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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第三章 魔王は未来の勇者と邂逅する
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魔王は日常を知りたい

 マリークが街で暴れてから数日経った。あれからもリーシャとは街に出かけている。誰かに見られている気がするが、特に問題を起こしてこないから大丈夫そうだ。

 魔王時代にもこのように監視が付いた時もあったのでこういうのには慣れている。リーシャも同じく慣れているようだ。


「今日はどこに行くんだ?」

「今日はねぇ」


 リーシャは少し悩んでいる。

 あれから色んな店に行った。この時代の娯楽などにも触れてきたが、他に何があるのかわからない。


「もう少ししたらイルミネーションの時期だね」

「イルミネーション?」

「この街では今年の豊作に感謝する祭りをするの。街中が電飾で彩られて綺麗なのよ」


 電飾などの単語は知らないが、祭りで使う光るものであればロウソクか何かだろう。


「それは気になるな」

「昔はロウソクの道なんかがあったみたいだけど、今は光のトンネルね」


 よくわからないが、流しておくのも悪い。少し踏み込んで聞いてみる。


「光のトンネル?」

「デ……デートスポット、みたいな?」


 そう言うとリーシャは少し頬を赤らめ、毛先を指に絡める。

 なるほど、恋人同士が集うような場所か。名前通り光に包まれるのであればさぞロマンチックなのだろうな。どのようなものなのか気になる。


「行ってみたいものだな」

「そ、そうだよね。そういうのも悪くないよね」


 リーシャは紅潮した頬を手で冷ますようにあおる。そう恥ずかしがっている姿も可愛らしいものだ。

 しばらく沈黙が続いたが、リーシャが口を開いた。


「……じゃ、今度行こっか」

「そうしよう。この街にも慣れたいからな」


 この時代の風習なんかも学習しなければいけない。そのためには祭りやお祝い事などのイベントも熟知しておく必要がある。

 そんなこんなで、その祭りとやらに行くことになった。ここ数日はこんな感じで集まる約束をしていた。

 カフェでしばらく街のことについて聞き出すことができた。ゆったりとしたとても幸せな時間だった。


 そして、解散した後は貴族学院の一部の生徒から目を付けられる。

 今日とて例外ではない。

 自称リーシャファンクラブと名乗った人たちが俺の前に現れる。


「よくもリーシャ様とイチャイチャと!」


 六人のうちの一人がそういう。俺から誘っているわけではないのだがな。

 この人たちには何を言っても信じてもらえそうにないか。


「何回も言っているが、ただの友達だ」

「問答無用!」


 一人が魔法で牽制を仕掛けて来る。

 それを俺が発動条件を操作して、無効化する。魔王時代の特技だ。

 勇者の魔法には効かないがな。


「なっ!」

「気が済んだなら帰らせてくれないか。俺も忙しいからな」


 六人の間を俺が進もうとする。一人が俺の肩を掴むとさらに反対側の人も腕を掴もうとする。

 魔法では無理と判断した彼らは物理的に攻撃を仕掛けてきたようだ。その判断は間違いではないが、もう少し作戦を練るべきだったな。

 俺は彼らの力の隙を見切り、スルリと腕を引き抜く。

 そのまま俺は逃げ出した。ここで騒ぎを起こすのは後で面倒だ。

 しかし、追いかけて来る奴もいる。そいつらには魔法で突風を作り足止めをする。

 ここ最近はこんなことが続いている。

 魔王時代と比べると可愛いものだ。ちょっとした運動になるので今は許している。


 家に帰ると商店街から仕入れた夕食の材料を冷蔵庫に入れる。この冷蔵庫というものは庫内が冷えるように設計されおり、食品を長持ちさせることができるようだ。

 これを知ったおかげで生活が随分楽になった。電力を使っているため魔力を消費することもない。人間が生活において平等を保てているのはこれら電気のおかげだろう。

 一人分と言う少ない食品を冷蔵庫に入れ終わり、ベッドに座ってしばらくくつろいでいるとインターホンが鳴った。

 このインターホンという音にはもう慣れている。

 ドアを開けるとそこにはレナとコリンが立っていた。


「こんばんはー」

「……こんばんは」


 コリンは元気よく、少し遅れてレナも挨拶をする。


「どうかしたのか?」

「あれ? マーフィンから聞いてないかな」


 特には何も聞いていない。


「エビリスくんは携帯持ってないよ」

「携帯式魔導共鳴装置のことか。確かに持っていないな」


 魔導共鳴装置というのは、俺の時代でも存在していた連絡装置だ。魔石の共鳴を応用して作られている。

 当時は大掛かりな装置ではあったが、現在では持ち歩くことができるほどにまで小型化に成功している。そのおかげもあって、人々の生活は以前にもまして随分と自由な生活ができているらしい。


