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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第七章 魔王は普通に生活したい
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勇者の葛藤

 勇者である私、フィーレはマリークのお見舞いへと向かっていた。

 もちろん、今日は普通に学院で授業があるのだが、どうやら目を覚ましたとのことで確認も兼ねて朝から急ぎで向かうことにしたのだ。

 ここ、国立魔導病院は魔法が原因の病気や怪我などを専門に治療する施設で、ほとんどの患者が魔術師として下級魔族と戦ったり、軍などで怪我をした人たちが主である。

 魔導具としての設備も魔導先進国ではかなり進んでいるため、世界屈指の魔導医療大国だ。

 マリークが入院している場所は集中治療室だ。全身を消化液らしきもので溶かされ、そして魔力のほぼ全てが消耗している状態であったのだ。


「おはようございます、フィーレ様。こちらです」


 看護師が案内してくれる。

 当然この場所は許可がない限り入れないような場所だからだ。

 重々しい扉が開き、マリークのいる部屋へと入る。

 そこにはあらゆる治療用魔導具に繋がれた彼がいた。

 全身を包帯で覆われており、見ているだけで痛々しく感じる。


「怪我の方はすぐに治らないのですか?」

「はい。特殊な液体だったようで魔法での治療は難しかったようです」


 看護師はカルテを見ながらそう答えている。

 いくら魔法とは言えど、全ての怪我や病気がすぐに治ると言うわけではない。


「そうですか」


 どうやら彼の目は開いている。


「話しかけても?」

「ええ。大丈夫ですよ」


 そう言って看護師は治療用魔導具の一つを止める。


「止めてもいいのですか」

「これは魔力の回復促進装置です。フィーレ様のような異質な魔力を持った人が近づくと危険ですからね」


 失った魔力をなるべく早く回復させるための装置らしい。

 私の魔力は一般の人とは変わっている。主な力としては変わらないのだが、封魔の力や身体強化にも特化した異質なものだ。

 確かに装置の中に入るのは良くないのかもしれないな。

 そして、私は赤いラインの中に入る。

 マリークは私の方へと顔を向けた。


「……フィーレか」

「ええ、そうよ。具合はどう?」

「体が重い」


 魔力がなければ体が重くなると言われている。どうやらその話は本当のようだ。


「一つ確認したいことがあるのだけど、聞いていい?」


 すると、彼は小さくだが首を縦に動かした。


「エーデンと呼ばれる人に対して、あなたは神と言ったわよね。あれはどう言う意味だったのかしら」

「そのままの意味だ」


 彼がエーデンを神と言った。

 しかし、彼は記録によると世界を破滅に向かわせるような人物、いや人ではないのかもしれない。

 そんなやつを神と言ったのはどう言うことだろうか。


「どうして、エーデンを神と思っているの?」

「それは……ごへぇっ!」


 魔導具の一つが警告音を発する。

 それと同時に看護師が集まり始める。


「フィーレ様、少し離れてください」


 看護師の一人が私に向かってそう言う。

 私は赤いラインの外に出るように下がった。


「侵食魔力がまだ残っていたみたいだな」

「二日も取り除いていたのに?」


 看護師の人たちがそう言っていると、集中治療室に医者の方たちが現れた。


「何があった?」

「侵食魔力がまだ残っていたのか、体が蝕まれています」

「少し見せてくれ」


 そう言って医師の人たちがマリークを取り囲むように診察をする。

 その間にも彼は苦しいのか(もが)いている。


「抑えてろ!」


 看護師たちがマリークを取り押さえて、医師たちが特殊な装置で彼の容態を確認する。


「彼の残存魔力が失われている」

「緊急魔力補給を開始する」


 医師の一人がそう言うと看護師たちが慌ただしく動き始める。

 部屋が薄暗くなり、部屋に刻み込まれている特殊で巨大な魔法陣が起動する。そして、マリークに向かって光の粒子が集まり始める。

 だが、それでも彼の容態は回復することはなく、むしろ悪化しているようにも思えた。


「魔力活動量が戻りませんっ!」

「あぁああ!」


 大声を上げるマリークの目は光を失っている。


「離れろっ!」


 治療をしている医師がそう言うと強い衝撃波が室内を荒らし回る。


「くっ……」


 私は聖剣を床に突き立てることで態勢を維持したが、医師や看護師たちは部屋の壁に激突していた。


「マリーク! 暴走を止めて!」

「体が、体が、勝手にぃ!」


 すると、大きな魔導具がその衝撃波に飛ばされ、看護師の一人に向かっている。


「ふっ!」


