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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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魔王は本気を出す

 マンドレイア宮廷の庭園に似た場所を駆け抜けると、そこにはあのピンク髪の女性が複数の男性に襲われていた。

 背中は破かれ肌が露出している。

 目が釘ずけになるほどの美人だ。魔王である俺も一目惚れしてしまった。


 もちろん、恋というものは知っている。経験もある。

 しかし、こういった事は前の時代も含め初めてだ。

 俺は女性が襲われるのを見る趣味はない。

 とりあえず助けることにしよう。

 ピンク髪なのはあの時人工的に勇者を作ろうとしていた名残だろうか。もし今の時代にまで一族が続いているのだとしたら、それは誇るべきことだ。

 今もその力があるのかは不明だが、貴族学院にいる時点であの後は丁重な扱いを受けたと予想できる。

 我ながら良いことをしたと思っている。


「逃げて、この人たち軍用魔法を使ってるよ!」


 すると、一人の男がこちらに何かを仕掛けてきた。魔法陣はない。


「軍用魔法、か」


 ふむ、これは高次元の技か。つまり”ニヒル”ということだ。

 どういった存在なのかまだわからないが、対抗するための魔法はある。だが、まずこの攻撃を避けないとな。

 真空の刃を使った攻撃のようだ。

 目には見えないが、魔王の目にはしっかりと見えている。この目は自然の摂理までもが視覚的に認知することができる。

 これを使えば避ける事は簡単だ。

 そうしていると、また一人が同じ技で攻撃してきた。前後左右どちらからも攻撃される。これは障壁を作り、防ぐしかないか。

 俺は魔法障壁で次々に攻撃を防いでいく。これも魔王の目のおかげだ。


「衝撃波で生み出された真空を刃にしているのか。お前らも進化したんだな」


 確かに進化している。千七百年前とは驚くほど進化している。あの頃はこのように俺たちに直接攻撃をしてこなかったからな。

 人間と接しているうちに学習したという事だろう。

 すると、男が高次元の言葉で発した。


「”我々は学習した。この女も我々と親和性があるのも知っている”」


 ピンク髪の時点で気付いていた。この美しい女性はエンリッタの一族だろう。エンリッタはユリゼイア国王が娘に神獣の力を使い、魔力で勇者に匹敵する力を授けたとしている。

 神獣は妖精族だ。しかし、彼に力を授けた妖精は”ニヒル”に冒されていた。

 もちろん、その妖精から授かった力、それは勇者の力などではない。高次元の力なのだ。魔力とその力が合わさればより強力な魔法が編み出せる。


「やはりな。だが、ここは我が領地だ。立ち去れ!」


 女がどうだろうと、”ニヒル”の勝手にはさせない。ここは魔王である俺の通っている学院だ。

 この土地に不法で侵入し、同じ生徒を危険に晒したことを後悔するが良い。


「”抵抗するなら我々も容赦はしない!!”」


 魔族を滅ぼしたのも、全滅させられなかった俺の責任でもある。さらにこうして俺の知っている一族の美しい女性まで危険に晒しているのだ。

 自分のことながら恥ずかしいと思う。

 自分が情けない。だが、今度は失敗しない。千七百年前のような超大規模魔法は使えないが、一体一体確実に殲滅していくことにしよう。


「平和にできなかったのは俺の責任でもあるからな。仕方あるまい。ここで”殲滅してやる”」


 俺は”ニヒル”に対抗するために作り上げた魔法をここで展開する。もちろん、この時代には存在しない。完全にオリジナルの魔法だ。

 発生には時間がかかるが、問題あるまい。

 完全に消滅させるにはこれしかないからな。


「”殲滅などでき……”」


 言葉を最後まで言うことなく、消滅した。

 当然だ。俺を本気にさせた罪は重たい。

 すると、その美しい女性は倒れた。俺は動揺した。この魔法が影響なのかと思った。

 この魔法は人間に悪影響があるのかもしれない。だが、心臓は動いている。外傷もない。

 俺はとりあえず、服を魔法で直した。


「少ないとはいえ、高次元の力を持っている。少しは反応したのだろうか」


 さっきの魔法は高次元の魂を消滅させる魔法だ。

 俺たちがいる次元には何の影響もないが、彼女は少し違うのだ。

 しばらくすると、彼女は目を覚ました。美しい目で俺を見つめている。どうやら記憶は失っていないようだ。


「エビリスくん……」


 どうやら俺のことを知っているようだ。そして、聞いたことがある声だ。もしかするとリーシャなのか?


