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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第四章 人々は新たな力を得ようとする
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魔王は襲撃を阻止する

 それから俺は帰路に着くことにした。マーフィンは貴族学院の人と少し話をしてくると言って、図書館に向かった。帰り道を一緒に来るのはレナとコリンであった。


「宗教みたいな話、少し興味あるなぁ」

「怖いけどね」


 コリンとレナはどうやら少し興味があるらしい。だが、知ったところで彼女らには全く関係のない力だ。手に入れる価値もない。


「俺も魔法に関してはあまり知らないからな。そこまで興味は持てない」

「だってここに来て数ヶ月だもんね。そりゃそうだ」

「でも、魔法実技は良い方だと思うけど」


 すると、レナが俺の発言に反論する。彼女とは魔法実技でよくペアになることがあって、それで俺の力をよく知っているからだろう。


「俺も知識については知らないことが多いからな」

「そうなのかぁ」


 レナはまだ納得していない様子だったが、今は仕方ない。


「俺はこれから商店街で取り置きしているものを取りに行くのだが、一緒に来るのか」

「うん、私も一緒に行きたい」


 そう言うと意外にもコリンが先に答えた。


「えっと、じゃ私はこのまま帰るね」

「ああ」

「じゃあね」


 そう手を振ってそのまま歩いて行ったのであった。それにしてもいつもなら一緒に来るところなんだが、今日はどうかしたのだろうか。


「あのね、さっき無理言って譲ってもらったの」

「なるほど、それでか」


 コリンがレナにそう言ったのか。それにしてもコリンがこんなことをするのは意外だな。


「私、ずっと気になっていたんだけど、エビリスって鍛えてるよね」


 コリンはそう吐息まじりでそう言う。

 頬が少し紅潮し色気を増していることから、何かに興奮しているのだろうか。


「そうだな」


 別に否定することはしない。


「特に足のラインとか、すごく綺麗」


 そう言うとコリンの柔らかい手で優しく膝の部分を撫で上げる。


「どうかしたのか」


 いつものコリンとは違うのでそう聞いてみた。

 よく冗談を言うが、これは明らかに冗談の域を超えているような気がする。

 昔に色気薬というものが流行ったことがある。それに近いものでも口にしたのだろうか。


「なんでも。さ、行こ」


 すると、さっきまでの紅潮した頬は戻り、口調や目線なんかも通常に戻るのであった。


「大丈夫ならいいのだが」


 それから商店街で買い物を済ました。特にこれと言って変なことはなかったが、やはり妙な目線が体をなぞっているのを感じる時があった。俺の体が少しおかしいのだろうか。

 そんなことを考えてしまうのであった。


 学生寮の入り口でコリンと別れ、そのまま俺は自分の部屋に戻る。

 今日は変な出来事の連続だな。

 そう心の中で思いながら階段を上がっている時であった。


「ん? この気配は……」


 やけに懐かしいこの空気感、そして死の匂い。戦争が起きる匂いだ。


「今は懐かしんでいる場合ではないな。すぐに部屋に戻るとするか」


 俺は急ぎ足で階段を登り、自分の部屋に入る。そこには警戒態勢に入っているメライアとアイスがいた。


「この気配はやはりそうか」

「うん、何かやばい気がする」


 メライアはいつにも増して真剣な顔でそういう。


「確かにこの時代にしては変だ」

「ここ五百年はこんなことなかったのですが、今日は少し変ですね」


 アイスもメライアと同じように真剣な顔でそういう。確かにそんな平和な世の中なのにこの空気感が発生するというのは異常なのだ。


「ふむ、少し調べてみるか」


 俺は買って来た食材などを冷蔵庫に入れ込んで、そのまま部屋を出た。


 外に出るとまだ薄明るく閑散としており、不気味な雰囲気を漂わしている。そして空気感もさっきよりも増しているようでもあった。

 俺が学生寮から出ようとすると後ろから声をかけられた。


「エビリスくん!」

「エリーナか」


 エリーナが俺を呼び止めたのであった。


「どこ行くの?」


 少し心配する様子で俺の方を見る。その様子から彼女もまたこの空気に危機感を感じているのだろう。


「嫌な予感がしてな。少し様子を見ようと思って」

「エビリスくんもそう感じるよね」


 エリーナは顎に手を当てて少し考え込んだ。


「ここにいては何もわからないからな。少し外に出るよ」

「生徒一人に危険な真似はさせないわ。私も付いていくから」

「身の危険を感じたらその侵影しんえい魔法を使うといい」


 すると、エリーナは手で口を覆って驚いた。


「どうして、その魔法のこと……」

「そんなことよりもすぐに行くとしよう」

「うん」


 ふむ、つい口が滑ってしまったか。侵影魔法は超の付くほどの高等魔法だったな。今の時代では知らない人の方が多いようだが、俺にとっては簡単な魔法だ。


 急いで俺はその強烈な力を放っている場所に走っていく。この力、この時代には相応しくないほどに洗練されている。まさか上級魔族、なのか。

 魔族の森で最初に出会った下級魔族とは比べ物にならないほどに強力なその力はかつての上級魔族を連想させる。とっくに滅んでしまったものだと思っていたが、生き残りがいるのだろうか。

