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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第四章 人々は新たな力を得ようとする
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魔王は得したい。そして新たな敵

 俺は安全なところに逃げていた二人を見つけ、声を掛ける。


「大丈夫そうか」

「はい。傷は塞ぐことはできました」

「そうか」


 脇腹から内臓が見えるほどにひどく損傷していたが、今は完全に塞がっており見た目上では健康そうだ。

 ただ、それでも体への負担は大きいものだろう。しばらくは安静にするべきだな。


「その腕は大丈夫そうですか?」

「筋肉が破裂した程度だ。何も問題ない」


 この程度の怪我であれば、そこの人よりかは軽傷である。


「裂傷がいくつもありますので、手当てしましょうか」

「大丈夫だ。これなら俺でも治せる」


 魔王時代でも治癒魔法は得意であったからな。集中治療すればこれぐらい数分で治せる。

 しかし、それでも明日は筋肉痛に苛まれることは覚悟しなければいけないがな。


「治癒魔法も長けているのですね」

「まぁ複雑な怪我は難しいがな」


 もちろん、複雑に骨折した骨を完全に修復するとなれば、時間がかかる。砕けた皿を欠片一つ一つ正確に並べていくのと同じようなものだ。

 当然、その分時間がかかってしまうのだがな。


「なるほど、ところであなたの名前はなんですか」

「俺は……エビリス・アークフェリアだ」


 正体を晒すのはあまり良くないのかもしれないが、彼女の目は悪人のそれではない。正義に満ちている目だ。

 だから、俺は正体を晒すことにした。後で役に立つ人材かもしれないからな。


「エビリス……。学生の方ですか」


 彼女は俺の制服を見て学生と判断したようだ。


「ああ、今はまだ学生だ」

「学生でそれほどの力とは、驚きです」


 目の前の女性も相当な実力者だ。あれほどの魔力球を作り出すのは普通の人間ではない。

 同等の威力を出せるのは俺が知っている魔族でも数えるほどしかいないからな。


「あの魔力球も凄まじいものであった」

「ありがとうございます。私はレイ・フィンドレアです」


 フィンドレアか。この一族もこの時代まで生きて残っていたとはな。

 まぁその家系であるのならその強さは納得できる。それにその力の弱点である複雑な魔法陣には不向きということも変わっていないようだからな。


「そうか」

「こちらはエスタ・アンドレイ隊長です。彼は勇者殺しとして有名ですから知っていますよね」

「ああ、話だけなら聞いたことがある」


 以前フィーレが人間で水晶と破壊したと言っていた強力な魔術師の話を思い出した。

 アンドレイ一族は家系に勇者が三人もおり、一族全体で魔導騎士を作っていたほどの強力な家系であった。この時代になったからと言ってその力は衰えているはずがない。


「そうですよね。人類最強と言われていますが、接している分には普通の人ですよ」


 微笑みながら彼女はそう言う。彼とは相当仲がいいのだろうな。


「あと、妖精を連れている人は初めて見ました」

「もう気付かれているのか」


 先ほどから少し離れた場所から半分だけ顔を出してこちらを伺っているメライアが観念したのか、こちらに歩いてきた。


「気付かれる、よね」

「強い妖精さんですから」


 メライアは大妖精だからな。当然あの距離なら気付かれても不思議ではない。

 それにレイは強い魔術師だ。魔力にはそれなりに敏感なのだろう。

 そんなことをしていると、周りの魔力が騒がしくなってきた。どうやら人が集まり始めたようだ。

 確か、この騒ぎが起きてから三〇分ほど経っただろうか。それなら誰かが応援を呼んできたのは頷ける。


「そろそろあなたたちは帰った方が良さそうですね」

「どうしてだ」

「今この状態であなたたちを見れば色々と面倒なことになりますからね。後日また個人的に連絡を入れます」

「ふむ、それなら助かる」


 どうやらここに俺たちがいるのはあまり良くないようだ。当たり前だがここには許可なく侵入しているわけだからな。

 ここは彼女の言う通り静かに帰る方が良さそうだ。


「今日は助けていただきありがとうございます」

「気にするな。では、連絡を待つとする」

「はい」


 そう返事を聞いて、俺は闇魔術である透明化の魔法を使ってその場から離れることにした。

 俺としてもなるべく目立ちたくはないからな。ここは何もせず、まっすぐ帰るとしよう。


 無事に誰にも見つからずに寮へ戻ることに成功した俺は、静かに自分の部屋に戻ることにした。

 帰る途中で自分の腕の治療をしたため、傷口はすでに塞がっている。

