魔王は無意識下に身を投じる
授業は少し変更はあったものの普通に進んだ。
教師陣もいつもと変わらなかった。
ただ、変わったところといえば、マーフィンがいないと言うことだけであった。
そして、放課後。
レイが話しかけてくる。
「エビリスくんはこれからどうするのですか?」
「少し用事がある。先に帰っててくれ」
そう、今日は魔王の力をどうにかして取り戻そうとする日だ。
もちろん、部屋ではレイがいるため行うことができない。そうなれば、以前アイスの住み着いていた洞窟が使えるだろう。
あそこであれば、誰にも邪魔はされないはずだからな。
「……遅くなるのですか」
「それなりにはな」
「わかりました」
そう言ってレイは一礼して、先に帰っていった。
さて、レナも俺たちをみて先に帰ったことだし、俺も洞窟へ向かうとするか。
そう鞄を持って教室を出ようとすると、後ろからコリンが話しかけてきた。
「ちょっといいかな?」
「ああ、どうした」
「少し話したいことがあるの。途中まで歩かない?」」
ふむ、コリンが燔祭かけてくるとは珍しいな。
それにここでは話せないようなことなのか、歩きながらの会話を提案してくるのだからな。
「別に構わない」
「よかった。じゃ行こ」
コリンはそう言って俺の手を引っ張っていく。
彼女に引っ張られながら玄関まで到着する。
すると、どうやらそこには貴族学院の制服を着た銀髪の生徒がいた。
「コリン、そいつは誰なんだ?」
「アルク……どうしてここに」
「お前に会いに来たんだよ」
目の前の男はどうやらアルクと呼ぶらしい。
彼を目にしたコリンはどこか怯えるように俺の腕を握る。
「私は会いたくなかったよ」
「それにしても、そこのお前」
アルクは俺を指差してそう言った。
「俺のことか?」
「ああ、なんでこんな奴がコリンと一緒にいるんだよ」
「コリンとどんな関係か知らないが、今は俺と帰る予定だ」
どうやら彼はコリンを連れてどこかに行こうとしていたようだ。
コリンは彼を避けたいと思って俺を呼んだのだろうな。
「私は貴族だぞ!」
ふむ、とは言っても彼は昨日の襲撃の時にエントランスにはいなかったな。
俺が見ていないだけだとしても、フィーレたちと一緒に戦ったのだ。少しは警戒するものだ。
コリンは俺の後ろに回って、彼の威圧的な視線から隠れているようだ。
「貴族だとしてもここは一般学院だ。お互い不干渉なのではないか」
「そんなことは関係ない。私の思い通りになればいいのだ」
どうやらこの人は自分中心のようだな。
このような奴の相手にするとはなかなか面倒だな。
「あんたがどのような意図でコリンを連れて行こうとしているのかわからないがな。もう少し節度を保て」
「お前の力は余程のものだと思っている。だが、コリンは私が連れていく!」
そう言ってアルクは左腕から魔力球を繰り出した。
相当な力だ。
これほどの力なのであれば、このような横暴は許されるのかもしれないな。
しかし、それは俺の前では無意味だ。
「やはり、無理か」
「知っていてその魔法を使ったのか」
「エビリス・アークフェリア。いつかお前の力を手に入れてやる」
俺の力を手に入れる、か。
人間の体では難しいだろう。俺ですらまだ完璧に扱えていないのだからな。
「できるものならやってみろ」
「……今の所は見逃してやる。人も増えてきたからな」
逃げるのか。
あそこまで啖呵を切っていてその程度か。
まぁ穏便に済むのならそれに越したことはないのだがな。
そう言って彼は踵を返して、貴族学院の方へと帰っていった。
「あいつは何なんだ?」
「アルクね。あの人はなんか私の力が欲しいとか言っててほんと意味わかんない」
「力を手に入れる、か」
俺の時代の考えを踏襲しているのだろうか。
確かにあれが実現すれば、俺が負ける可能性はあるな。
だが、そんなことをしなくとも人類は人類で生きていけばいいだけの話だ。魔王に構っているから無駄に被害者が増えるだけだ。
「怖いよね」
「まぁ俺がいるから安心しろ」
「……頼もしいね」
コリンは目を見開いてそう答えた。
少し感心しているのだろうか。
「少なくとも人が一緒にいればあいつは強引な手を使おうとはしないようだしな」
「確かに言われてみればそうかもね」
そうして、俺たちは玄関を抜け帰路に着く。
