教育と戦争
クリシュが恥ずかしくなったのか、顔を隠しているのを横目に俺はミレクにお腹が空いていないか聞くことにした。
昼を回る前に引き取ったため、お腹が空いていてもおかしくないからだ。
「ミレク、お腹は空いていないか?」
「少し空いていますけど、お気になさらず」
「ふむ、クリシュ。厨房から人間の食べられるものを持ってきてくれないか」
そう俺がクリシュに指示すると、あからさまに彼女は嫌そうな顔をした。
「わかった。俺が取ってこよう」
「わかりましたよ。私が取ってきます」
嫌そうな顔をしながらもクリシュは厨房へと向かってくれた。
今日のクリシュはどうも変だな。いつもならこの程度の指示など二つ返事で引き受けてくれるのだがな。
「なんか怒らせてしまいましたね」
「これぐらいいつものことだ」
まぁ今日は少し特殊だがな。怒られる分には今に始まったことではない。
「仲が良い証拠です」
そう言ってミレクは微笑する。
俺やクリシュは人間に近い見た目をしているとはいえ、魔族だ。
俺の肌は少し赤くなっており、目は黒くなっている。クリシュは肌色をしているが、耳が長くなっている。
普通なら怯えたりするものなのだが、彼女はそのような素振りはない。むしろ会話を楽しんでいる様子でもある。
「俺たちを見て怖くないのか」
「ええ、怖い人たちではないということは話していてすぐにわかりますから」
「なかなか肝の座った少女だ」
彼女はおそらく十歳程度であろう。それに勇者の力を授かって間もないようだしな。
それは目を見ればわかる。まだ金色に輝いていないからだ。
普通人間は力を持って初めて余裕が生まれるものだが、彼女はそうではない。
力がなくても相当な精神力を持っていることがわかる。
これは育て甲斐がありそうだな。将来どのような勇者になるのか、敵対する者としてだが気になるところだ。
「面白い人間だ。これからが気になる。魔法を扱いたいか?」
「勇者の力を授かった後、やはり私も魔力の感覚がほとんどなくなってしまいました。それでも扱えるようになるのでしょうか」
「可能ではある」
「そうですか。それなら訓練させてもらえますか」
「かなり厳しいものになるぞ」
「覚悟しております!」
ふむ、意気込みは十分と言ったところだな。
これなら本当に魔術師としても、勇者としても活躍できる人材になるのかもしれないな。
そうなればいいのだが、それとは別に俺は考えていることがあった。
人類側でも思想の違いで緊張状態が続いているとバンデルが言っていた。
ほとんどの国はノーレン、つまりゼルガリスと同盟を組み、行動しているようだ。
平和的な考えを持っているのはグルージアを含め、四つの国ほどしかないとのことだからな。
それはかなり絶望的ではあるのは言うまでもないだろう。
「もしお前が強くなれたのなら、人類は平和になるに違いない」
「どうしてですか」
「将来のお楽しみだ。そろそろ昼食が運ばれてくる頃だろう」
すると、扉が開いた。
トレーの上にはサラダが多めにあった。
もちろん、肉もあるのだが魔族は肉をよく食べるため少なめだ。
「ふむ、もう少し多くはできなかったのか」
「今は戦争中です。貯蓄の方もあまりないのですよ。それに人間の食べられるものなど限られていますし」
「そうか」
これから偉大な人物になるであろう人に無礼ではないかと思いつつ、俺たちは少し早めの昼食にするのであった。
◆◆◆
その頃、外では異様な光景が広がっていた。
人類には到底作れないであろう巨大な魔法陣が展開されていた。
どれほど巨大かというと一国の都市ほどの大きさである。
「この魔法陣の中心はどこにあるかわかるか」
魔族側の偵察隊の一人がそう言う。
すると、もう一人がその魔法陣に触れながら答える。
「……北東の方角からね」
「奇妙だ。そこは魔族側の領地ではないか」
「とりあえず、向かいましょうか」
一人の発言に偵察隊はその中心地へと向かうことにした。
しばらく進んでいると、木々がなぎ倒されたような跡があった。
非常に強力な魔力によって押し倒されたようだ。
「この大木を倒すとは……上級魔族に匹敵するほどの力だぞ」
「そうね、バーマン。一応魔王城の方に報告してくれるかしら」
「了解した」
偵察隊の一人、バーマンが隊から離れ魔王城へと報告するために戻った。
「ここからは四人だけだけど、偵察を行うからね。あと、中心にかなり近づいているようだから気をつけて」
「おうよ」
そう言って中心地へと向かう。
そして、木々が倒された方向に注意しながら歩いていると、人間が八人ほど立っていた。
「あいつらが、この魔法陣を作ったのかよ」
「どうやらそのようだな」
八人にしてはかなり余裕ぶっているようだ。