 そして、しばらく走っているとついにその正体がわかった。間違いなくあれは上級魔族だ。


「見たことのない魔族だわ」


 遠目だが、気付かれない距離を保って俺とエリーナはその上級魔族を観察する。彼女にとってあの魔族は初めて見るようだ。それも当然で俺もまさか生き残っているとは思っていなかったからな。


「魔族だけど、武装もしていないようだし私たちで制圧できるかな」

「被害が出ていないのなら、俺らも観察をしよう。相手を知ってから攻撃する」


 俺がそういうとエリーナは小さく頷いた。

 色々と考えていたのだが、彼女は戦闘慣れしている気がする。俺の勘が当たっていれば彼女は相当な実力者のはずだ。

 遠くにいる上級魔族は非常に強力な種族で、一体だけでも人間で言えば小隊規模と同等の力を持っている。それが目の前に二体、さらに奥の四体いるようだ。完全に攻撃を仕掛ける陣形だな。


「観察すると言ったが、先手を取った方が良さそうだな」

「え、ちょっと待って」


 エリーナは俺の袖を引っ張って引き止める。


「どうした」

「怖くないの?」


 さすがに生徒としては行き過ぎた行動だろう。しかし、このままではせっかく取り戻しつつあった平和が崩れてしまいかねない。

 かと言ってこのまま行動に出れば逆に怪しまれるか。俺は少し目を閉じて思案する。


「……すぐそこの魔族の森にいたと言っていただろ。俺は魔族に慣れている」

「それだけで勝てるの?」


 少し考えた結果この答えが出た。信憑性の高い情報を持って来たが、それだけではやはり不十分であったか。


「保護された時に無傷だったのがその証拠だ」

「隊長も化け物だけど、あなたもきっとその類なのね。わかったわ」


 強引だったが、どうやら納得してくれたようだ。まぁ俺がどのような存在だろうと彼女ならうまく隠し通してくれそうだ。

 彼女の返事を確認した俺はすぐに走り出した。距離は四〇〇メル、この勢いならすぐに着くだろう。

 付いて来れないと思っていたのだが、エリーナも魔力で足を強化して俺に付いて来ているようだ。


 しばらく走っていると、目の前の二体の上級魔族に気付かれる。

 このまま攻撃してくるようであれば、こちらも反撃する。だが、もし対話の余地があるのなら、平和的に解決したいところだ。


「テキシュウ……コロス」

「何?」


 魔族の発言した言葉で俺は気付いた。この上級魔族はすでに死んでいる。その体をあのニヒルが乗っ取っているのだ。

 まさか俺の部下を利用するとはな。

 俺はすぐに左腕でエリーナを止める。


「俺の影に入れ」

「え?」

「今すぐだ」


 そういうとすぐにエリーナは俺の影に入り込んだ。


「こうなるとはな」


 二体の魔族はこちらに無防備に突撃してくる。以前であれば魔法で強化した腕を利用して飛びかかってくるのだが、今の彼らにはそのような頭を使った攻撃をしない。

 と言ってもその強力な力は厄介だ。人間の体でどこまで戦えるか、少し実験してみるとするか。


「コロス!」


 魔族の一人が右腕を振り上げて俺を攻撃してくる。もはや思考という能力を失っており、目の前にいる標的を攻撃すると言った単純なことでしか物事を捉えられない状態だろう。


「ふっ!」


 魔力で強化した左腕で空を切り、その衝撃波で攻撃して来た魔族を真っ二つに切断する。


「この程度か。少し慣れが必要だな」

「ガアアア!」


 体を半分にされてもまだ生きているようだ。なかなかにしぶといな。

 両腕を振り回して地面を叩いている。その鈍い音とともに地面が揺れるのを感じる。それほどの力がまだ有り余っているということだ。うかつに近づくと簡単に潰されてしまうな。


「もう一体か」


 のたうち回っている魔族の右側からもう一体が突撃してくる。今度のやつは少し学習でもしたのか高次元の力で体を守っているようだ。

 力尽くで攻撃してもいいが強度が気になるな。ここは単純に内側から破壊する方が良さそうだ。


「爆ぜろ」


 俺の右腕から現れた魔法陣を左腕で破壊する。すると、走って来ている魔族の頭部が破裂し、そのまま倒れ込んだ。

 その様子を見ていると、先ほどまで暴れていた魔族も動きを止めていた。

 懐かしいな。二千年ぶりだろうか。魔王の座を奪った時を思い出す。

 なんの統制も取れていなかった魔族だったが、圧倒的強者という地位に立つことで簡単に統制を取ることができたの覚えている。

 あの頃の魔族は強きリーダーを求めていたのだ。


「っ!?」


 そんなことを思い出していると、急に心臓が異常なまでに強く激しく鼓動する。それと同時に強烈な耳鳴りと目眩(めまい)が襲いかかってくるのであった。

こんにちは、結坂有です。


乗っ取られた魔族の襲撃を阻止するために魔王は動き始めました。

しかし、魔王の体に異変が走ったようです。これからどうなるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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