「話っていうのはこのことか?」
俺がそういうとコリンは気付いたかのようにこちらを向いた。
「ううん、このことを話したかったんじゃなくてね。マーフィンのことが気になるなって」
「なるほど、あいつにしては珍しく今日は欠席だったからな」
「そうそう、だから少し気になったの」
前々から思っていたのだが、コリンは彼のことが好きなのだろうか。
マーフィンは確かにかっこいい上に、人当たりもいい。
誰からでも好まれる人物であろう。
「マーフィンのことが好きなのか?」
「え?」
「そう思っていたんだが、違うか」
「違うよ。彼も筋肉あるけど、エビリスくんの方が好きかなって」
どうやら違ったようだ。
それにしても、コリンの好き嫌いは筋肉に左右されるのだろうか。
「俺の方が好きというのは変だな」
「どうして?」
「俺はマーフィンのように筋肉があるわけではない」
そういうとコリンは顔を傾げた。
「別に筋肉の量が全てじゃないよ。それの付き具合なんかも考慮しているからね」
「なるほど、基準が複雑というわけか」
すると、コリンは少し笑った。
「エビリスくんって天然なの?」
「そう見えるのならそうだろうな」
「面白いね。あ、そういえばさっきの魔力球をどうやって止めたの?」
コリンは話題を変えるようにそう言った。
ふむ、別に隠すようなことでもないため俺はどう受け止めたのかを話すことにした
そんな会話をしながらしばらく歩いていくと、コリンが口を開いた。
「少し寄るところがあるからここで分かれよっか」
「そうか、じゃまた今度な」
「うん。じゃあね」
そう言ってコリンは軽快な足取りで目当ての場所に向かったのであった。
この辺りなら貴族学院の生徒も来ることはないから安心だろうな。
「俺も向かうとするか」
これから向かうところを考えると少し不安が残る。
万全な状態で魂に負荷を掛けるわけではないからな。下手をすれば魔力が戻らないということもあり得るだろう。
とは言ってもエーデンがこれ以上力をつけてしまうと考えれば、俺もこうする他ないといえる。
全て人間だけの力でどうにかなる問題ではないからな。
洞窟の中に入ると、俺の影の中にいたメライアとアイスが姿を現す。
「大魔王様、心の準備はできてるの?」
「そう聞くと今から大事な告白があるように聞こえるな」
「そ、そうじゃなくってさ……まぁ冗談が言えるのなら大丈夫よね」
しかし、アイスは不安そうに俺を見つめている。
「別に俺が死ぬわけではないからな。力を失うか、さらに特別な力を得るかのどちらかだ」
「エビリス様は本当にそれでも大丈夫なのですか」
「アイスは俺の力に惚れたわけでもないだろう」
「……その通りです」
最初から俺の力目当てであれば、千年以上も俺の体を守り続けるわけがない。
それなら俺が眠っている間にその力を別の人にでも与えていれば、いいものだからな。
「なら問題なかろう。メライア、いつでもいい」
「エビリス様……」
俺が岩に寝転がろうとすると、アイスが抱きついてきた。
「どうした?」
「少しはこうしていたいです」
「ふむ、そうか」
すると、メライアが羨ましそうにこちらを見ている。
「せっかくだし、私も混ぜてもらおうかなっ」
俺と目が合うと彼女はそう言ってアイスごと抱きついてきた。
二人分の圧力は今日はなぜか心地よく感じたのであった。
しばらく抱きついていた後、二人は離れる。
そして、メライアが最後の説明をする。
「今から魂を極限状態にまで負荷を与えるの。だから昔のこととかフラッシュバックするかもだけど、平常心ね」
「ああ、わかった」
「じゃ、展開するね」
メライアがそういうと洞窟を埋め尽くすぐらいの巨大な魔法陣が出現し、赤色の光を放つ。
それと同時に俺の意識は深く深く沈み込むのであった。
こんにちは、結坂有です。
突然現れたアルクは一体誰なのでしょうか。
これからの彼の動向に注目ですね。
そして、今回で第五章は終わりとなります。
次回からは第六章で魔王の過去に触れていく物語となっています。本気の魔王エビリス・アークフェリアが見られると思います。
それでは次回もお楽しみに!
Twitterの方でも活動しています。フォローしてくれると嬉しいです。
質問などのコメントも答えられる範囲であれば答えます。
Twitter→@YuisakaYu




