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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第四章 人々は新たな力を得ようとする
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魔王は勇者の力を示す

 闘技場の控え室にはフィーレがいつも使っている聖剣ではなく、一般的な剣である。もちろん、魔法による強化は可能であり魔導具としての側面があるものだ。


「聖剣であれば、もう少し思い切った戦い方ができると思います。ですが、これはルールなので仕方ないですね」

『別に問題はない』


 俺は扱いやすい直剣を選んで構えてみる。


『ふむ、やはりこの身体では重いな』


 手に持っている直剣の刀身は分厚く、強度はあるだろうがその分重量がある。


「普段はもっと細いものを使っています」

『一応これでやってみるか』


 重たいが、決して扱えないわけでもない。

 細身の剣を主に使うからと言って、大きな剣での訓練もしっかりと行なっていることがわかる。こうして彼女の体を扱っていてそれは十分に理解できた。

 勇者として能力をある程度授かったとしても訓練や努力を惜しまない。その結果がこの身体に現れている。


「もう行くのですか」

『そうだが、何か問題か』

「いえ、随分と肝が据わっていると思っただけです」

『まぁここで色々考えていても意味がないからな。それなら思い切ってやってみる方がいいだろう』


 戦闘とは言ってもこれは模擬戦だ。よっぽどのことがなければ死ぬことはない。それなら何も案ずることはないのだ。


「とても心強いです」


 そう何かを感心しているようだが、そこはあまり深く見ない方がいいだろう。

 俺は直剣を腰に携え、控え室からフィールドへと向かうことにした。


 フィールドに出るとそこにはマリークがいた。目は血走っており、感情が昂っていることは明らかである。


「やっときたか」

「これでも急いだ方よ」


 先ほどから気になっているのだが、フィーレは同級生に対しては敬語ではないようだ。しかし、俺には敬語を使うようにしている。

 その違いは何なのだろうか。

 一度剣を交えたからそれが原因か、それともまた別のことなのか。まぁ今はそんなことは考えても仕方がないか。


「早速やろうぜ」


 マリークの声と同時に観衆が騒めき始める。

 これから勇者と一騎討ちをするのだ。当然、注目度は相当なものだろう。


「ええ、そうね」」


 フィーレがそういうと頭上にあるモニターにカウントダウンが表示される。

 それと同時にマリークの周りにモヤのようなものが湧き立ってくる。

 ふむ、これがフィーレに見えている魔力というわけか。

 はっきり言ってモヤが出ているだけでどういった流れをしているのか、それが一体どういったものなのかは判別することはできない。


『試合開始』


 そして、無機質な声と共に開始の合図が鳴る。


「喰らえ!」


 それと同時にモヤが消え、こちらに向かって何かを繰り出しているようだ。しかし、どのようなものなのか、全く見えない。感じられない。

 まさか、ここまでのハンデとはな。

 まぁいいだろう。これぐらいなら何とか対応できそうだ。

 マリークの魔力を感じるのではなく、相手の目線を見て動きを予測する。

 相手を攻撃する時にはその部分を一瞬だけ目を向ける。その刹那の動きをしっかりと見極めることで相手の動きをある程度分析することができるものだ。

 これは何百年も人間と戦ってきた経験から手に入れたもので、そして俺が得意としていることでもある。


「お前……魔力が見えてねぇはずだよな!」


 先ほどから不規則に攻撃してきているが、マリークの目線は嘘をつなかい。

 相手にとってはなぜ攻撃が当たらないのかわからないだろうな。

 それは態度にも現れている。その言動からも苛立っていることは確かだ。


「魔力が見えないからこそ、私は人一倍努力をしてきたつもりです」


 そうフィーレは自信満々に言う。

 もちろん、半分嘘であり正解でもある。話しているのはフィーレ本人、しかし体を動かしているのは俺だ。

 しかし、彼女は人一倍努力をしているのもまた事実だ。それはこの身体を扱って分かったことだからな。


「努力でどうにかなるものでもねぇんだよ!」


 そのフィーレの言葉が気に食わなかったのか、先ほどよりも苛立ちをあらわにし攻撃の手数も増えてきた。

 厄介なことになったが、マリークの視線は嘘をつかない。手数が増えたところで避けることは簡単だ。

 それでも一つ懸念するべきことがある。それはどうやって倒すかである。

 普通に倒してしまってはまた再挑戦してくることだろう。そして、彼の理性も完全に無くなってしまう。

 助けることもできるが、フィーレの体でどうにかなるのだろうか。まだ未知数であるそれを考える。


「その程度では私には勝てません」

「そうかよ。ならお前も何か攻撃でもしてみろよ!」


 まぁそうなるな。こちらはずっと避け続けているだけで何も攻めることはしていない。


「そうね。なら、一撃であなたを倒してみましょう。そしたらリーシャや他の人に迷惑はかけないと約束してくれるかしら?」


 なるほど、そう言う提案をするか。何もここで全てを解決する必要はない。

 一時的に解決しておいて、それから後のことを考えればいいだけだだからな。


「はっ! 一撃だと?」


 その言葉を聞いて俺は軽く頷いて見せる。

 マリークにも意思を見せることができ、そしてフィーレにも俺としての意思を示すことができただろう。


「じゃ、やってみろよ。ほら!」


 俺は直剣を低く構え、フィーレ自慢の強力な脚力で一瞬にして走り出す。

 瞬く間にマリークとの距離を詰めることで、マリークは少しだけ動揺する。それでも彼は防御に回るよう魔力を自分の周りに集め始め、周りにモヤがかかり始める。

 しかし、そんなことは予想していた。

 例え、魔力などが見えなくとも相手の動きは予想することができる。目隠しでボードゲームができるように相手の動きも予測でどうとでも戦える。


「ふざけっ!」


 マリークは俺の動きに反応しているが、魔力を動かせるまで意識が回っていない。

 素早く振り出した直剣の剣先は彼の脇腹をしっかりと捉えていた。もちろん、勇者の力で強化された一撃で、第一障壁など一瞬で破壊される。第二障壁もほぼ同時に出現するがそれでも俺の、フィーレの繰り出した攻撃を防ぐことができず爆音と共に砕け散る。


