二回目の悪魔撃退
転送すると、目の前にはリーシャの他にレイアもいた。
「まさか、転送魔法でここまで来たのですか」
「ああ、何か問題だったか」
「いいえ、助かります。それにレイさん?」
「はい。今はただの学生となっていますけど」
「とても心強いです」
レイアはそう言って俺たちに一礼をして、魔導具を下ろした。
「エビリスくん、来てくれたんだ」
「貴族学院が危ないと思ってな」
「ところで、その人は?」
「今日編入してきたばかりのレイという人だ。こう見えて一応生徒だ」
今のレイは戦闘服を着ており、とても学生とは見てもわからないだろう。
「そうなんだ。また可愛い人ね」
リーシャはレイを見てそう感想を呟いた。
少し不安そうな顔をしているが、何を思っているのだろうか。
彼女も十分に美人である上に、それぞれ違った可愛さがある。強みをしっかりと武器にすれば、対抗する必要もないだろうに。
そんな彼女を横目に俺はレイアに話しかけた。
「フィーレはどこにいる?」
「おそらくエントランスの方で防御態勢を取ると言っていました」
「ふむ、なるほどな。レイ、俺たちも向かうとするか」
「はい」
そう言ってこの部屋から出ようとすると、リーシャが引き止める。
「あの、もしかしてなんだけど、外にいた男は私のことを狙っていると思うの」
「そうなのか?」
「私の名前を呼んでいたってフィーレが言っていたから……」
それならおそらくリーシャの持っている力が目的なのか。
確かにリーシャを吸収すれば、強力で純粋な魔力の他にニヒル自身の魔力も手に入れることができるだろう。
そして、エーデンはもともと人間だ。人間の魔力を手に入れたとなれば、これ以上に厄介になることは間違いない。
そうとは言っても純粋な魔力が欲しいのであれば、マリークがあの状況では既に人間の魔力は手に入ってしまっている。
それに、前の事件でリーエルの魔力も手に入れているはずだ。
「そのことは気にするな。リーシャは俺が守る」
「エビリスくん……」
「まぁ何にしてもこの寮を守る必要があるからな。俺もフィーレのもとに向かう」
俺が部屋の扉を開けると後ろからリーシャが抱きついてきた。
「どうした」
「二回目だから、私も手伝いたいの……いいかな?」
そう言って、リーシャはそっと離れる。
リーシャの狙撃の腕は確かなものだ。それに魔弾の威力も強力だろう。
しかし、そうすれば彼女を前線に出すことになる。
前線にならないところから撃てるなら問題ないのだがな。その辺りは本人に聞くしかないか。
「ふむ、それならこの位置から撃てるのか?」
「全然大丈夫だよ」
「そうか、なら後方支援を頼もう」
「任せて」
リーシャはそういうと少し目付きが変わったように思えた。
何か覚悟を決めたかのようなそんな目だ。
この調子なら実力を発揮できることだろうな。
「銃を取りに行くならレイアと一緒に行け。攻撃は自由だ」
「合わせてくれるのは助かるよ」
「では俺は行く」
「うん、またね」
そう言って俺とレイはエントランスの方へ向かった。
俺たちが出て少しした後にリーシャとレイアも移動を開始したようだ。
レイアの実力も確かなものだから、不測の事態でもうまく対処してくれそうだ。
エントランスに着くと、そこには複数の貴族学院生徒が唸りを上げて魔力を捻出している。
それでもエーデンの魔力は強さを増していくばかり。マリークとリーエル、そして自らの膨大なニヒルの力は時間と共に増していく。
当然、彼らだけではここが瓦解するのも時間の問題だろう。
「エ、エビリスくん!?」
すると、俺の気配に気づいたのかフィーレがここにやってきた。
「この調子だと後数分ってところか」
「そうね。魔力壁の他に好火力の魔法を出す準備も始めています。教師陣の方も学院からここに来るそうですし、あとは持ち堪えるだけで十分だと考えています」
どうやら教師陣にも連絡しているようだ。
教師らも相当な魔術師で応援に来てくれるのなら十分に戦える戦力が増えることだろう。
とは言っても、エーデンの力では教師陣がいくら参戦しようと状況は変わらないのも事実だ。
そのことを考えると俺とレイでなんとか対処する必要があるな。
「それでは不十分だ。俺は奴を知っているからな」
「この学院だけでも小隊規模の戦力はあります。あの男一人ではどうすることもできないはずですけど」
「いいや、彼は一流の魔導大隊を一瞬で壊滅できるほどの潜在魔力を持っている。もしそれが発揮されればこの寮など跡形もなくなる」
俺が最初に奴と対峙した時に感じたあの潜在魔力、あれは凄まじいものであった。
もしあれが完全に発揮されれば、今の俺とて相手になるかどうかわからない。
俺も早く魔王の力を完全に取り戻す必要があるな。
「それほどの人物なのですか」
「そうです。私の魔力球でも微動だにしなかったのですから」
「レイの最大魔力球でも無理なのですか。確かにそれは厳しそうですね」
あの魔力球は俺の世界では大隊規模で生成するものなのだが、彼女は一人でそれを放って見せた。
時間はかかっていたものの、それでも強力だ。
そんなものを直撃しても無傷だったエーデンはその存在だけで異常なのだとフィーレは理解したようだ。
彼女の顔色がだんだん暗くなっていく。
「だが、勝機はある。リーシャの狙撃を使えばなんとか奴を撃退することができる」
