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魔王は波乱に揉まれる

 食堂でレイの作って来たお弁当を食べ終えた俺たちはすぐに午後の授業となった。


 午後の授業では魔導実技の時間となっており、その時間を使ってレイとレナは対決するようだ。

 俺はレイが勝つと思っている。魔力球という単純な魔法でしか使えない彼女ではあるが、知識は相当なものになっているはずだ。

 あのような戦いに臆することなく戦えるのだからな。


「レイさん、あそこのフロアで競いましょう」


 レナがレイに向かってそう言う。


「そうね」


 そう返事をして彼女らはそのフロアに向かう。俺も勝敗が気になるところなので、一緒に向かうことにした。

 中央の板に手を当てると、ランダムに選ばれる魔法陣が描かれるようだ。

 これはもともと罠として作られた魔導具のようだな。

 この魔導板にはあらかじめ複数の魔法陣が仕組むことができ、それを出現させる。

 なるほど、こうして応用することで競技に使えるとはな。人間とはなかなか面白い発想をするものだ。


「単一系統の水生成魔法ですね」


 やはり、あのような簡単な魔法陣であればレイは即答できるだろう。


「では、これはどうですか」


 すると、応用魔法が展開された。

 レイは眼を凝らし、集中する。

 展開された魔法陣はどうやら火炎旋風を引き起こす魔法陣だ。風の流れを変える呪文と炎を作る術式さえ見破ることができれば簡単にわかるものだ。

 ただ、それだけでは答えとして不十分だ。


「火炎旋風魔法、そして固定式です」


 固定式、この魔法陣の肝である部分であった。

 火炎旋風には二種類ある。移動可能なものと不可能なものだ。

 この魔法陣では巨大な炎を二方向からの風によって竜巻にする。科学の授業でも聞いたのだが、自然界でもこの現象は起きるそうだ。

 そして、移動が可能なものは炎自体に回転を与える呪文によって移動を簡単にするものだ。


「……正解です」


 どうやらレナはその複雑な魔法陣を簡単に見破られてしまって少し悔しい様子であった。


「私の番ですね」


 そう言うとレイはまた単一魔法の術式を展開した。

 複雑に編み込まれた現代からすると少し古い魔法陣であった。


「土属性……単一系統で壁を作る魔法です」


 しっかりと眼を凝らすことができたレナはすぐに答えることができた。

 この程度なら彼女にとっては朝飯前だろう。


「それでは次です」


 そう言ってレイはさらに複雑な魔法陣を生成する。

 そして、浮かび上がった魔法陣は雷属性、火属性の三つを絡めた魔法のようだ。

 広範囲に強烈な熱線を浴びせるものだ。

 古くからあるが、生成するのには相当な鍛錬が必要なものだ。


「これは……」


 レナの言葉が詰まる。

 この魔法陣を見破るには雷属性のところにある。

 電気的な現象を用いることで熱線に方向性を持たせることができるのだ。

 当然、俺は科学などの知識を知らずに覚えていた魔法であるが、科学的に考えてみるとなかなか面白いものである。


「指向性の熱線魔法、ですね」

「二つとも正解です」


 どうやらレナは正解したようだ。

 最後の問題を解くのにかかった時間は七秒、これは明らかに前よりも進化している。

 彼女も知らないところで必死に勉強を続けていたのだろう。


「それでは次の問題にいきましょう」


 次はお互いに複雑な魔法陣を生成し、同時に回答する。

 その時の回答速度によって勝敗が決するのである。


「ええ、準備はいいですか」

「もちろんです」


 そうレイが返事をすると、カントダウンが始まる。

 この間に二人は魔導板に魔法陣を仕組んでいく。

 そして、カウントダウンが終わると互いの魔導板から魔法陣が展開される。


 双方の魔法陣は三つ以上の属性を絡めた高度な魔法であった。

 レナは光と土、水を使った魔法だ。どうやらこれは光を多方面に反射させて非常に広い範囲を光で照らすことができる設置魔法である。

 対するレイは土、水、光、そして雷を使った高度な魔法だ。これは電磁誘導を利用した砲撃魔法だ。

 俺の時代にはなかった魔法だが、科学の力を存分に使った魔法と言えよう。

 しばらくの間、互いに魔法陣を読み取っている。


「広範囲照明魔法です」


 しかし真っ先に答えたのはレイであった。


「っ!……」

「勝負ありましたね」


 この勝負はレイの勝ちであった。

 非常に接戦ではあったが、レイの展開した魔法陣は非常に読み解くのが難しい。科学の知識も取り入れなければいけない難問であった。

 レナの魔法陣も複雑で難解ではあるものの、古くから応用されてきたために簡単に見破られてしまったようだ。


「負けて、しまいました」


 レナは今にも泣きそうである。

 しかし、彼女も相当な実力であった。これは褒めるに値するものだ。


「負けたが、以前よりも分析の能力が上がっている。それは誇るべきだ」


 俺はレナにそう言う。

 すると、レナの顔は少し明るくなった。


「本当?」

「ああ、これからも十分に伸びるだろう。そして、また再戦すれば良いだけだ」


 負けたからと言ってそれが最後ではない。

 これは戦争ではなく競技だ。負けがそのまま死を意味するわけではないのだからな。


「そうね。まだまだ学院生活は続きますし、再戦はいくらでもできますね」


 俺の言葉にレナは勇気を持てたようだ。

