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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第三章 魔王は未来の勇者と邂逅する
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悪意と約束

 俺は激痛に傷口を強く抑えている。その様子を見てフィーレは申し訳なさそうな顔をした。


「やっぱり痛かったですよね。私は人間には刃を向けないと誓ったのに……」

「フィーレは俺を魔族だと信じ込んでいた。自分の正義のためにやったのなら何も悔やむことはない」

「……怪我をさせた人に自分が慰められるとは思ってもいませんでした」


 フィーレは涙を浮かべているが、自然と笑みが溢れていた。

 すると、立ち直ったようにフィーレは口を開く。


「申し遅れましたね。私は勇者です。大妖精に力を授かりました」

「……勇者にしては目が茶色いが?」


 勇者は金色の目をしているはずだ。こんなに茶色ではない。

 それにしても癒してもらっている傷は一向に痛みを引かない。

 内部もだいぶ損傷しているのだろう。外傷は少ないが、内臓を疾風の刃で切り裂かれているようだ。


「これはカラコンですよ」


 そういってフィーレは目元から薄い透明なものを取り出した。

 取り出した方の目を見ると懐かしい、あの金色の目が写っていた。

 とても明るく、非現実な光を放っているようなその目は俺の想像を超えていた。

 フィーレは間違いなく勇者の力を授かっているのだろう。この目は妖精から授かったものに違いない。

 今まで勇者ではないと思っていたが、まさかあの薄いガラスのようなもので隠していたとはな。

 魔王時代にあれがあれば、俺は暗殺されていたかもしれないとそう思ってしまった。

 改めてフィーレの全身に目を通してみる。

 美しい女性が金色の目をしているとなんとも神秘的である。妖精に匹敵してもおかしくないほど幻想的だ。


「やはり綺麗なものだな」

「き、綺麗!」


 フィーレは意表を突かれたように驚き、赤面した。


「綺麗ではないのか?」

「は、初めて言われました」

「そうなのか。俺の感覚がおかしいのかもな」

「でも、そう言ってくれてとても嬉しいです。少しですが、自分のこの目に自信が付きました」

「それなら俺も言ってよかった」


 フィーレは俺の傷を癒し続けている。傷口がゆっくりと丁寧に治療されていく。

 魔力が見えず、魔法が不得手なのだろう。それでも着実に治していくのを見ると苦労していたのだろうと感じる。

 魔力が見えない人は魔法の扱いに苦労するものだ。目を閉じて針の穴に糸を通すぐらい難しい。俺も実際に経験したことがある。

 あれは実験だったがな、それでも辛かったのを覚えている。


「もういい、ありがとう。あとは自分で治せるよ」


 全体で六割程度回復しただろうか。ここまで回復すれば、あとは自分でもできる。


「最後まで私が……」

「いや、もう厳しいだろ。これ以上は深部の治療だ」


 フィーレは満足していないが、体内の深部に負った傷の治療は難しい。当然魔力が見えないフィーレにとっては無理だろう。


「わかりました。自分の非力さを呪いたいです」


 フィーレは軽く頬を膨らませ、自虐発言をする。もちろん冗談のつもりだろう。

 案外こうしてみると、彼女も普通の女の子なんだなと実感した。

 俺が自力で治療をしていると、決闘場に俺たちが入ってきた扉とは別方向の扉から男が入ってきた。


「困りますよ。勇者フィーレ」


 フィーレは先ほどまで少女の目をしていたが、男が入るなり騎士のような鋭い目へと変わった。


「教頭先生、なんのことでしょうか」


 あぁ、あの穢らわしい男か。色々と世話になっていたが最近は忘れていたな。


「ここで殺す約束ですよね」

「あの依頼のことですか。教頭先生が出したのでしょうか」

「ええ、この忌々しい魔族に鉄槌を下すのです」


 教頭は血走った目で俺を睨みつける。相当お怒りのようだ。


「いいえ、エビリスくんは人間です。確かに強い魔力を持っていますが人間です」

「それがどうした! 水晶を破壊する強力な魔力、魔族でしかありえない!」

「あのエスタ・アンドレイ隊長も同じく破壊しているのでは? 人間でも魔法水晶を破壊する人はいます」


 アンドレイ、聞いたことあるな。ヴィンセント・アンドレイ、最後に対峙した勇者だったか。

 確か初代勇者もアンドレイだったような気がする。

 エスタ・アンドレイもその一族なのだろうか、だが勇者として力は与えられていないようだ。


「エスタ? 君の父親殺しか、そんな奴は魔族も同然ではないですか」