 私は聖剣でなんとその魔導具の進路を変えることでなんとか守るが、これ以上は危険だ。


「頼む、頼むから助けてくれ」

「……私には無理よ」

「もう、苦しいんだ……苦しんだよ!」


 さらに衝撃波が強烈になる。

 それと同時に激しい耳鳴りが脳内を駆け巡る。ここにいる人たちの半数が既に気絶しているようだ。


「殺してくれ。俺は……俺はもう無理だ!」


 そうマリークは私に懇願してくる。

 私は人間に刃を向けない。そう誓ったのだ。

 仲間を殺すなど、私にはできない。

 しかし、彼を殺さなければこの病室、最悪病院ごと破壊されるかもしれない。


「どうすれば……」

「があぁ!」

「っ!!」


 点滴用の器具が医師に直撃した。

 重くはないものだが、凄まじい勢いだったために重傷を負っているはず。もう迷っている場合ではないのかもしれない。

 すると、マリークが声を上げた。


「神は実在する。神は怒り狂っている。神は人間を滅ぼし、すべてを破壊する!」

「なに?」

「絶対的な力を持った神は実在するっ!」


 彼は異常なまでに目を見開いて、発狂した。

 何かに取り憑かれたかのような険相でそう叫んだ。

 やはり、これ以上の被害は出せない……


「神の怒りは止められない。新たな時代を作る糧になることが我々人間のっ!!」

「はっ!」


 私はマリークの心臓を聖剣で完全に貫いた。

 それと同時に衝撃波が止まり、壁に張り付いていた治療用魔導具や様々な器具が崩れ落ちる。

 私が突き刺している彼は全く動いていない。しかし、その目はどこか穏やかであった。


「ごめんなさい……」


 誰かに乗っ取られていたとしてもマリークは人間だ。嫌な人ではあったが、共に学院で学んできた仲間だ。

 そんな彼を私は殺してしまった。

 正しかったのか、他に方法はなかったのか。


「フィーレ様、ありがとうございました」「勇者様のおかげです」「助かりました!」


 医師や看護師たちは私に向かって頭を下げている。

 いいや、感謝される筋合いはない。人を、仲間を殺したのだから。


「いいえ、ただ人を殺しただけよ」


 私はそう言ってその場を後にした。

 とにかく、今は一人になりたかったからだ。


   ◆◆◆


 翌朝、俺とレイはシエラの受けた詳しい話を聞いていた。記憶を覗いたとしてもただの映像だけだ。

 そこで行われた会話まではわからない。

 まぁ大まかにはわかっていたことなのだが、改めて言葉で伝えられると彼女の心境などがよく伝わる。

 そして、彼女がニヒルたちに受けたことの話になるとレイは口を押さえながら聞いていた。

 ふむ、やはりこの二人は勘違いをしているようだな。


「一ついいか?」

「うん」

「シエラにかけられた液体って融合生成液ではないか?」

「え?」


 先ほどから聞いているが、性的なことなどなに一つされていないように思えた。ましてや犯すなどとその下僕たちは考えていなかっただろう。

 ただシエラの魂幹を自分の魂に融合したいと考えていたに違いない。


「当たり前だ。口で射精するはずがなかろう」


 シエラはニヒルの口から白く粘性の高いものを放出してきたと言った。それを誤解したようだな。


「エビリスくん、ですがキ、キスで子供ができるって言いますよ」

「まさか、そのようなことを本気で思っているのか?」


 レイはもう少し知っていると思っていたのだが、どうやらそう言ったことに関してはそこまで理解していないようだ。

 シエラも同じくわかっていない。

 良く言えば純粋、悪く言えばただの無知と言えよう。

 確かにあの状況では絶望する。ニヒルに対抗できる術がなければ、俺でも精神的にくるだろう。

 さらに言えば、弱いものをあのように取り囲むなど俺でもしたことがない。悪魔の所業と言わずしてなんと言えようか。


「で、ではどうやって子供ができるの?」

「……」


 ここで言っていいものなのか、そんな葛藤が俺の脳裏を駆け巡る。

 そして、教えたところで恥ずかしいのは俺も同じではないか。


「エビリスくん、私も、その……気になります」

「……」


 どうした、俺は魔王だ。

 魔王がこのようなことで悩むなど……あるのかもしれない。


「それはだな」


 二人の興味の目に俺は詳しく、そして生々しく説明してしまったのであった。

 ふむ、まさか朝に、俺の部屋で保健の授業をするとは思ってもいなかった。

こんにちは、結坂有です。


勇者であるフィーレは人を傷付けないと誓っていました。しかし、暴走を止めるために学友であったマリークを殺してしまいました。

そのため虚脱感に苛まれることになってしまったようです。

そして、シエラとレイはどうやら純粋過ぎる女性だったようですね。


それでは次回もお楽しみに。

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