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過去の戦い〜後編〜

 俺がふっと力を込めると同時に、空気中の流れが変わる。

 魔力は一瞬にして城全体を覆う。そして、その魔力は盾となり、人間からの攻撃を防ぐことができるのだ。

 魔法陣を介さずに魔力だけで構築された盾は破壊が非常に困難だからな。この防御法はかなり強力なのだ。


「おぉ……」


 ここにいる数百の魔族兵士たち全員の魔力を使ったとしてもこの城全体を覆うほどの魔力は捻出することはできないだろう。

 これができるのは俺ぐらいだからな。


「魔王様、それではまだ意味がないです」


 とは言っても、ずっとこうしていると流石の俺でも魔力がなくなってしまうからな。

 確かに意味はない。ここは俺が少し前に出ることにしよう。


「ああ、お前らはそこにいろ」


 俺はそう言って、魔力の盾の外に出る。

 外に出た俺は、先ほどから尻餅をついている千人規模の魔導部隊に目を向ける。

 やはり、千人が全員尻をついている光景は滑稽であるな。


「人間どもよ。今すぐ立ち去れ」

「ば、化物め!」


 化物、か。何度聞いたことだろうか。

 俺らとてお前たちと何も変わらない。社会を築き、安全な生活を手に入れているだけだ。

 魔族にだって家族はあるのだから。

 そんなことを思っていると、魔導部隊が立ち上がり声を上げる。


「予想通り、魔王が出てきやがった。畳み掛けるぞ!」


 すると、背後にある淀んだ魔力から大量の人が出てきた。数千、数万、いや数千万規模の魔術師が現れてきた。


「あいつら正気かよ!」


 背後にいる魔族兵士の一人がそう叫ぶ。

 そう叫びたくなるのは確かだ。あの魔術師一人一人が持っている魔力は非常に強力であるからな。

 ふむ、しかし妙な魔力だ。強い魔力であるが、魔法としては弱い。一体どう言うことだろうか。


「もはや、本気と捉えるしかなさそうだな」

「魔王様! そこにいては危険です」

「ああ、わかっている。だが、人間はどうやら本気のようだ」


 あの目、自爆魔法か。

 数万もの軍勢が同時に自爆突撃をすれば、いくら俺の純魔力防御壁を突破することは容易だろう。

 そして、残りの軍勢で魔族を蹴散らすのも可能だ。

 当然ながら、そのようなことをすれば被害は尋常ではないはずだ。そんなことをして一体人間にとって何の利益になるのだろうか。全く想像がつかん。


「あいつは我々のことなど怖くないと言っている! 今こそ、我ら人間の恐ろしさを見せつける時だ!」


 先陣で鼓舞している人がいた。

 人間の恐ろしさなど、もうすでに知り尽くしている。今更見せつけられたところで意味がないがな。

 ただ、人間は何も恨みがなければここまで動かないはず。そこだけがどうも引っかかる。


「あの目は本気だ。死を覚悟している」

「魔王様、そこを離れてください!」

「よかろう、人間ども。その心意気は見事である。しかし、その程度で俺を倒せるのか」


 俺は改めて人間にそう問う。

 恐怖を煽る目的もあったが、少し時間稼ぎが必要だったのだ。


「この規模の軍勢、魔王一人で何ができるんだ!」

「俺を倒すには数億人規模の魔術師で挑むべきだ。それでやっと互角と言ったところだろうな」

「ふざけたことを!」


 何もふざけているわけではない。

 一流の魔術師なのかもしれないが、目の前にいる魔術師の魔力では魔法となった時の効果が弱過ぎる。

 やはり、何か良からぬ術で無理やり魔力の強さを引き上げているのだろうな。


「ふむ、ふざけているかそうでないか。確かめてみるか?」

「なっ! や、奴らに鉄槌を下すのだ!」


 動きに出るか。

 なら、それに応えようではないか。

 時間なら十分に稼げたからな。