「話になりませんね。一つ言っておきますが、エスタ隊長が当時の勇者である私の父を打倒していなければ、今の王国は崩壊していました」


 どうやらフィーレの父親も勇者だったようだ。しかし、エスタと呼ばれる人に打倒されたというらしい。


「皆、あの偉大な勇者に従うべきだったんですよ」

「私はそうは思いません。父の掲げた軍国主義はいずれ、力に支配されるだけではないでしょうか?」


 昔は富国強兵とよく言ったものだが、そう言った国々はすぐに崩壊へ辿った。

 軍国主義は悪くない思想だ。強力な軍事力があるなら問題ない。だが、勇者という異常で不安定な力に頼る軍国主義は意味がない。

 勇者は確かに強いが、安定した武力ではない。いずれ勇者がいなくなった時期に攻撃を受ければすぐにその国は崩壊するだろう。


「強いものが世界をリードする。それが世界の理なのですよ」

「まさか、このような人が教頭とは恐ろしいものですね」


 フィーレは呆れるように教頭に言う。


「いずれフィーレ様もわかるはずです。その時はいつでも革命党は歓迎しますよ」

「残念ですが、私は父のようにはなりません。話を戻しますが、何を言われてもエビリスくんを殺しませんから」


 フィーレの決意の言葉で教頭は何も話さなくなった。

 そのまま背を向けて、帰ろうとしているところをフィーレは呼び止める。


「この決闘場ですが、最初から妙な感じがしていました。細工でもしたのですか?」

「フィーレ様が殺しやすいように手を回しただけです」


 そういうと教頭はフィーレから危険な殺意を感じたのかそそくさと決闘場から出て行った。

 そんなところは以前と同じく小物なんだな。


「ごめんなさい。何かに巻き込んでしまって」

「別にいい、勝手に因縁をつけられているだけだ」

「……ついこの前、エビリスくんの暗殺依頼が来たのです。それがずっと気がかりでした」


 教頭のやつ、こんなことまでしていたのか。ただの悪党だな。

 最初は小物とばかり思っていたが、案外権力の使い方を知っているようだな。


「まぁ俺なら大丈夫だ。何もない」

「……わ、私が護衛をしてもいいのですよ?」

「自分の身は自分で守れる」

「じゃ、させてください。これは私のせいでもありますし」

「どうしてそこまで?」


 フィーレは少し顔を赤らめる。


「学院で友達と言える人が少なくて、エビリスくんがいいなら友達になりたい……です」


 魔王時代では考えたこともなかったが、勇者と友達になるのも悪くないな。

 今までフィーレも苦労していたんだ。その圧倒的な力ゆえに孤独だったのだろう。俺もかつてはそうであったように。


「俺でよければいいだろう」


 そう言うとフィーレの表情は明るくなり、目を見開いた。そのせいか美しい金色の目がまるでイエローダイヤモンドのように神秘的な光を放っている。


「それでは早速今度の冬の感謝祭に行きましょう」


 フィーレは手を合わせ、そして上目遣いでそう提案してきた。

 急だ。なぜそうなるのだろうか。


「それでは、の意味がわからない」

「冬の感謝祭ではある言い伝えがあるのですよ」

「言い伝え?」

「ええ、感謝祭で……それ以上は言いません」


 フィーレは悪戯顔で自分の口元に指を当てる。


「どうしてだ?」

「言ってしまっては願いが叶いませんから」


 フィーレはそういう。

 よくわからないが、せっかく友達になったのだ。祭りに一緒に連れて行っても問題ないだろう。


「今日はもう帰りますね。もう少し一緒に過ごしていたいのですけど、用事がありまして」

「別に構わん。勇者なのだろう、仕事があって当然だ」

「ごめんなさいね。この埋め合わせは感謝祭の時に」


 そういうと、足早に決闘場を出て行った。俺もそれに続いて外に出ることにした。


 家に帰り、図書室で借りてきた本で感謝祭について調べてみる。

 四日後の感謝祭、昨年の大地の恵みに感謝をする祭りだそうだ。

 フィーレの言った言い伝えについてはよくわからなかった。おそらく文献には載っていない噂のようなものだろう。

 何があるのかわからないが、特に不安はなく待ち遠しいとさえ思えてきた。

 自分でもそれを楽しみにしていると実感したのだ。

こんにちは、結坂有です。


いきなり現れた教頭(小物)は魔王を執拗に追いかけてきますね。

そして、勇者も魔王に心を許す関係になりました。二人の関係もどのように発展していくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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[良い点] おいおい、トリプルブッキングじゃん。 ニヤニヤ(゜∀゜)
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