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勇者の修行

 魔王城を出ると、巨大な魔法陣が展開されていると言うことはすぐに分かった。


「森が赤く光ってる……」


 クリシュがそう言うように奥にある森が赤く光っていたのである。

 確かにあの規模の魔法陣が発動すれば、強化された城壁を持つ魔王城でも突破される可能性があるな。

 城の原型は残ったとしても城下町の住民までの命は保証できないため、これは魔法陣を何とかして破壊する必要がありそうだ。


「ふむ、なら突撃するとしよう」

「待ってください、魔王様。あの四人が一瞬で殺されたのですよ」


 上級魔族四人を一瞬にして倒したと言っていたな。だが、俺はその四人よりも、魔族部隊よりも強い存在だ。


「何か問題か?」

「いえ、何でもありません……」


 バーデンは俺の目に怯えるように萎縮した。


「俺とクリシュで突撃する。お前はここの警備を強化しろ」

「わかりました!」


 そう言ってバーデンは勢いよく走り出した。

 どうやら警備を強めるために向かったのだろうな。バーデンもだが、城の中にいる部隊だけでも十分に主力戦力になりえる存在だ。

 例え、数人がここに突撃してきたとしても俺が戻るための時間稼ぎ程度にはなるだろう。


「えっと、私はどうしたら良いですか」


 ミレクは少し緊張した面持ちでそう言った。

 戦闘に巻き込まれたのだから当然だろう。


「俺のそばを離れるな」

「はい」


 俺の言葉を聞くとミレクは俺の背中に張り付くように歩き出す。

 その様子を見てクリシュは少し嫉妬の目を向けていたが、それは無視することにした。

 森の方へとしばらく歩いていると、その魔法陣の光は強力に強さを増していく。


「これは一体何の魔法なのでしょうか」


 クリシュがそう言う。

 今視界に入る魔法陣はほんのごく一部でしか分からない。当然、俺もこれだけの情報ではわかりようがない。

 せめて中心部さえ確認することができれば、何かわかるのかもしれないのだがな。


「まだ分からないな」

「とりあえず、中心部に向かいましょう」


 そう言ってクリシュが先導する。

 魔法陣の形的にこの方向で間違いない方だしな。

 俺はクリシュの後についていくことにした。

 そして、魔法陣の中心部近くに到着する。


「ふむ、あれは土属性の魔法だな」

「どのようなものですか」

「詳しくは全体を見てみないと分からないが、この規模から考えるに大地震を発生させるような魔法だな」


 この魔法は地中深くにある岩盤などに刺激を与えて、地震を発生させるものだろう。

 とは言ってもどれほどの規模になるのかは流石に分からないがな。


「ここだけで読み取れるとはな。魔族にも頭がいい奴がいるものだな」

「!!」


 いつの間に背後を取られたのだろうか。

 先ほどまで全く気配がなかった。

 いきなり背後に現れた人間の魔術師にクリシュが驚く。


「その顔、もしやお前が魔王か」

「ああ、そうだ。この魔法陣はお前が作ったのか」

「考案したが、作ったのはあの人たちだ」


 そう言って指差した方向を見ると、そこには八人の魔術師がいた。

 確かにこの規模の魔法陣を作るとなれば、一人では不可能ということだろう。

 俺でも数分は掛かる代物だ。


「魔王城をこれで破壊してから戦う予定だったが、変更だ。取り囲め!」


 男がそういうとどこからかまた五人が現れ、合計十四人の部隊が俺たちを囲む。

 完全に包囲されたということだろう。


「俺たちを囲んでいる余裕はあるのか」


 そういうと俺は先ほどまで溜め込んでいた魔力を放出する。すると、奥にある魔法陣の中心にひびが入り、それが広がる。そして、その魔法陣は空中へと消滅していく。


「まさか、これほどの力があるとはな」

「これで奇襲も意味がなくなったと言えよう」

「だが、魔王を倒すことができる。すでに結界は作り終えた。ここからはそう簡単に出れるまい」


 どうやら周りの配下たちは結界を維持するために動いたようだ。なかなか連携が取れているようだな。確かにこの結界はそう簡単に突破できない。


「閉じ込めるにしては数が多過ぎる気がするなが」

「お前ごときに神の崇高なる思考に追いつけるはずがないっ!」


 そういうと空気の淀みが感じられた。

 魔力による力ではない。また別の力が働いているようだ。

 これは防ぎようがない、か。


「崇高なる思考、か」


 俺はその謎の力を魔法によって生み出した岩で相殺した。

 相手が繰り出してきた攻撃は魔力を破壊するもののようだ。だから魔力で防ぐようなことはできないと言うことだ。

 同様に魔法での攻撃も難しいと言ったところだな。


「これに対処できるとはな」

「魔力ではない魔法、か。人間も進化したものだな」

「これは神の力だ。神が我々に……」

「その力は負の力だ。神聖視するに値しない」


 俺が男の言葉を遮るように言うと、男は激昂する。


「神を侮辱するとはな。これが神の、本当の力だ!」


 男はそう言うと俺たちを取り囲んでいる魔術師も力を蓄え始める。

 そして、目の前にいる男は結界の外に出て俺たちを完全に閉じ込めた。


「ミレク、魔法でこの弱そうな結界を破壊できるか」

「魔王様、今そんなことをしている場合ではありませんよ」