 ここで挫けていては先はない。敗北よりも次への自信をつけることが今彼女にとって重要であろう。


「それでは、私の好き勝手にしていいと言うことですね」

「はい。また挑むだけですから」

「楽しみにしています」


 そう握手をした二人の顔はどこか笑っているような気がした。


 それから授業は続き、レイの絡みも激しくなる。

 次第には身体的接触にまで至ってしまった。とは言っても肩が触れた程度なのだが、男子からの痛い視線が俺の背中を抉るのであった。


 そして、一日の授業が全て終わり放課後となる。


「エビリスくん。寮まで案内してくれますか」


 俺のすぐ隣の席にいるレイはそう、俺に耳打ちする。

 先ほどまでホームルームをしていたミリア先生はそれを見ると少し落ち込んだ様子であった。


「わかった。寮まで案内する。部屋番号は知っているのだな」

「もちろんです」

「寮の入り口まで案内しよう」


 そう言うとレイは頭を下げて「ありがとうございます」と言った。

 商店街で取り置きしてもらっていた食材を手に入れ、寮へと向かう。


「ここが寮なのですね」

「ああ、女子の寮は奥になっているはずだ」


 男子と女子とで建物が分かれている。

 まぁ当然と言えばそうなのだが、互いに部屋に入ることはできるそうだ。

 その辺りまで厳しく取り締まるようなことは学院はしないと言うことだろう。あくまで形式上なだけであって、本当は自由な男女交流をしても良いのだ


「そのようですけど、私は男子の寮になってしまいました」

「ふむ、珍しいこともあるものだな」

「どうやらそこしか空いていなかったようです」


 レイはそう言うとまた悪戯顔になった。

 嘘かどうかはわからないが、裏で何やら根回しをしたのだろうな。


「!?」


 俺がそういうとレイが驚いた顔をした。


「どうした」

「いえ、エビリスくんの影が少し動いた気がしたのです」

「ふむ、見間違いではないか」

「それなら良いのですけど」


 今俺の影にいるのはアイスとメライアだ。

 普通であれば一人の影に隠れられるのは一人ぐらいだが、今回は二人も入っている。

 二人のうち一人が動揺でもすれば、影が淀んでしまうことだろうな。


「とりあえず、寮に入ろうか。ここでは少し目立ってしまうからな」

「……もしかしてですが、私と二人きりだと緊張しますか?」


 少し俺の影を覗き込んでいたが、これの言葉にまた悪戯顔でそう返してくる。


「緊張というか、視線が気になるだけだ」


 そう言って俺たちは男子の寮へと向かった。

 寮の中へと入ると後ろから声をかけてきた。

 この声はエリーナだな。


「ちょっと、エビリスくん!」

「あまり大声を出さないでくれるか」

「あ、ごめんごめん」


 そういうとエリーナは声の大きさを少し落とした。


「エリーナではありませんか。どうかなさいましたか」

「どうかなさいましたかって、そのことで来たんだけど」

「そう、確かエリーナはここの寮の監督でしたね」

「だから注意しに来たの」


 ふむ、一体どういうことだろうか。

 エリーナとレイが知り合いなのは同じ魔導特殊部隊にいるということでわかっていたことなのだが、彼女らが言っていることはわからない。


「注意とはどういうことだ」

「まだ言っていなかったの?」


 俺の言葉を聞いたエリーナはそうレイに質問した。


「言わない方が面白いと思いまして……」

「じゃ私が言う。レイの部屋なんだけどエビリスくんの部屋と同じなの」

「何?」


 先ほどから嫌な予感はしていた。まさか、こんなことになるとはな。


「相部屋、と言うことですよ」

「それは良いのか?」

「確かに寮の部屋は一人用にしては少し大きい。でも、男女が一つの部屋にいるのは納得できないわ」


 エリーナはレイにそう反論する。


「あら、どういけないのでしょうか」


 すっとぼけるようにレイは言う。


「それは、その……不純異性交遊、とか」

「まさかエリーナがそんなことを考えていたのですか。私は全くそんなことを考えていませんでした」

「なっ……」


 エリーナはすぐに顔を赤くした。

 このレイと言う女は人をからかうのが非常にうまいようだ。本当にクリシュの性格に似ている。


「それに、エリーナは私に命令できないはずです」

「そう……そうだけど」

「では、行きましょうか。エビリスくん」


 そう言ってレイは俺の手を引いて先に進む。

 エリーナはどうやらこれ以上は追及してこないようだ。

 部隊での上下関係を持ち出されてしまっては彼女も動けないのだろう。

 それにしても厄介なことになったな。

 まさかレイが俺と同じ部屋に住むことになったとはな。

 もしこれが一般学院の生徒にでも知られてしまったらどうなることだろうな。

 皆に知られるのは時間の問題だろうが、あまり想像したくないものだ。

こんにちは、結坂有です。


新たな編入生に負けてしまったレナですが、今後どう進化していくのでしょうか。彼女の成長も気になりますね。

そして、レイはエビリスの部屋に住むこととなりました。

一体どう言った生活になるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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フォローしてくると嬉しいです。


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