二人目の最強編入生
残りの休日である日曜を普通に過ごし、月曜日が来た。
俺は他の一般学院の生徒よりも少し考え事をしながら、俺は登校していた。
それはレイ・フィンドレアの編入のことであった。
昨日にそんなことを言われた俺は当然、彼女の編入に驚いていた。そして、彼女はどうやらその力を隠すつもりはない。
そうなれば、俺よりもこのクラスを混乱に陥れることになるだろうな。
そんなことを考えていたのであった。
「おはよ」
教室に着くといつものようにコリンやレナが挨拶をしてくる。
この日常にはなれ始めたところだが、まだ新鮮さが拭い切れていない。
「おはよう」
「掲示板見た?」
挨拶を返すとコリンはすぐにそう質問してきた。
掲示板とは玄関にある情報を生徒に共有するためのものだ。
当然、俺も登校時にはしっかりと確認している。
いつもであれば、授業内容の変更であったりイベントの告知であったりするのだが、今回は少し違った。
一般学院に編入生が来るとのことであった。
掲示板によると二年生での編入は史上初めてと言うことらしい。
「ああ、見た。どうやら編入生が来るようだな」
「そうなんだよ。下にも書いてあったけどエビリスくんみたいに水晶を壊したんだって」
「それは驚いた」
まさか、本気で編入試験を突破したようだな。少しは手加減というものを知ってほしいところではある。
「それってさ、エビリスくんの最大のライバルなんじゃないかな?」
「どうだろうな。まぁ案外普通だったりするかもな」
そうあってほしいのだが、ここは祈ることしかできない。
俺ももう少し土曜の時に伝えておいただけでも変わったのかもしれないが、過ぎてしまったことは考えても無駄だろうな。
「いやいや、エビリスくんだって普通じゃないんだからね」
「うんうん」
どうやらその点はレナも合点だったのようでコリンの言葉に大きく頷いた。
「どうなるかは来てみないとわからないだろう」
ここであれこれ考えるより堂々と待ってみる方がいいに決まっている。
「結局そうなるよね。見てみないとわからないかぁ」
早めの段階で知っておきたかったようだが、俺の口から言えることはこれぐらいだ。
あとは自分の目で確かめるなり、本人に聞くなりしてほしいところだ。
するとマーフィンが教室に入ってくる。
「あ、おはよ!」
コリンが彼を見つけるとすぐに挨拶をしたのだが、返事がない。
どうやら深く考え事をしているようだ。それに、落ち込んでいる様子でもある。
「あれ……」
「何かあったようだな」
「うん。いつもなら返事してくれるのに」
マーフィンは周りの声が聞こえていないかのように、静かに席に座った。
しばらくして、ミリア先生が入ってくる。
「おはよう。今日は大事な話があるの」
「それって編入生のことですか?」
「よく知ってるね。掲示板を見た人ならわかると思うけど今日からこのクラスにまた編入生が入ってくるの」
「でも、それって異例ではありませんか」
一人の生徒がそう質問する。
確かに異例ではあるが、彼女ほどの実力者と地位であれば問題なく通ることなのだろうな。
「異例、だね。でも本人は至って普通の人だから安心して。じゃ早速紹介するね」
そういうとミリア先生は扉の方に向かって手招きをする。
そして、入ってきたのはレイ・フィンドレア。土曜日、俺にここに編入すると真っ先に伝えた人だ。
その美しい青色の髪は一瞬教室の空気を変えた。
「可愛い」「綺麗な人……」「なんかどこかのお姫様みたい」
生徒はその可憐で美しい容姿に見惚れてしまったのだ。
一歩踏み出すたびに静寂が訪れるのを感じる。
レイが教壇の前に立つと、また美しい所作で正面を向く。
そう振り向く彼女の顔を見た生徒は息を呑んだのだろう。
「初めまして、レイ・フィンドレアと言います。皆さん仲良くしてくれると嬉しいです」
その美しい声色で放たれた言葉は皆の心に響いた。
「「おぉ!」」
その言葉を聞いた直後、男子生徒は感嘆の声を漏らしていた。
「はいはい、みんな落ち着いて。それではレイ……さん、席に着きましょうか」
どこか不自然さのある言い回しでミリア先生は空いている席を指差した。
すると、少し不機嫌そうな顔をして口を開く。
「あの席、ですか。エビリスくんの横がいいです」
「あ、エビリスくんの横ですか。でもレナがすでにいますし、反対側は壁ですし……」
そう困っているミリア先生を見ぬふりをして、空いている席を俺と壁との隙間に綺麗に入れ込んだ。
「こうすれば問題ないでしょう」
「え? そ、そうですね。そうしましょう」
何かの圧力があるのだろうか。ミリア先生が完全に萎縮してしまっている。