魔族の領地に入っているのにも関わらず、堂々としている。その時点でかなりの手練れであるのは確かだろう。
「標的が八人、そして上級魔族に匹敵するほどの魔術師と見受けられる。人類も本気を出してきたって感じだな」
「どうする? 私たちも相当強い魔族だけど頭数が少ないからね」
「様子見だろう。ここで下手に動くと全滅してしまっ……!!」
一人が鋭い目をして外を見始めた。
「どうした」
「視線を感じた。気付かれたか……」
視界に入れている標的は八人、しかしそれ以外にもいる可能性はあった。
そして、中心地にいる魔術師もこちらの方を向く。
どうやら見張りに見つかってしまったようだ。
「逃げましょう」
「ああ」
そう言って踵を返して戻ろうとするとそこに一人の人間がいた。
「この現場を見て逃げられると思うなよ」
「っ!!」
「オラっ!」
その男に即座に展開できる魔力を全力でぶつける。
しかし、それでもびくともしなかった。
「魔法陣を使わず、速攻性の高い純魔力での攻撃か。なかなかの上級者と見受ける」
「それがどうした?」
目の前の男は非常に冷静である。
こいつは普通じゃない。
そう思った瞬間、偵察隊の一人の首が上空を舞った。
「なっ!」
「何が起きたの……」
偵察隊の三人は何事が起きたのか分からずにいた。
「所詮、魔族もこの程度か。我らは”神”に選ばれた存在。新しい種族だ」
「人間じゃねぇのかよ」
「人間……我々はそれを超越した存在だ」
「ひゃっ!!」
そして、また一人首を飛ばされる。
「サミー! くそ、ここは逃げるぞ」
そう言って広範囲の闇魔法を展開し、一面を暗闇へと変える。
しかし、もう一人が走り出そうとするとまた首が消えた。
「この範囲内からは逃げられない」
「くっ、ふざけやがって!」
全魔力を使って魔法陣を展開し、防衛態勢に入る。それでもその魔力壁を破壊して首元を掠る。
かなり深い傷を負ったが、致命傷にはならなかった。
「があ! なぜだ!」
「魔族も人間も同じ魔力を使う。神の力には遠く及ばない」
「か、神の力だと?」
首から大量に出血している。
それをその大きな手で強く押さえている。だが、指の隙間から血が溢れてしまっている。それほどに出血が治らない。
「治療しても無駄だ。神の力は魔法を全て無効化できるからな」
「そんなこと、あり得るわけが……」
出血はひどく、意識が朦朧とし始める。
「もう限界か。体だけが大きいだけなのだな」
「くそ……がっ」
脳に回る血流がなくなり、自分の血溜まりに頽れる。
「ふっ、神に逆らうものなど容赦しない」
四人の上級魔族を一瞬にして倒した男はそう言って、その場を立ち去った。
◆◆◆
昼食を食べ終えた俺たちのもとに一人の男が駆けつけてきた。
「!!」
急に扉が開いたことでミレクが驚く。
「血相を変えてどうした」
「ま、魔王様。非常事態です」
「なんだ」
そう言って男、バーマンは息を整えて説明する。
「ここから東の方角、巨大な魔法陣が展開されています。そして、他の偵察隊は全滅したようです」
バーマンは胸元にあるペンダントを見た。
ペンダントには五つの魔石がはめられており、それらは仲間の命を示している。
そのペンダントはバーマンの魔石だけが光っていた。
「確かに非常事態だな。魔法陣の種類はなんだ」
「あまりにも大きすぎて特定はできていません。しかし、攻撃系のものであるのは確かです」
「ふむ、動くとするか」
俺は椅子から立ち上がる。
正直、めんどくさいのだが、仕方あるまい。
「ところで、その人間は?」
「ああ、人間の勇者だ」
「な、なぜそんな奴がここに!」
するとバーマンは戦闘態勢に入る。
まぁ勇者と聞けばそのような反応を取るだろうな。
「落ち着け、とある事情で俺が保護している。魔族に危害を加えることもしないから安心しろ。それに俺が四六時中そばにいるからな」
「魔王様、あまり人間と……その勇者と仲良くしすぎるのは良くないかと」
「俺が信じれないのか」
「そう言う意味ではないのですけど」
俺たちの会話に終始疑問符を浮かべたままのバーマンであったが、このことは後で詳しく説明するとしようか。
それよりも巨大な魔法陣が気になるところだ。
強襲部隊もいるとのことだし、場合によってはミレクの良い訓練になりそうだしな。
そんなことを考えながら、俺たちは廊下に出るのであった。
こんにちは、結坂有です。
魔王はこれから勇者と生活していくみたいです。
さらに、訓練も行っていくそうですね。
そんな中、人類側……特にノーレン側は力をつけ始めているようです。果たして神の力とは一体何でしょうか。
気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。