「っ!」


 マリークは声にならない声を出した。それは恐怖から出る声だ。

 何年ぶりだろうか。この声を聞いたのは久しぶりな気がした。

 だが、ここでは相手を殺すのが目的ではない。

 脇腹に着込んでいた鎧に切れ込みを入れる程度で俺は寸止めをする。

 少し重い剣といえど、フィーレの鍛えられた筋力と勇者の身体能力で可能なのだ。


「ひっ……」


 そんな声を出すと同時に彼は尻餅をつく。


「先ほどの威勢はどうしたのかしら。その程度では到底魔導部隊には入れないわ」


 これで、マリークは一時的にだが大人しくなることだろう。

 それから俺が何とかして彼の魔力を更正する方法を考えるだけだ。


「それで、約束はするの?」

「わ、わかった。わかったから」

「そう、それはよかったわ」


 そう言うと俺は剣を仕舞い、控え室に戻る。

 背後で地面に尻餅をついているマリークはしばらく放心状態だったが、さすがに本能が恐怖を訴えたのか、言動を荒げることはなかった。


 控え室に戻ると、そこには意外な人が集まっていた。

 ただ、フィーレ本人は警戒している様子であった。


「はっ、そんなに警戒するなよフィーレ」

「オービスくんこそどうしてその子を連れているの?」


 フィーレがそう言うとオービスは一人の少女の背中を押して前に出させる。

 その少女はリーシャであった。


「食堂でじっとしてたから連れてきてやったんだよ」

「そう」


 フィーレがそう言うとリーシャは少し申し訳なさそうに口を開く。


「ごめんなさい。私が勝てていたらこんなことにはならなかったのに」

「いいのよ。さすがにあの力はリーシャには不利だから」


 確かにあの力は近距離において効力を発揮するものだ。それにあのフィールドではリーシャの得意な長距離での戦闘はできない。

 終始不利だったのは当然であろう。


「まぁ控え室にこれ以上用はねぇからな。俺は帰るぜ」


 そう言ってオービスは控え室の扉をあけて外に出て行った。

 口は悪いがそこまで悪い人間ではなさそうだな。


「あ、あと……ありがとうね。なんか敵討ちみたいだけど」

「私は別に、それよりもエビリスくんに感謝した方がいいわ」

「え、どうして?」


 そう言うと、フィーレは俺にも聞かせるように話す。


「私が勝てたのもエビリスくんが()()()()()してくれたおかげだからね」

「そうなんだ。やっぱりかっこいいよね」

「……」


 フィーレは何かを言おうとしたが、すぐに口を閉ざした。そして心も無にしている。

 何か困ることでも言われたのだろうか。


「私、マリークくんに惨敗してすごく弱気になってたみたい。でも、エビリスくんがいるって思うとなぜか勇気が出てきてね」

「オービスくんが連れてきたのは?」


 まるで話題を変えるかのようにフィーレは口を開く。


「あ、勇気を出そうとしてたのを助けてくれたって言うのが正しいかな。それでここまで連れてきてもらったの」


 どうやらオービスがリーシャを完全に立ち直らせたと言ったところだろうか。

 彼も優しい一面があるんだな。


「そう、リーシャのことを大切な仲間だと思っているのでしょうね」

「それならいいのだけれど、それでもエビリスくんの方が心強いかな」


 そうリーシャが言うとまたフィーレは口を閉ざした。ふむ、やはりリーシャの言葉で何か意識することでもあるのだろうか。


「フィーレ?」

「……何でもない。今日はゆっくり休むといいわ」


 少し妙な間が空いたが、リーシャの言葉にフィーレはなんとか反応できたようだ。


「あ、うん。フィーレは?」

「私は装備とか片付けるわ」


 少し無理がある理由ではあるが、リーシャは納得したようで軽く頷いた。


「そう、わかった。じゃまた明日ね」

「ええ、また明日」


 リーシャが控え室の扉を開いて自分の寮に戻ったようだ。

 しばらく、マリークもここにくることはない。


「早く装備を片付けて私たちも戻りましょう」

『その方が良さそうだな』


 そう言って、俺はフィーレの装備を一つ一つ丁寧に外していくのであった。

こんにちは、結坂有です。


勇者の体を使って魔王は何とかマリークに勝つことができたようです。そして、これからの対応も考えていくそうです。

それに、リーシャ自身も少しずつ成長しているようです。


それでは次回もお楽しみに。


追記:明日から新しい作品を投稿する予定です。朝9時に本作品を投稿し、3時ごろに新しい作品を投稿する予定となっています。

新しい作品『この剣術世界にて』も楽しめると思いますので、読んでくれると嬉しいです。

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