「できるか、できないか」


 俺がミレクにそう言うと目の前の男が笑い始める。


「悠長にしている場合ではないだろう。配下たちが力を集中し始めているのだ」


 一瞬目を閉じたかと思うと、ミレクはすぐに口を開いた。


「やってみます」


 するとミレクは魔法陣を展開し始める。

 展開速度は申し分ないが、ムラがある。これではまともに発動しないかもしれないな。

 彼女は魔力のムラをどうにかして均等にしようとする。

 だが、それがうまくいかないようだ


「人間……か?」


 結界の外にいる男はそう言うと俺はそれに反応しない。


「ふむ、やはりか」


 時間にして四秒ほどだろうか。ミレクはもう限界だろう。


「ひゃっ……」


 俺は左手でミレクの頭を押さえつけて、姿勢を低くさせる。

 それをみたクリシュも俺の足元に潜るように姿勢を低くする。

 クリシュは今から俺が何をしようとしているのかわかるからな。全く、優秀な部下だ。

 それを確認した俺は右手を頭上に掲げる。


「”我が猛り狂う衝撃を以て、純然たる破滅をもたらせ”」


 その刹那、露草のような淡い青色の光を放つ線が俺の右手から無数に放出される。

 そして、その線はまるで糸のように動き始め、結界に触れると耳をつんざくほどの強烈な高音を轟かせながら破壊する。


「なっ! 神の力で作った結界だぞ」


 男が動揺する。しかし、この”純然たる破滅”はこれだけでは終わらない。

 何らかの現象、または魔法を無条件に、そして完全に破壊し無力化するのはこの力の副産物に過ぎないのだ。


「がああ!」


 その無数の糸に絡まってしまった敵の一人が粉塵となって消える。


「こ、これは……皆、離れろ!」


 男はそう判断し、俺から距離を取る。

 だが、反応に遅れた配下は俺の右手から出る無数の露草色の美しい光の糸に絡まってしまう。

 そして、粉塵となって完全に消滅する。

 この力の恐ろしいところはそれにある。どのような装備でも、防御魔法でもこの力の前では意味をなさない。

 つまり、この糸に絡まってしまったら文字通り最後ということだ。

 とは言っても欠点がないわけではない。有効範囲が狭いことが弱点と言えるだろう。


「神の力がこんな簡単に……」

「所詮その程度の力だということだ」

「……撤退だ。撤退するぞ!」


 そういうと彼らは特殊な魔法陣を使って姿を消した。

 ふむ、あの魔法陣も見たことがない。奇妙な人間もいるのだな。


「あの人たちは一体何なのでしょうか」


 俺の足にしがみついていたクリシュが立ち上がり、そう言う。


「神の力などとほざいていたが、よくわからん」

「神の力……確かに気になりますね」


 はっきり言って未知の力なのは間違いない。

 俺の持っている魔王の眼で見ても、それが負の力であることでしか見切れなかった。


「魔王様にもわからないことがあるのですか」

「いつかは解明したいところだがな。今はできない。それよりもミレク」


 俺がミレクの名を呼ぶと彼女はビクッと肩を震わせた。


「すみません。私が不甲斐ないばかりで」

「別に責めているわけではない。よくあの状況で勇気を出せたものだと感心している」


 魔法は自信がないようだったからな。それでも自分ができることがあればと挑戦してみる心は評価できる。

 それができなくても同じだ。

 何事にも挑戦してみなければ意味がないのだからな。


「そうなのですか」

「ああ、見ていてわかったのだが、お前は純魔力での魔法が向いてるはずだ」

「純魔力ですか」


 純魔力での魔法とは魔法陣などを介さずに魔力だけで発動するものだ。

 魔法陣を使う方が楽だと言う者もいるが、それは自分が魔力を感じることができるからだ。

 術式や魔法陣を使った魔法は、コップに水を注ぐようなものに近い。

 目で対象を見て、手で触れることで簡単にコップに水を入れることができる。

 ミレクの場合は五感がほとんどない状態で水を注ぐほどに難しいのだ。


「その方がお前にとっては楽であろう。魔王城に戻ったらすぐにでも修行を始めよう」

「魔王様、人間に甘過ぎですよ」

「ふむ、これが甘いだと」


 死戦の中に連れてこられて、そして自分の苦手なことをやらされる。これほどに厳しいものはないのではないだろうか。


「はい」


 クリシュは一体どのような修行計画を考えているのだと言うのか。

 彼女に任せるとなると死者が確実に出るだろうな。


「まぁ俺が引き受けた人間だ。俺の方針に従ってもらう」

「そう、ですか」


 どうやらこれ以上は追及できないだろう。すべての責任は俺にあるのだから当然だ。


「ミレクはそれでいいか」

「はい。魔王様に魔法を教わるなど光栄なことですから」


 ミレクは笑顔でそう答えた。

 全く彼女は度胸があるな。

 こう言った精神を持った魔族も欲しいものだ。

こんにちは、結坂有です。


早速死戦に駆り出された勇者ですが、どうやらこれからも様々な修行が待っているようです。

そして、神の力や彼らが使う特殊な魔法陣とは一体何なのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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