リーシャの魔力にはニヒルの力、つまり高次元の力を持っている。
今のエーデンならその不完全な力でも傷程度なら与えられるだろう。
「フィーレは奴の触手を切ってマリークを助けろ、その間に俺とレイでなんとか奴を撃退する」
「……わかりました。その作戦で行きましょう」
どうやら俺たちの作戦にフィーレは乗ってくれるようだ。
確かに好火力の魔法をぶつける作戦でも持ち堪えることはできるかもしれないだろうが、最悪な事態を避けたい。
それはここにいる貴族学院の生徒全員を奴に吸収されることだ。そうなれば誰にも止められない。
「では、俺が先陣を斬ろう」
「私も続きます」
魔力壁の消滅と同時に俺とレイは走り出す。
俺たちに少し遅れて、フィーレも走り出す。右手には聖剣を持っている。
「キタ、ナ」
すると、エーデンは魔力を全開で放出してきた。
その強烈な力は人間の皮膚を簡単に引き裂き、内臓を抉り出すほどだ。
それを俺は魔法陣を使わず、魔力だけで防御してみせる。当然、レイやフィーレの方にも展開してみせる。
「まさか、ここまで力が戻るとはな」
「そうですね。まだ四日ほどしか経っていませんし」
たった四日でここまで回復するとは意外だった。
「まぁいい。俺もあれから少しは訓練を続けていたからな」
魔王の力を完全に取り戻しているわけではないが、その片鱗程度なら問題なく扱えるようにはなった。
「レイ、右側に回って魔力球を繰り出せ。その間にフィーレはマリークの救助を」
「わかりました」
「ええ」
俺の合図と共に二人が駆け出す。
そう言って、俺たちが分散したと同時に強烈な破裂音が轟く。どうやらリーシャの第一射が放たれたようだ。
その弾丸はエーデンの防御壁を破壊しただけで、攻撃は命中しなかった。
ふむ、あの全力の魔弾を防御壁だけで受け止めるとはな。しかし、防御壁がなくなった今であれば魔力球は通じるだろう。
「クソ!」
フィーレはエーデンの左側から攻撃を仕掛けてくる。あの高速な移動ではすぐに対応は難しいだろう。
その攻撃を確認したエーデンはすぐに触手で絡めているマリークを盾として前に突き出した。
それを彼女はその巧みな剣捌きでマリークをうまく触手から切り離し、救出することに成功した。
ついでにフィーレは本体へと攻撃しようとするが、エーデンは既に彼女から十分な間合いを取っており追撃ができない。
「フィーレ! 離れてください!」
すると、魔力球の準備が整ったのかレイが叫ぶ。
フィーレがその高い身体能力でマリークを抱えたまま俺の方へと瞬時に移動する。
やはり、彼女の移動は高速だ。
「ゴザカシイ!」
レイから放たれた魔力球は轟音を立てながら、前進と続ける。
それをエーデンが真っ向から受ける形となる。
完全ではないとはいえ、あの魔力球を正面から受け止めるとはな。既にかなりの魔力を吸収したのだろうな。
また強烈な破裂音が俺の後方から聞こえる。
リーシャの第二射が放たれたようだ。
その弾丸はエーデンに直撃し、確かにダメージを与えたようだ。そして、その反動で魔力球に耐えることができず、そのまま呑み込まれる。
だが、あれだけでは不十分だろうな。
「フィーレ、レイ。少し下がっておけ」
「どうしてですか?」
「見てみろ」
「うそ……」
フィーレが口を手で押さえて驚いた。
あの二つをほぼ同時に受けたとしても彼はまだ立っていた。
全身から蒸気が出ているが、弾丸で受けた傷以外は目立った外傷はない。
「確かに効果はあっただろうが、それも微々たるものだったようだ」
「これでは勝てない……」
「いや、マリークを助け出すことに成功した。それだけで十分だ」
俺はそう言って前に歩き出す。
「エビリスくん?」
「任せておけ」
そうして、俺はエーデンに手を受ける。俺の手からは滅紫の煙が発生し、彼にまとわりつく。
「コレ、ハ」
「見たことはないだろうな」
人に対して使ったのは初めてだが、仕方あるまい。
エーデンは既にニヒルに染まっているのだ。
「ググ……ガアア!」
「”我が不滅の雲煙よ、かの者を深淵へと誘え”」
俺が放った煙はエーデンを完全に包み込み、封印を始めようとする。
しかし、まだこれだけでは足りないようだ。
「ふむ、これでも無理か」
「マダ、チカラガ……」
すると、エーデンは消滅した。
どうやら高次元に逃げ込んだようだ。
「逃げられてしまったようだ」
「あの力って……」
フィーレがそう問いかけてくる。
「気にしないでくれ」
「そう、ですよね。わかりました」
フィーレは俺のことをある程度わかってくれている。
だから俺は彼女を信用している。
なんとかエーデンを撃退することはできたが、完全に危機が去ったわけではないのは確かだろう。
今後も警戒を続ける必要がありそうだ。
こんにちは、結坂有です。
本日は続けて投稿ということですが、楽しんでいただけたでしょうか。
魔王の片鱗が垣間見えた回となりました。
しかし、それでもあの悪魔を倒すことができなかったようです。
果たしてこれから一体どうなるのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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