「我ら人間の作り上げた最高の魔術で……!!」


 奴らが魔法陣を作り上げる前に、俺は二百を超える魔法陣を一瞬にして展開した。

 そのどれもが超高等魔法であり、展開するだけで轟音が空気を震わせる。


「綺麗……」


 後ろにいるクリシュが目を輝かせてそう呟いた。

 改めてみると確かに綺麗だ。

 その青白い魔法陣がいくつも重なり合っており、ある種の芸術のようである。

 意図して作り上げたわけではないが、何とも美しいではないか。


「何だよ、その数は!」


 しかし、人間どもには恐怖にしか見えなかったのであろうな。


「この程度で怯えるか? 城を守っている魔力まで使えば一体どれほどの数を操れるだろうな」

「貴様!」


 数百万もの強化された魔術師、いや一般人なのかもしれない。

 もともと魔力が弱かった者が何らかの術で強化されたのだろうな。

 彼らは不運ではあるが、明確な敵意を向けてきたのは変わらない。

 殺しにかかると言うことは殺される覚悟があると言うことと同義だからな。


「散れ……」


 俺の一言と同時に地面が激震する。そして、強烈な光が目を突き刺し、あたり一面を完全破壊する。

 だいぶ遅めに魔法を展開したのだが、彼らは間に合わなかったようだな。最高の魔術とやらを少しは見てみたいと思っていた自分がいた。


「……」


 後ろにいるクリシュが絶句している。

 魔力の防御壁の中にいたために怪我はないが、先ほどの光景は衝撃だっただろう。

 あたり一面の地面という地面がなくなっているのだ。そして、海水が飲み込むようになくなった地面を覆う。


「さすが我が魔王だぜ。海を作るとはよ!」「頼りになりますぜ」「恐ろし力です……」


 魔族兵士たちはそれぞれそう感想を述べる。

 あの人間の数を一斉に蹴散らすには大陸ごと消し去るしか方法がなかったからな。

 とはいえ、少しやり過ぎたな。


「魔王様、どこに行かれるのですか」

「人間の国、ゼルガリスに向かう」


 先ほど攻撃を仕掛けてきた人間の所属している国だ。

 ローブに縫い込まれていた紋章からそう判断したのだ。


「危険です!」


 クリシュはそう言って防御壁から出ようとする。

 しかし、その強力な魔力で作られた壁は容易には突破できない。彼女一人では不可能だ。


「危険な真似はしない。そこにいろ」


 俺はそう言って空を飛ぶ。最後にクリシュが何かを叫んでいたようだが、俺は気にすることなくそのまま人間の国に向かった。


 ゼルガリウスの城門上空にたどり着くと、そのまま落下し城門前に着地する。


「ど、どこからきた!」

「魔王城から来た。そこを通せ」

「て、てきしゅ……!」


 叫ばれては困るからな。ここは少し眠ってもらおう。

 何も国を滅ぼしに来たわけではないからな。

 そのまま俺は城門をくぐり堂々と大通りを歩いていく。


「きゃ!」「うわああ!」「魔族だぞ!」


 先ほどまで平和に買い物をしていた市民たちが一斉に逃げ回る。

 しばらくすると、あたり一面から誰一人いなくなった。

 兵士らしき人間が来るが、攻撃を仕掛けてきた瞬間に俺は催眠魔法ですぐに眠らせる。


「まるで嫌われ者になった気分だな」


 そう呟きながら、俺は城へと向かった。


 城に到着すると大きな甲冑を着た兵士が何人もいたが、魔法に耐性がないのかすぐに眠らせることに成功する。

 そして、玉座へと辿り着いた。

 玉座の間にいる兵士を全員眠らせる。甲冑が倒れる音が鳴り響き、俺とこの国の王、ノーレン・エグザリウスだけとなった。


「魔王エビリス、か。何のようだ」

「お前と会うのは初めてだったな。俺が怖くはないのか」


 ノーレンは怯える素振りもなく、淡々と話す。

 俺を怖がらない人間を初めてみた。

