壁が展開され、ケレインは攻撃することができない。


「勝者はマーフィン。よくやったな」

「ありがとうございます」


 マーフィンは爽やかに答え、俺たちの方へ向かってくる。


「エビリス、あんな感じで戦うんだ。できそうかい?」

「あれほどうまく行くかわからないが、やってみる」

「マーフィンは一般学院で天才なんだよ? 簡単にできるわけないじゃん」


 コリンがそう答える。確かに、ここまでうまく戦えるのであれば十分だろう。


「そこまでじゃないよ。貴族学院にはもっとうまく扱える人がいるからね」

「貴族学院はズルいんだよ」


 コリンがムッとしているところをマーフィンが宥めている。そして、教師が先ほどの試合の内容をメモしているのであった。

こんにちは、結坂有です。

今回は模擬戦を観る回でした。

この世界の人間は魔法と科学を融合させた戦い方をするようです。以前の魔王の時代にはなかった戦い方のようです。

次回は実際に魔王が模擬戦をする回となります。


一五時投稿ということで数日は様子を見ることにします。(色々と振り回すようですみません…)

では、次の作品もお楽しみに。

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