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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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危機と魔王は思い出す

 自軍に戻るなり、俺はマーフィンに声をかけた。


「作戦はうまく行ったようだな」


 マーフィンは笑顔で答える。


「ああ、的確に相手の本隊を知らせてくれたお陰だよ」


 しかし、本隊を知らせただけではこれは成功しなかった。

 相手に長距離型の魔法師がいる時点でそう思っていた。だから、俺は真っ先に狙撃手を狙ったのだ。

 おそらくマーフィンたちは気付いていないようだ。


「それにしても、あんな作戦は思いつかない。マーフィンのお陰だ」

「そうだよ!」


 続いてコリンも手で喜びを表現してそう反応する。

 実際それが功を成したのだ。勝利に浸っていても問題ない。


「じゃ、俺たちも控え室に戻ろう。みんなでお祝いだね」


 マーフィンの声で俺とコリン、その他二人が移動する。


 そのあとは会場で学院長の挨拶が行われた。定型文だったが、一般学院の生徒に対して労いの言葉を贈っていた。


「こちらの不備で、苦労をかけてしまい申し訳ない」


 どうやらあの評価基準は教育委員会での不備だったようだ。

 それでも理不尽なノルマに真っ向から挑み、勝利を収めたことを誇りに思っているようでもあった。


「なんか、不思議よね」


 横でコリンがそう呟く。確かに不思議だ。

 学院長は少なくともあのような評価基準を出したわけではなさそうだ。いったい誰がこんな無茶な評価基準にしたのだろうか。

 そんな時、ある人物が脳裏を過った。

 だが、それに関してはあまり考えないでおこう。俺がどうこうできる話でもなさそうだしな。

 挨拶が終わり、解散を言い渡される。


 解散したあとは交流会だ。

 貴族と一般との規制が一時的に解放され、学生同士交流が自由になるのだ。

 もちろん、マーフィンは貴族学院の生徒の集まりに向かっていった。しかし、もともと交流が少ないコリンとレナは食堂で女子グループを作り談話していた。


 さて、俺はどうするべきか。

 あまり貴族学院のことは知らないからな、まぁその辺ぶらぶらするとしようか。


   ◆◆◆


 模擬戦で負けた。でも進級はできるそうだ。

 私は慢心していたのだ。狙撃手相手にあそこまで突撃してくるとは思ってもいなかった。

 しかし、それにしても眼前に迫った相手に命中させることができなかったのが、どうも引っかかっていた。

 それは試合が終わった後でもそうだ。

 私の弾丸が外れるとことがあるとすれば、分身で本体から弾を逸らしたぐらいしか思いつかない。

 あの状況で、あの一瞬でそこまで高度な魔法は展開できるのだろうか。


 前もって準備していればできるのだろうか、そのような疑問がさらに増えていく。そして増えていく分だけ、エビリスくんに対して興味が湧いてくる。

 いったいどのような手で私のあの狙撃を防いだのかを。


「いろんなこと、考えちゃうな……」


 そう、呟きながら私は庭園を歩いている。

 この庭園は古くからの伝統を受け継いで作られている。でも、ここで時間を過ごす人は学生にはいない。

 私はここにくると懐かしい感じがする。私の故郷はここではないもっと遠くの場所で、そこにはこういった庭園を持っている家庭もある。

 ここはその庭園とよく似ている。だから、懐かしい感じがするのだ。


 貴族学院からその庭園に伸びているテラスのベンチに腰をかける。

 私が何か物思いに耽っている時にいつもここにくる。今日は友人のことでも、授業のことでもない。エビリスくんのことだ。

 ここには私の重い魔導具は持ってきていない。そもそも、ここには魔導具を持ち込めないのだが。

 それにしても時間が経つのが早い。学院長の話が終わってからすでに二十分以上経っている。

 エビリスくんのことを考えると時間が早くなる。鼓動が早くなっているからだろうか。


 そんな中、庭園を歩く見慣れない集団がいた。

 数は四人、今日は学院祭でも入学式や卒業式でもない。一般の人が立ち入ることはできないはずだ。

 どうして部外者がここにいるのだろうか、そう私が見ているとその集団はこちらに気づいた。

 すると、一瞬で私の眼前にまで迫ってきた。瞬きの瞬間で移動してきたのだ。

 エビリスくんの速度も異常だったが、この人たちはもっと速い。


「っ!!」


 私は叫ぼうとした。明らかに敵意を感じたからだ。

