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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第七章 魔王は普通に生活したい
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魔王は力を比べる

 俺がアルクの前に立つとシエラが前に出る。


「兄さん! どうしてこんなことをするの?」

「お前の力だよ。こいつらに喰わせれば強い下僕となるのだ」


 しかし、その考えは甘いと言える。

 エグザリウスの力は確かに強力ではあるが、それを扱えるだけの器がなければ機能しない。

 俺とて魔王の力を手に入れるのに魂幹の一部を犠牲にしたのだ。

 果たしてそのニヒル如きに何かを捨てるほどの度胸や覚悟があるのだろうか。


「力を得るには楽して手に入らない。それはわかっているだろ」

「楽か? 人を喰らい魂を融合する。そうすればどんな力でも手に入れられるのだ」

「少し勘違いをしているな。融合ができたとしてもその力に耐えられるほどの人間なのかと言うことだ」


 エーデンは理性を捨て、人間と言う存在ではなくなった。

 それも犠牲にした結果だ。

 ニヒルには何も捨てることはできない存在だ。新たに力を得たとしてもその本領を発揮できない。


「私の下僕とてまだ考える力は残っている。それぐらいできるはずだろ」

「ふむ、考えている振りではないか?」


 俺がそうアルクを睨むと彼も俺に睨み返してくる。


「……お前らが考えていることをこいつらに教えてやれ」

「了解……」


 低い声で一部のニヒルが答える。

 やはり、思考は低下している。俺が魔王時代にであった奴らとは全く違うものだ。

 不完全なのかわからないがな。

 ニヒルは俺たちの周りを取り囲む。この程度、考えるに値するはずがない。


「それだけか?」

「結界だ! 結界を作れ」


 すると記憶の奥底で見たものと全く同じ結界が展開された。

 いかにも弱々しいものだ。おそらくシエラでもこれは崩せるほどだ。


「所詮その程度ということだ」

「なっ!」


 俺は右腕を払うと結界も同時に割れる。

 空気が淀むほどの強烈な音を立てて崩れていく。そして、その反動でニヒルらは押し飛ばされる。


「お前の部下は俺の足止めにもならないようだな」


 そう言って、俺はアルクの方へとゆっくりと進む。


「ふざけるなよっ!」


 アルクが右腕を俺の方へと伸ばす。

 すると、周りの魔力の反応が強まる。


「何をするつもりだ」

「自分の力で全てやるつもりだったが、どうにも無理そうだ」

「その通りだな」


 アルクは鋭い目を見開いて俺を捉える。

 このような目もできるものなのだな。


「我が先祖の力、今ここに解放する!」

「兄さっ……きゃっ!」


 禍々しい光を纏いながら進む光線がアルクの右腕から放たれた。

 それから俺を庇うように飛び出したシエラを俺の背後に引っ張る。

 どの程度の威力か分からないが、全力で魔力壁を展開する。


「くっ……」

「エビリスくんっ!」


 禍々しい光線は俺の全力の魔力壁を紙を貫くように簡単に突破し、俺の左肩に命中した。

 幸いにも左腕は落とされていないが、大きく抉れてしまっている。

 まさかこの時代でこれほどの怪我を負うとはな。


「どうだ、これが先祖の力だ。神に最も近い力である」

「兄さん、流石にやり過ぎよ」

「何がだ、妹よ。いやもう妹ではないか。お前もニヒルの餌だったな」


 シエラが俺の前に立つ。


「私の力が欲しいのならあげるわよ。それでいい?」

「シエラさん、それはいけませんっ」

「これでいいのよ。エビリスにもこれ以上迷惑はかけられないし」


 シエラの目には涙が浮かんでいた。

 どいつもこいつも、俺のことを誰だと思っている。魔王がこの程度迷惑と思ってなどいない。

 と言ってみたいところだが、今は人間だ。人間らしくやるとしよう。


「シエラ、覚悟が決まっていないのならそのようなことを言うな」

「覚悟?」

「それができていないのだろ。表情は嘘をつかない」


 彼女の目にはうっすらと涙を浮かべたままだ。

 何を成し遂げたいのか分からないが、生きると言うことは何かを目標にすることだ。

 まぁ俺が魔王時代に成し遂げたことなど何一つとして完璧ではなかったがな。


「……でも、このままだと全滅よ」