「あ、そうだった」

「よくわからないが、用件はなんだ?」

「えっと、最近リーシャと仲良さそうだけど、何かあったのかなって」


 レナが少し控えめに話す。


「ああ、ただの友達だ。前の模擬戦で知り合った」

「そうなんだ」


 レナが何か考え込むように俯く。

 何か問題があるのだろうか。リーシャからは特に何も言われていないが、レナがこれほど考え込むのは少しおかしい。


「考え過ぎだって、レナが思ってるほどのことじゃないよ」

「でも、あんなに仲良さそうにしてたよ?」

「何か問題でもあるのか?」

「……」


 レナは沈黙する。それを見たコリンは口を開いた。


「エビリスくんがリーシャと付き合ってるんじゃないかって、レナが疑ってるの」

「そんなストレートに?」


 レナがコリンの発言を止めようと口に手を当てようとする。


「そういうことか。付き合っているわけではない」

「ほら、付き合ってないでしょ?」


 コリンの声を聞いて、少し考えてからレナが口を開く。


「……それじゃ、今度のお祭り一緒に行きません、か?」


 なぜ敬語なのだろうか。まぁそこまで聞くつもりはない。もともとお祭りには行く予定だったからな。別に大丈夫だろう。


「確か来週だったな。別に大丈夫だ」

「わ、わかった!」

「よかったじゃん! 私も行こうかな」

「コリンはマーフィンと行っててよ」


 え〜と言いたそうな顔をコリンがする。


「用件はそれだけか?」

「うん、そうだよ。夜にごめんね」

「くつろいでいただけだからな。大丈夫だ」

「じゃ、もう帰るね。おやすみ〜」

「おやすみ」


 コリンが大きく手を振るのに対して、レナは小さく控えめに手を振る。

 こういった仕草からも性格がわかるものだな。人間というのはなかなかに面白い。


 時計をふと見ると、八時を過ぎたあたりだった。


「そろそろ行くか」


 俺は上着を着込み、家を出る。

 行き場所はアイスのところだ。昨日は会いに行っていないから寂しがっていることだろう。

 貴族学院の近くにある森を通り抜けると近道できる。俺は魔力の気配を消しながら歩いていく。

 悪いことをしているわけではないが、行き場所を問われると何も答えられないからな。ここは忍び足で通り過ぎることにしている。


 寮を出て十数分で祠の前に着いた。

 中には誰かいるようだ。アイスの気配だけではない。俺は警戒しながら中に入ることにした。

 洞窟湖の近くに人が立っているようだ。

 フードを被っており、さらに暗さも相まってこの距離では誰が立っているのかわからない。これ以上近づくと俺の気配に気づかれてしまうためしばらくここで様子を見ることにする。

 アイスの気配が薄いのが気がかりだが、殺されているわけではなさそうだ。

 人間にとって妖精を殺すことは魔族を殺すよりも難しい。

 しばらくすると、洞窟湖の近くに立ってる人が話す。


「出てきてはどうですか?」


 俺に話しかけているわけではなさそうだ。しかし、この声は聞き覚えがあるな。


「……いつから気付いていたのですか?」


 するとアイスが洞窟湖から光と共に現れる。

 神聖な光と神秘に満ちた美しい肌の碧眼の少女は話しかけた人間に声をかける。


「ここに妖精が住んでいることは知っていました。そしてあなたが魔族と関わっていることも知っています」

「人間には危害を加えることはないです。約束します」

「あなたが約束しても意味はないですよ」


 そういうとフードを脱ぎ捨て、剣を引き抜いた。その剣は見たことがある。それも何回もだ。聖剣レイヴィンだ。

 その聖剣を持っているのは上位の聖騎士か勇者ぐらいだろう。

 流石の妖精でも聖剣に攻撃されては無傷では済まない。最悪命を落とすこともある。

 聖剣を作る際に妖精の力を使っているため、妖精自身にも攻撃を与えることができる。


「あなたが何をしているのか知りませんが、魔族は私たちの敵です。敵を私たちの世界に連れ込んだのはあなたですね」

「そうですね。随分昔のことですが」

「その事実があるだけで十分です。殺す理由になりますから」


 これ以上はまずいと思い、俺は飛び出した。

こんにちは、結坂有です。


魔王はこれから祭りに行く準備を始めるようです。そしてアイスの元に現れたのは誰なのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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