魔王は後処理に困る
エーデンの襲撃は非常に危険ではあったが、何とかフィーレやレイ、リーシャのおかげで乗り切ることができた。
以前であれば俺はこうして協力することはなかったのだが、こうして協力してみるとなかなか快適だ。人間として生きていくにはこうしてお互い協力していかなければいけないのだろうな。
人間の強みの中にやはり志一つになった時の連携力がある。
魔族ではどうしても種族差による違いが生まれてくる。区別が生まれ、そして差別がどうしても生まれてしまう。
だから、俺はそんなんことが起きないように彼らよりも率先して先陣に立ったのだ。手柄というものを作らないためにだ。
「エビリスくん。お疲れ様でした」
俺から一番遠かったレイが話しかけてくる。
「レイもお疲れ様」
「いえ、私はただ集めただけに過ぎません」
「レイの強力な魔力球がなければ、私は逃げることができませんでした。助かりましたよ」
すると、横にいたフィーレがそう付け加える。
確かにエーデンに一番近かったフィーレが逃げられたのもレイのおかげだ。彼女の力に耐えるために防御態勢をとったために攻撃ができなかったのだからな。
「それで、この後の処理なんですけどそろそろ教師陣の方たちが到着することになります」
そうフィーレが続けて言う。
確かにこのままでは色々と面倒になるな。特に一般学院の俺が事態を収束させたとなれば、注目の的だ
「ふむ、それならフィーレとレイが何とか撃退したと伝えてくれ」
「ですが、エビリスくんの功績も確かにあります」
「それを知っているのは一部の人ぐらいだ。周りから見れば二人の功績だと思うだろう」
俺が使ったのは周りから見ればただの闇魔法。
目眩し程度のものにしか見えなかったはずだ。ただ近くにいた二人には異様な力だと気付いたのだろうがな。
「……本当にそれでいいのですか?」
「別に功績に拘っているわけではないからな。気にするな」
「わかりました。教師の方にはそう説明しておきます」
「助かる」
そう言ってフィーレはマリークを連れてエントランスの方へ向かっていった。
どうやら生徒たちに事情を説明しにいくつもりであろう。そして、彼の治療も行うつもりだ。
マリークは上半身の皮膚がドロドロに溶かされていた。エーデンの触手から分泌された消化液のせいだろう。
溶かしてから触手の先端から皮膚の組織を吸収するようだ。
「功績などは気にしない……器が大きいのですね」
「そんなものに頼らなくとも自分の力は示せる」
結果だけが全てではないんだ。そんなものを誇示する方が愚かと言えよう。
「確かにそうかもしれません。実績や地位だけが全てではありませんからね」
「エビリスくん?」
どうやら教師陣が到着したようだ。
ここから少ししたところにある学院から招集を受けてここに来たのだろう。
その中にミリア先生がいた。
彼女が声をかけてきたのだ。
「ミリア先生か、ここに来たのか」
「当たり前でしょ。生徒たちが危険だってなればどの先生もすぐに集まるのよ。そんなことよりもどうしてここにエビリスくんがいるの?」
「そのことですが、私が連れてきました」
「え、どうしてですか?」
ミリア先生の質問に早く答えたのはレイであった。
彼女の言葉に少し語気を強めてミリア先生は言った。
「私とエビリスくんとは同じ部屋に住む寮生です。それで一緒に帰宅したところあのエーデンと呼ばれる人に襲われてしまったのです」
「それでどうなったのですか?」
「エーデンがいない方へと逃げていった結果がこの貴族学院だったのです」
どうやらうまく辻褄を合わせようとしているようだが、少し無理があるのではないか?