 しかし、男は私の口に手を当て、声が出なかったのだ。

 狙撃などは得意だが、体術などの近距離戦闘は得意としていない。むしろ魔力の特性上、そうなっている。

 私は筋力が少なく、簡単に振りほどくことができない。

 なんとか身動きができるが、当然逃げ出すことは不可能だ。

 すると男の一人が私の背中の服を破いた。

 背中部分の肌が露わになる。


 男は焦点が合っていない目で私を見ている。何が目的なのか全くわからない。

 欲情しているようにも見えないからだ。

 だが、身の危険は明らか。助けを呼びたいがどうすることもできない。

 軽く歩いたりしていたが、この庭園には人はいなかった。監視カメラがあるわけでもない。

 助けは絶望的だ。

 すると、一般学院の男が現れた。あの人だ。エビリスくんが現れたのだ。

 どうしてここに来たのかわからないが、さすがのエビリスくんもこの集団には勝てないはずだ。

 あの高速移動は並のレベルではない。軍用魔法レベルの高度なものなのだから。

 私はなんとか口を塞いでいる手を振りほどき、エビリスくんに声をかける。


「逃げて、この人たち軍用魔法を使ってるよ!」


 そう声をかける。しかし、エビリスくんはマリークくんと対峙した時と同様余裕そうな顔をしている。

 そして、目の色が変わった。そう、私が三回目に撃った瞬間の目だ。


「軍用魔法、か」


 そうエビリスくんが言う。余裕そうにしているが軍用魔法は強力だ。一般学院の生徒は見たこともないだろう。

 一人の男が手を広げ、黒い靄のようなものが立ち込める。魔法陣はない。

 ものすごい衝撃波が私の身を揺らした。

 その衝撃波で生み出された刃のような空気はエビリスくんの周りの木々を綺麗に切断していく。

 しかし、エビリスくんには掠りもしなかった。

 真空の刃は目に見えない。それをいとも容易く避けていく。さらに攻撃が激しくなり、彼の動きもそれに合わせて高速になっていく。


 彼の目は赤黒く光り、さらに動きは加速していった。

 男たちは焦ったのか、二人掛かりで攻撃を仕掛けた。

 流石に避けきれないと思ったのかエビリスくんは動きを止める。それでもエビリスくんには効果がないようだ。

 その刃を全て魔法障壁で防いでいるのだ。四方八方からの攻撃に的確に展開された障壁で真空の刃の攻撃は防がれている。


「衝撃波で生み出された真空を刃にしているのか。お前らも進化したんだな」


 何を言っているのだろう。()()とはなんのことなのか。


「■■■■■■■■■■■■■■」


 男は意味のわからない言葉を発していた。当然私には聞き取ることができない。


「やはりな。だが、ここは我が領地だ。立ち去れ!」


 エビリスくんはまるで一国の王のような振る舞いをした。


「■■■■■■■■■■■■■■!!」


 さらに激しい言葉で男たちはエビリスくんに声をかける。男たちはエビリスくんの言葉を聞こうとしていないようだ。


「平和にできなかったのは俺の責任でもあるからな。仕方あるまい。ここで■■■」


 最後の言葉は聞き取れなかった。まるで異界の言葉を発したような感じだ。

 エビリスくんが魔法陣を展開した。見たこともない輪郭が空中に描き出される。

 普通は多角形や円形といった輪郭だが、彼のは波打っている。とても魔法陣とは言えないようなものだ。

 さらに緻密に呪文のような文字が複数付与されていく。

 ここまで複雑な魔法陣は私も見たことない。さらに青白く光っているのがまるで神秘的にも見える。

 不安定な輪郭に、見たこともない呪文の文字、さらに青白い光は私も見たことがなかった。


「■■■■……」


 すると、男たちは何かを言おうとしたのだろうが、黒い煙となって消えていった。

 その時、私は何か強い衝動に駆られて気を失ってしまった。


   ◆◆◆


 俺は学院内を歩いていた。普段入ることができない貴族学院は俺の時代では人間の宮廷に近いものがあった。

 そのどこか時代を感じる部分もあるが、しっかりと今の時代のものが揃っているようでもあった。

 そういった雰囲気を楽しんでいると、懐かしい魔法の気配を感じた。


「この気配は……」


 一瞬、戸惑ったが間違いない。

 俺は、かつて人間のとある宮廷を攻撃した時のことを思い出したのであった。

こんにちは、結坂有です。

怪しい男は一体何者なのでしょうか。そして、魔王は何を思い出したのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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