魂は何物にも変えてはいけない。だが受け継ぐことはできる
それから俺はベッドに寝転がった。
ミレクも同じく俺の横に寝転がる。
「魔王様、今日も一緒に寝てもいいですか」
「ああ、別に構わん。後でクリシュに睨まれるだけだ」
ミレクが俺のベッドで寝ているところをクリシュに見つかってしまったら、その時はジトッとした目で睨まれる。
そして、少し不機嫌になる。
面倒ではあるのだが、仕事に支障があるわけではないからな。
「私は……魔王様のために力を使いたい……」
そうミレクが目を閉じながら甘えるようにそう言った。
ふむ、俺としては人間のために力を使って欲しいところだ。
『魔王、今すぐ地下に来て……』
すると、俺の脳内にメライアの声が響いた。
こうして念を送りつけてくると言うことは滅多にないのだが、緊急なことでもあったのだろうか。
俺はミレクに睡眠を強化する魔法をかけて、起き上がった。
地下に向かうと、そこには険しい顔をしたメライアがいた。
「魔王様、来たのね」
「呼ばれたからな」
ベッドから立ち上がった彼女は俺の耳元に顔を近づけた。
「……神の力の正体、わかった」
「ほう、聞こうではないか」
続けてメライアが答える。
「神ではなくて、魂幹の力だよ」
「ふむ、魂幹か」
どうやらノーレンは神の力を使っているわけではなく、あらゆる人間の魂を融合させた副産物である力を付与しているに過ぎないようだ。
「魂を素材にした力は相当厄介よ。一体何人の人間が犠牲になったことやら」
そうメライアは言ってベッドに座り直した。
「億単位での人が犠牲になっているだろうな」
「そうよね。もっと言うなれば、一つの国以上の人を融合していると思うよね」
もう何年も魂幹融合を続けているのなら、本当に一国以上の人材を投じているはずだ。
「間違いないだろうな。数えきれないほどの人間が犠牲になっている」
「まさか人類がこんなことをしているとはね」
俺は一つ推測を立てていた。
おそらくこれは人間だけの知識や技量だけではない。妖精が関わっているはずだ。
もし妖精が関わっているとなれば、それは魔族や人間だけの戦争ではないと言うことになる。
「人類だけではないかもしれないな」
「うーん、それは妖精族も関わっているかもってこと?」
「ああ、それも大妖精クラスのやつがな」
「私の知っている大妖精にこんなことするようなのはいないけどな……もしかすると新しい妖精なのかな」
メライアは比較的古くからの大妖精だ。
俺が生まれる前から大妖精として過ごしている。しかし、俺が魔王の力を手に入れてからはずっとこの魔王城の地下で過ごしている。
つまり、俺が魔王の力を手に入れた後に大妖精に昇格したやつがこんなことをしているのだろうな。
「だが、妖精に人類や魔族を危機的な状況にするのは何の利点もないだろう」
「そうなんだよね。そのはずなんだけど……」
どうやらメライアは思い当たる節があるのだろうか、彼女は小さく俯いた。
「何かあるのか?」
すると、メライアは重い口を開いた。
「もしかすると、何だけど……統治派の考えかも」
「統治派?」
初めて聞く。
名前的にはおそらく妖精族が世界を統治すると言った考えを持った奴らなのだろうか。
「妖精族、それも大妖精クラスがこの世界を統治すると言った考え。古い考えだし、倫理的に間違っているってことから消えていったと思ったのだけどね」
「ふむ、強い妖精族だけで統治したらどうなるんだ」
「えっと、真の平和が訪れると考えていたの。でも平和って色々あるじゃん? 争いなんかはなくなるかもしれないけど、それって平和なのかなって」
その通りだ。自分以外すべての人間や魔族、妖精がいなければ争いはなくなる。
啀み合う相手がいないからな。
しかし、そう言った争いがないだけが平和とは言い切れない。
争いがあったとしても平和的な解決法でお互いがお互いに協力し合う世界は作れるはずだ。
「確かにその通りだ。そう言った思想を持ったやつがまだいるのかもしれないな」
「うん。考え方は妖精族だって多種多様だしね」
どうやらメライアは皆が協力し合う世界こそが平和だと考えているようだ。
まぁ何を平和と考えるかは人それぞれだからな。
それから俺は自分の部屋の部屋へと戻った。
ミレクは俺の魔法のおかげかぐっすりと眠っている。しかし、その横にはクリシュがいた。
「魔王様、どこかに行かれていたのですか」