「俺のことを知っているのか?」

「知ってるよ。エビリス・アークフェリアくんでしょ」

「リーシャなのか?」

「うん。素顔を見せるのは初めてだね」


 リーシャは恥ずかしそうに目を背ける。顔は赤面し、今にも辛そうだ。


「大丈夫か? どこか具合が悪いか?」

「ううん、違うの。気にしないで」


 明らかに具合が悪そうだ。さっきの魔法のこともある。少しは様子を見た方が良さそうだな。


「あの魔法って何なの?」

「あまり気にしないでほしい」

「そ、そうだよね。あんなの見たことない魔法だからね。当然秘密だよね」


 リーシャの顔がより赤くなり、耳まで真っ赤に染まっていく。


「……本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ」


 リーシャは胸に手を当て、自分を落ち着かせようとしている。


「エビリスくんって、実は物凄く強い人だよね」


 模擬戦の件、今回の件のことでそう結論付くのも当たり前か。


「流石に気付くか。まぁそうだろうな」

「周りには隠してるの?」

「少なくとも一般学院の生徒にはな」


 貴族学院にはオービスといい、気付いている人は多いはずだ。

 今回の試験で一般学院よりも勘が良いやつは多いとわかったからな。


「言えない事情?」

「とても言える事情ではないな」


 俺が魔王だったってことは死んでも言えないな。今は人間として生きているのだから。


「そ、そっか。そうだよね」


 リーシャは何かを納得したように頷いた。


「でも一つ聞かせて、模擬戦の時、どうやってあの弾丸を避けたの?」

「あれは単純に分身を作り上げて、誘導対象を代えただけだ」

「あの一瞬で?」

「そうだ」

「びっくりだよ。私の狙撃をあんな距離で避けられるんだもん」


 それはそうだろうな。ほとんど命中していてもおかしくない。いや、実際には命中していたか。


「実は確実ではないが、命中していた。首元を掠ったんだ。それで第一障壁が九割近く削れた」


 ほぼ即死級の威力を受けていた。掠っただけでその威力だ。驚くほどの性能だろう。


「お世辞はいらないよ。エビリスくんは避けた、それが事実でしょ?」

「直撃を免れたってことではな」


 避けたおかげで直撃を免れたのは事実だ。


「やっぱりすごい。マリークくんだったら背伸びしても勝てそうにないね」

「そうでもないかもな」


 リーシャはその言葉を聞くと「冗談言って」と優しく笑った。

 あながち間違いではないのだがな。今の俺は人間だ。その事実は変えられない。人間特有の弱点もあるからだ。


「立てそうか?」

「うん。ありがとね」


 リーシャは俺が差し伸べた手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

 すると、リーシャは何か違和感を感じたのか背中の方を手探りする。


「あれ、服が」

「直しておいた。変か?」

「それは大丈夫だけど、ここまで修復できるんだね」

「当然だろ」

「ここまで完璧な修復魔法は修復師でも難しいと思うけどな」

「そいつはプロではないんだな」


 もちろんこの魔法は人間でも可能だ。観察する力がいるかもしれないが、原型がわかっているなら完璧に修復できる。それは人間でも同様だ。

 俺の時代でも鎧を修復するのに完璧に限りなく近い形で修復していたからな。


「エビリスくんが異常に強いだけだよ、それ」


 リーシャはなぜか嬉しそうに笑った。


「そう言えば、リーシャ・エンリッタと言う名前か?」

「え? うん。よくわかったね」


 姓は名乗っていなかったが、あのペンダントを持っているのであればきっとそうだろう。


「そのペンダントに見覚えがあってな」


 リーシャのペンダントは一部は当時と異なるものの、魔石部分は同じだ。


「あ、これね。確かに代々受け継がれているものだし、有名だからね」

「有名なのか?」

「うん、私の家系では”この魔石を信じるものに強き者がエンリッタ一族を助ける”って言い伝えられているの。でもそれを信じてるの私ぐらいだよ」


 強き者というのは俺の前身、つまり魔王のことだろう。当然、今の俺がその魔力に反応するのは当たり前のことだ。


「まぁ、それのおかげでここに来れた」


 リーシャはまた顔を赤くした。


「なんか、それ。運命的なものだね」

「運命か。確かにそうかもな」

「だって、実際”強き者”が現れたんだもん。言い伝えの人ではないかもしれないけどね」


 あのマンドレイア王国の宮廷で出会った時点でこうなっていたかもな。いつかそうなるだろうと思っていた。

 こうして人間となって眠りから覚めた時も、もしかしたらと想像したがまさか同じ学院にいるとは思ってもいなかった。

 続けてリーシャがつぶやく。


「私なんかエビリスくんのこと考えると色々想像しちゃうの」

「不思議だな。俺もそんな感じだ」


 どのような経緯でここまで来たのか、リーシャのことを見ているとつい、エリスバーグ・エンリッタのことを想像してしまう。彼女が成長したらこのように綺麗な女性になっていたのだろうとな。

 まぁ実際あれ以降眠りについたために会えなかった。不覚にも魔王として唯一約束を守れなかったのだからな。


「相思相愛……」


 耳に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でリーシャはそう呟いた。


「ん?」


 いきなり何のことだかわからないので聞き返すことにした。

 すると、リーシャは顔を上げ、大きく横に振る。


「何でもないよ。じゃまたいつか食堂でね」

「ああ、そうだな。共有スペースなら会えるかもな」


 話を止められたので追求することはしないでおこう。


「じゃあ、またね!」

「またな」


 リーシャは満足そうに、そして嬉しそうに駆け足で庭園を駆け抜けていった。

 あの頃の少女の無邪気さをも感じさせるその足取りで。

こんにちは、結坂有です。

魔王はリーシャのことを理解したようです。しかし、まだ気付いていないところもあるようですが……

これにて、第二章は終わりとなります。

第三章は勇者も登場します。


それでは次回もお楽しみに。

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[良い点] おおヒロインはコッチか(^^)勿論オッケー! むしろグッジョブ(^^)
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