「もしそうだとして、ここでお前が死ぬ意味はない」


 シエラを犠牲にして俺たちが逃げられたとしてもそれは時間稼ぎでしかない。

 なら、全力で歯向かった方が有意義と言えよう。


「でもその怪我では……え?」

「怪我がどうした。俺を殺したければ魂を破壊しろ」

「無駄に生命力の高いやつだ」


 アルクが俺に再度光線を放とうとする。

 その様子から見るに連続で放てると言うことだろう。

 その気なら俺も片鱗を見せてやるとするか。


「”魂に刻まれし記憶よ、今ここに顕現せよ”」

「なっ! 嘘だろ!」


 俺の右腕からはアルクが放った光線と全く同じものを俺が繰り出した。


「何を驚くことがある? 真似をされるなど考えたことがないのか」

「先祖の力を見ただけで真似るだと……そんなことがあるわけがない」

「この俺に不可能などあるとでも?」

「……撤退だ。撤退する」


 そう言うとすぐに高次元への門を開いて姿を(くら)ませた。

 ふむ、すぐ逃げるのだな。

 いくら俺の”記憶の顕在化”でも高次元へと向かっても彼らと同じ次元に行けるとは限らないからな。


「エビリスくん、それは……なんでもありません」

「どうした?」


 俺が聞いてもレイは無言であった。


「エビリス、助けてくれてありがと」

「気にするな」

「ねぇ」

「なん……っ!」


 俺が振り返るとシエラの唇が俺の口に触れた。

 すると、彼女は後頭部へと腕を回して離れないように抱き寄せある。


「ちょ、ちょっと、エビリスくん何をして……」


 レイが今までに見たことがないぐらいに動揺しているのが、声でわかる。

 しかし俺の口はシエラの唇で塞がれているため、話すこともできない。俺の顔を固めるように回した腕で首を回すことすらままならない。

 そんなことをしていると、レイがシエラを掴んで俺から引き剥がした。


「レイさん、何をするの?」

「それは私のセリフです。エビリスくんに失礼ではありませんか」

「未練があるから覚悟ができていない……何があるか分からないから少しでも達成しようと思って」


 シエラはそう言って獲物を捉えるように俺を見据えた。

 まさか彼女も……


「エビリスくんの初めてを奪うことは重罪ですよ」

「待て、シエラは俺の何が欲しいのだ」

「エビリスの全部、かな」


 やはり彼女も警戒対象なのかもしれない、か。

 だが、敵意のようなものは全く感じられないのも事実。騙すのがうまいのだろうか。


「エビリスくんの全ては私が知り尽くし、手に入れるのです。シエラさんには奪えないですよ」


 そうなぜか得意げにするレイ。

 すると、顔を赤くしながら続けて口を開いた。


「……お、お風呂に一緒に入った仲なのですから」

「へぇ、それではどこまで知っているのかな?」

「それは、お互いの体の隅々まで……」


 レイはもう限界だろう。

 耳まで真っ赤にしてそれでもまだシエラに対抗しようとしている。

 一体彼女たちは俺の何を欲しがっているのだろうか。力ではないのか、それとも魔王であることがバレているか。

 権力か、地位か。

 俺に求めるものなどそこまでないだろう。


「なら、エビリスのを見たことがあるのかな」


 シエラはレイの真っ赤になった耳に触れる。


「ひゃっ……そ、そんなの、当たり前です…んっ」

「どんな形だったのか、どんな色だったのか……思い出して見てはどう?」

「……っ!」


 もう限界なのか、レイは顔を隠して後ろを向いた。


「全てを知り尽くすと言っておいて、その調子では無理そうね」

「一体何を言っているのか分からないが、ここは魔族の森だ。急いで寮へと戻る」


 俺はそう言って三人で俺の部屋へと転移魔法で移動するのであった。

 全く、この二人を相手にするのはどうも疲れてしまう。

 それから色々と警戒する必要がありそうだな。彼女たちは少なくとも俺の何かを手に入れようとしているようだからな。

こんにちは、結坂有です。


少しずつ魔王の片鱗が明らかになってきていますが、一体どれほどのチートを持っているのでしょうか。

それに魔王は勘違いを正すことができるのでしょうか。

そして、アルクの力はどれほどのものなのか、気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。

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