まぁ軍務に当たっている人だったからな。地位的なことでミリア先生はどうすればいいのか迷っていると言ったところだろう。
とりあえずそれはいいのだが、なぜかレイが俺の席の横(正確には隣接している)に来た時から視線が痛い。
これはリーシャと図書館にいる時と同じ空気感だ。
どうも慣れんな。
「エビリスくん。これからもよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそな」
こんな小さな会話ですら緊張してしまう。こんなこと、俺の部下が見たらどう思うだろうな。
魔王として今の俺は相応しくないのかもしれない。
「それじゃ、朝のホームルーム始める、ね」
まだ不自然さの残るミリア先生であったが、その後は通常通りであった。
なぜだろうな。こうも圧迫感があるのは初めてのことだ。
全く人間の世界というのも生きるのは俺にとってはどうも難しいようだ。
午前の授業をなんとか終えることができた俺はすでに疲れていた。
原因は横にいるレイだ。
授業中、ことあるごとに俺に絡んできたのだ。わからないところがあるからと教えを請いたりと絡まれるたびに生徒、時には男性教授からも痛い視線が飛んでくるのであった。
図書館に三〇分ほどリーシャと絡んでいるのとは比較にならないほどに厳しい状況であった。
「エビリスくん、昼食はどうなさいますか」
「俺はいつも食堂に行くのだが……」
「あの、エビリスくんはいつも私と食堂に行きます」
すると、レナが横から声をかけてきた。
「そうなのですか。私も同行しても構いませんか」
「えっと、ダメです」
レナは確固たる決意があるように思えた。ここでレイを一緒に連れていくのはできない相談のようだ。
「それなら、お弁当にしましょう。ちょうど二人分ありますので」
「なぜ二人分なんだ」
「作ってたこと忘れてました」
「無理があるだろ」
今思いついたようなことをさらっと言ってみせるレイに不覚ながら反応してしまった。
自然とレイとの会話はどこか懐かしい感じを思わせる。
そんな会話をしていると、苛立ちを積もらせたレナが口を開く。
「私の大切な人を困らせないでください」
「そうよ!」
当然、離れていたコリンもこちらに参戦してくる。どうか喧嘩だけは避けてほしいところだ。
「私はただエビリスくんと仲良くしたいだけなのです。エビリスくんを慕う気持ちはわかりますが、私もあなたたちに劣らないくらい慕っているのですよ」
そうレイは真っ直ぐレナとコリンの顔を見る。
彼女の言葉を聞いたレナは少し顔を赤らめている。
「それに、私とエビリスくんとは運命のようなもので惹かれあっています」
「どういうことだ」
付け加えるように言葉を言ったレイに俺はそう質問した。
どこか引っかかる部分があったのだが、それは本当だったのだろうか。
「なぜか昔から知っているような、そんな感じですね」
なるほど、まだ確証はできない。とは言っても調べてみる価値はありそうだ。
レイとは今後も長く付き合っていくのだからな。
「では、魔法勝負をしましょう」
「それでも構いません」
ふむ、レナとは思えない積極的な提案だ。しかし、水晶を破壊するほどの強力な魔術師は人間でもそうそういないはずだ。そんな人と対等に戦えるとは思えない。いや、そもそも戦闘をするわけではないのだろうか。
「勝負は私の得意な魔法分析で行います」
「ええ、それなら魔力差は関係ありませんね」
それなら確かに関係はないからな。
だがそれでもレナが不利なのは変わりない。
レイの正体を知っている俺からすれば、ほぼ勝ち目はないと言っていい。
「午後の授業でペアを組みましょう」
「わかりました」
そうして、レイとレナの対決が決まるのであった。
俺としてはどちらが勝ったとしても対応には変わらない。ただ、一つ気になることと言えば、レイの魂情報にある。
クリシュの性格、それがレイに感じられるからだ。
過去の大戦を思い出したからか知らないが、確かめてみるのもいいだろう。
そう、期待と共に不安が過るのであった。
こんにちは、結坂有です。
二人目の異例で最強の編入生が一般学院に現れました。彼女は編入初日から男子生徒を虜にしましたね。
さらにその美貌からかレナやコリンを敵に回してしまいました。これからどうなるのでしょうか。
そして、レイの本当の正体とは何なのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに。
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