 さらに彼は一流、いや今までみたことのない魔術師だ。彼自身も強い魔術師なのだろうな。


「そのことを聞きにきたのか? まぁいい。怖いとは思わない」

「お前のような人間は初めてだ」

「そうか。それでサプライズはどうだった」


 サプライズとはさっきの大規模攻撃のことだろう。


「何もできずに死んでいった」

「全く、役立たずが……」


 確かに何もできなかった。しかし、王であるお前のために忠実に働いたのだ。

 そのような者を役立たずと切り捨てるとはな。

 人間の方が恐ろしいではないか。

 すると、ノーレンは続けて言葉を続ける。


「まぁいい。それを報告しにきたのか?」

「それもあるが、一体なぜ攻撃を仕掛けてきた」

「身に覚えはないのか? 最近魔族の攻撃が激しいからその仕返しというわけだ」


 どういうことだ。俺らはどこにも侵攻などしていない。

 物資は城周辺で事足りている。攻撃を仕掛ける利点はないのだ。


「俺は攻撃など命令していない」

「本当か嘘かはわからないがな。確かに魔族が攻撃してきたんだ」


 そう言って玉座の左側の窓を指差す。

 窓の外には確かに魔族の死体がいくつもあったのだ。


「悪いが、攻撃した覚えはない。それにこちらも死人や行方不明者は出ていない」

「そうかよ。ならあれは一体なんだ」


 なんだ、と聞かれれば答えられない。

 とはいえ、何か良からぬことが起こっているのは明確だ。


「わからんな。少なくとも俺らではないことは確かだ」

「そうは言っても国民は納得しないからな。まぁいい報告が済んだのなら帰れ。ここは私の領地だ」


 ノーレンはまるで虫を追い払うかのように手で払った。


「そうだな。帰らせてもらう。あと、あの強化魔術は失敗だ」

「当たり前だろ。一部の魔法にしか意味のない魔力だからな。あれは在庫処分だ」


 つまりは強化に失敗した兵士、または実験台を処分したに過ぎなかったということなのだろう。


「全く同胞を何だと思っているんだ。ただの駒と考えているのか?」

「同胞とは思ったことがない」

「そうか。俺は帰るとする」


 ふざけた人間もいるのだな。

 まぁ奴の言っていること全てが怪しいのは明確だ。嘘なのか、何かを隠しているのか知らないが、後々になってわかってくることだろう。


 俺は城から出て、我が城へと向かう。


「ちょっとエビリス!」


 城に到着すると、メライアが柳眉(りゅうび)を逆立ててこちらへ歩いてくる。


「どうした」

「どうした、じゃないよ! 大陸をこんなにして!」


 メライアは俺が作り上げた海を指差して言う。


「悪かったな。少しやり過ぎた」


 確かに大陸を消し飛ばしたのはやり過ぎだった。しかし、それぐらいしなければあの軍勢とは戦えなかったからな。


「あれほど、自分の力を抑えなさいって言ったのに。ちゃんと反省してるの?」

「ああ、反省しているつもりだ」

「絶対反省していない! もう、一週間口聞かないから」


 そう言ってメライアはふんっと外方(そっぽ)を向く。


「そうか。寂しくなるな」


 俺はそう言いながら彼女の横を通り過ぎようとする。


「あ、やっぱなし! なしだって」


 すると、甘えるようにしがみ付いてくる。

 全く、可愛らしい奴だ。

 そして、クリシュにもまた怒られるのだな、と覚悟を決めて俺は城内へと入っていくのであった。

 こうして”三大人魔大戦”の最初の一つが終わるのであった。

こんにちは、結坂有です。


魔王は全盛期に一体どれほどの力があったのでしょうか。

そして、ノーレンの話したことは本当なのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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