「ああ、クリシュこそどうしたんだ」
「報告書を……持って来ただけです」
クリシュはそう言うと資料を俺の机に置いた。
「ふむ、後で読むとしよう」
「それで、魔王様に質問があります」
「何だ」
クリシュは少し畏った様子で俺の方へと向いた。
「私がもし、魔王様の敵だとしたら……私を殺しますか?」
「どうしてそのようなことを聞く」
「私の中に、何かよからぬものが潜んでいるみたいなのです」
クリシュがいつも以上に真剣な顔でそう話す。
「何かに取り憑かれたか」
「妖精とかではないような気がします。ただ、邪悪な力が私の中から湧いてくるような感じがして……」
「ふむ、まぁお前のことを明確な敵だと判断したらその時は殺す」
すると、クリシュは少し表情を緩めて口を開いた。
「それは、よかったです」
そう言った彼女はどこか喜んでいるようでもあった。
〜〜〜
この記憶……忘れかけていた記憶だ。
神の力、高次元の存在。それらはもともと人間の魂幹のことだ。
「っ!!」
「魔王様!」
俺が飛び起きると、アイスが俺の背中を腕で支える。
「大丈夫ですか」
「ああ」
そんなことよりも真っ先に聞かなければいけないことがある。
「メライア。神の力を覚えているか」
「えっと、人間の魂幹を融合させて作り上げた力……だったよね」
「それがニヒルと関係していた」
あれは間違いない。
エーデンが使った魔法らしきものと、俺を襲撃して来たやつが逃げるときに使った魔法らしきもの。それらの基礎は同じだったのだ。
「アイス、ノーレンを覚えているだろ」
「はい。とても恐ろしいお方でした」
「あいつがまだ生きている可能性はあるか」
「……それは考えられません。二千年以上も生きていることになります」
「あいつが融合した魂幹は二千年では使いきれないはずだ」
するとメライアが口を押さえて驚く。
「まさかと思うけど、彼がニヒルの正体?」
「可能性があると言うだけだがな」
ノーレン・エグザリウス。彼がまだ生きているのであれば、エーデンが彼の名前を呼んだ理由がわかる。
彼がエーデンに力を分け与えている。俺はそう推測した。
間違いなく、彼らが裏でつながっていると言うことは確かだからな。
「ところで、大魔王様。力の方は取り戻せたの?」
「これでわかるか」
そう言って俺は青白い光をメライアに見せた。
それは魔王の力、俺が俺であるための力だ。
無事に取り戻すことができた。いや、扱い方を思い出したと言った方が正しいか。
アイスがこの体を作るのに千年以上かけて作ったのだ。欠陥品ではなかったと言うことだ。
「アイスの作ったこの体は魔王の力に耐えられた。感謝する」
すると、彼女は涙を浮かべて「はい……」と答えた。
◆◆◆
「ミレク。起きてますか?」
魔王様がどうやらミレクに睡眠を強化する魔法をかけてどこかに行っているようだ。
私はその魔法を解除して、もう一度彼女の体を揺さぶってみる。
「ん……魔王、様?」
すると、ミレクは眠たそうに目を擦りながら目を覚ます。
「クリシュです。少し話したいことがあります」
「話したいことですか」
私が彼女に話したいこと、それは……。
「あなたと融合したいです」
「へ?」
ミレクは一体何を言っているのだと顔を傾げた。
「あなたの、ミレクの魂に私の魂幹を融合させたいのです」
「……どう言うことですか」
「理由は聞かないでください。できない相談だったでしょうか」
「うーん……」
彼女は考え込んでいる。
まだ十歳には難しいことだろうか。
私は、私のこの想いは魔王様の妨げになる。だからこれは未来の誰かに託したい。
ミレクの子孫でも、またその誰かでもいい。
愛していると言うことをどうか魔王様に知って欲しい。そんな私の叶わない想いを受け継いで欲しい。
すると、彼女はゆっくりと口を開いた。
あぁ、魔王様はこの私の想いをいつか理解してくれるのでしょうか。
こんにちは、結坂有です。
神の力として扱っていたものはどうやら何万何億もの人間の魂幹を集めて作り上げたものだったようです。
それゆえに強力で恐ろしい力だったのですね。
そして、クリシュの届くことのなかった想いはどうなったのでしょうか。
今回にて第六章は終わりとなります。
次からは少し展開が変わってくると思います。
それでは次回もお楽しみに。
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