俺はそう考えた。
「……そう、エビリスくんを助けようとしてくれたと言うことですね」
先ほどより落ち着きを取り戻したのか、ミリア先生が勝手に納得してくれたようだ。
脳内変換が凄まじいが、その辺は気にしてはいけないようだ。
ミリア先生がそういうと、レイは俺の方へウィンクを決める。ふむ、これはあとで注意した方が良さそうだな。
「ええ、ここに来た結果フィーレや他の貴族学院の生徒たちに助けてくれたことでなんとか撃退することができました」
「わかったわ。レイは魔導特殊部隊の副隊長ということもありますし、ここはその言葉を信じておきます」
完全に納得してしまったようだ。
俺の功績はいらないとは言ったが、嘘をつくとはな。
まぁ穏便に済んだのならいいのだが。
「それはいいとして、レイとエビリスくんが同じ部屋とは一体どういうことなのですか?」
襲撃の内容を確認した後に、レイと俺とのことを聞き始めた。
これは全く襲撃に関係ないことなのだ。
「それは……魔族の森にいたということで少し聞きたいことがあってですね」
「にしても同じ部屋にいる必要ないですよね?」
ミリア先生がレイに圧力をかける。
ふむ、この圧力ならそう逃れまい。
「気になったので四六時中監視することにしました」
「どうしてそうなるのですか?」
「私が気になったから、それ意外に理由は要りますか」
強引な手段に出たか。
これが地位に身を任せるということなのだろう。
全く悪女だ。
「っ!……私からは何も言えない、のですね」
「そうですよ」
どうやらミリア先生も勝てなかったようだ。
それから教師たちは貴族学院の寮へと向かった。
「どうやら私も一応向かう必要がありますね。用事を済ませたらすぐに部屋に戻りますので先に帰っててください」
「ああ、事情を話さないとだな」
「はい。それでは行ってきますね」
レイはミリア先生の後を追うように寮へと向かった。
俺も帰るとするか。今回は彼女たちに任せるとしよう。
自分の部屋に着くと、ずっと影で隠れていたアイスとメライアが現れた。
「エビリス様、ひとつお話があります」
「……なんだ」
「あのレイという人を部屋に入れないでください」
「アイスちゃんってば怖ーい」
アイスの言葉にメライアはそう反応した。
確かにいつもの彼女らしくはないが、こう言ったkとになるのはこれが初めてではないからな。
「いいえ、これぐらいは普通でしょう。あの人は明らかにエビリス様に失礼を……」
「別にいいではないか。俺としてもレイがいてくれる方が助かる」
アイスの言葉を遮るように言ったが、まだ怒りが収まる気配は無い。
「それはそうとして、彼女は危険です」
「危険かどうかは俺が判断する」
「まぁまぁ私もね。風呂場のことはちょっとドキドキしちゃったけどいいでしょ?」
俺とメライアがアイスをなんとか抑えようとするが、難しいようだ。
「……メライア様までそんなんことを言うのですか」
「とりあえず、俺も反省はしている。だが、レイは部屋に入れる」
「本当に反省していますか?」
アイスは前屈みになり、こちらに顔を突き出してくる。
ここまで怒るのは珍しいな。
「ああ、反省している」
「それならいいのですけど……」
どうやら少しは落ち着いてきたようだ。
「そう言ってくれると助かる」
「いいえ、私も少し取り乱してしまいましたし」
ふむ、まぁこれでしばらくは大丈夫だろうが、またいつ怒るかわからないな。
「アイスちゃんも落ち着いたところだし、エーデンのことについて話そうよ」
「そうだな」
「エビリス様の封殺魔法を突破するほどです。相当な魔力を秘めていると思われます」
確かに、アイスの言うとおりだ。
俺のあの魔法から逃げられるとは思ってもいなかったが、魔王の力が完璧では無い以上は仕方ない。
もう少し魔王の力を扱えればいいのだがな。
「うんうん、封殺魔法『不滅の雲煙』は最強なのだけど、それは魔王の力があってだからね」
「俺としても完全に取り戻せたと言うわけではない」
「だから、これからするべきはエビリスの強化、それもこれ以上に魔王の力を必要になってくるわ」
どうやら俺を完全以上にしなければいけないと言うのだろう。
まぁ俺としてもそうするべきだと思う。もしエーデンが力を発揮し、周囲を呑み込んでしまったら瞬く間にニヒルが地球を支配するだろうな。
「それで私からの提案、エビリスを極限状態にさせるの」
「ふむ、確かにそれが手っ取り早いかもな」
「メライア様、それでは危険ではないですか?」
アイスが言う通り、確かに危険ではある。下手をすれば力を失ってしまうことになる。
「危険だと言うのは今も変わらない。だから少しでも可能性があるのならそれにかけるべきだと思うの」
「ですが……」
「俺はよく覚えていないのだが、魔王の力を手に入れたときもこのような状況だったのだろう?」
はっきりとは覚えていない。メライアからは俺を極限状態にまで追い詰めた結果手に入れた力だと言った。
アイスもその時は反対したのだが、その時の俺も自ら進んで手に入れようとしたようだ。
「そうですね」
「それに近いことをもう一度やるだけだ。何も不安に思う必要はない」
「うん、それがいいと思う」
メライアもそう言う。
「別に力を失うかもしれないが、死ぬことはないだろう。大丈夫だ」
「わかりました……」
そう了承はしたが、アイスは不安そうな顔をして俯いたのであった。
こんにちは、結坂有です。
エーデンの襲撃の後で色々と環境が変わりそうな魔王ですが、これから一体どうなるのでしょうか。
そして、魔王は完全に力を取り戻せるのか。
それでは次回もお楽しみに。
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