 ただ、動かすたびに筋肉痛が襲いかかってくるのは予想していたことだが、人間の体では辛いものがあるな。


「お帰りなさい。エビリス様」

「ああ、ただいま」


 部屋に戻るとアイスが声をかけてくる。


「ただいまだよ。アイスちゃん」


 俺の後にそう元気よく返すメライアはどこか楽しそうであった。


「どうしてそんなに嬉しそうなのですか?」

「アイスちゃんには内緒であんなことやこんなことをしたの!」

「メライア、あらぬことを言うな」


 彼女のいたずら心が刺激されたのか、アイスにそんなことを言う。


「……」


 当然、ショックを受けたのかアイスは少し黙り込んだ。

 しばらく考えた後、上目遣いで俺の方を見る。


「わ……私もエビリス様自身に取り憑きたいです」

「俺を苗床にしたい、と言うことか?」

「はい」


 そうねだるよう上目遣いで俺の方を見るアイス。

 こうなったのは全てメライアのせいだ。そう思い俺はメライアの方を見る。


「いいんじゃない? この際だし」

「あのな、妖精に複数憑かれた人間など目立ってしまうではないか」


 俺を苗床にしている妖精はメライアだけであるが、彼女は自分で自由に行動できるほどに力がある妖精だ。

 俺のそばにいなくとも生きていけるのである。

 そのため、俺を苗床にしたところで近くに彼女がいなければ目立つことはないのだ。

 しかし、アイスはまだ自分で自由に行動できるほどに力があるわけではない。俺のそばにいる必要があるのだ。

 そうなれば嫌でも目立ってしまうではないか。そんなことになれば俺は非常に困る。


「やはり、私では力不足でしょうか」

「いや、十分過ぎるぐらいだ」

「ほら〜 アイスちゃん泣いちゃうよ?」


 誰のせいでこんなことになったのか知ってて言っているのだろうか。全く悪戯が過ぎる。

 まぁ妖精に憑かれるのは何もデメリットばかりではない。ある程度の力であれば妖精と協力することができるからな。

 それもあってか魔王時代では妖精と契約をしてまで自分に取り憑かせて、戦いを挑んできた魔族や人間が何人もいたな。

 当然、妖精が一人味方についたところで実力差は全くもって変わらないのだがな。


「……わかった。苗床にしても構わん」

「本当にいいのですか?」

「ああ、この部屋以外では影から出ないようにな」


 影から出ない事を条件に俺はアイスの願いを聞き入れた。

 幼なじみで俺に多少なりとも特別な感情を抱いているからな。メライアだけが特別扱いでは公平ではないだろう。

 こうなったのは全てメライア本人であるが、そのことは追及しても意味がないだろうな。またはぐらかして逃げるだけだ。


「はい、そばにいれるだけで私は幸せですから。こうなること、千年以上待ち続けていました」

「ふむ、千年か。だいぶ待たせてしまったな」

「妖精族は待つのが得意だからいいの」


 そこはメライアが言うところではないだろう。

 こうして俺はメライア、アイスの二人の大妖精に憑かれることなったのだ。得られる力や恩恵は大きいが、変に目立たないかだけが不安ではある。


 さて、明日の学院ではバレない事を願いながら、今日はもう寝ることにしたのだ。


   ◆◆◆


「エビリス・アークフェリア、か」


 ある人物が一般学院の寮を見ながらそう呟く。


「彼の力は危険だが、利用する価値はある。私の計画に、世界を変える計画に必要な力だ」


 そして、強く拳を握り込む。


「ニヒルとあの力、それが合わされば世界を意のままに操れる。そう、私が、私たちが神になるのだから。こうなることは運命なのだから。この運命は二千年前から変わらない。エグゼリウス家の運命は決して誰にも止められない」


 握り込んだ拳を高く頭上に掲げる。


「今まで、今まで、今まで……私たちの戦いはまだ始まってすらいなかった。そして、その戦いを私が始めるのだ。そうすれば、私の先祖も喜ぶことだろう。神になることはもはや決まったも同然だから……ハハハッ」


 そう言って、ある人物は高笑いをする。

 自分がこれから新時代の王になり、そして神に近い存在になるのだと、そんな自信すら感じる笑い声はどこか不気味さを含んでいた。

こんにちは、結坂有です。


何やら危険で気味の悪い人物も魔王の敵になってしまったようです。

そして、魔王は大妖精二人に取り憑かれてしまいました。取り憑かれるとメリットも多いが、そんなことよりも目立たないか心配する魔王であった。


今回で第四章は終わりとなります。

次章はバトルシーンが多くなりそうな予感がしています……いや、少ないかもしれません。

それでは次回もお楽しみに。


追記ですが、別の作品も毎日16時ごろに投稿しています。そちらの方も楽しんでいただけると思います。

頑張って作品を作っていきますので、これからもよろしくお願いします。

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