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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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魔王は驚き感心する

 昼食のために一旦、生徒は食堂に向かう。

 食堂は貴族学院と一般学院の共同スペースとなっている。

 マーフィン、コリン、レナといつものメンバーが自然と集まる。

 昼食の食材を持って個室に向かった。


「……ごめんなさい」


 レナが重々しく口を開いた。

 表情からして相当ショックだったのだろう。コリンがレナの背中を優しく撫でて言葉を掛ける。


「大丈夫、ここのマーフィンが何とかしてくれるから」

「おいおい、それは約束できないぞ」


 間髪入れずにマーフィンは否定した。この冗談もレナには効果がなかったようだ。

 続いてマーフィンが声をかける。


「三問目の問題、レナが間違いを指摘したんだろ? 一回でも勝てたのが不思議なくらいだよ。な?」


 マーフィンが俺に話を振った。俺としては避けたがったが、レナのこともある。仕方ない。


「あれほどの速度だ。ストレート負けしても不思議はない」

「そうだよね。なんか異常だったよね」


 確かに異常だ。何か裏がありそうなのは確かだが、ここでは追及しないでおこう。


「それよりもこれからどうするの?」


 コリンが不安そうな顔をする。

 もちろんこの状態では模擬戦は勝てる気がしない。

 メンバーの入れ替えはできないということは先ほどの会場で連絡があった。強いメンバーを揃えることはできそうにない。

 そうなればチームでうまく立ち回るしか方法はないだろう。

 マーフィンが肘をついて提案してくる。どうやら作戦があるようだ。


「エビリスを先頭にして戦うことにする。俺たちには援護系が得意な人もいるからな」


 俺を先頭にして戦うというのは当然のことだろう。実際防御魔法が得意だと皆が知っているのだから。

 盾を前にして、後ろから援護系の魔法、高火力な魔法で支援すると言った内容だろう。

 あとは前線を維持できるほどの戦闘能力に長けている人物がいるとより成功が高まるだろう。

 しかし、相手は圧倒的火力の魔導具を持っていると聞いている。とてもチームメンバーで太刀打ちできる者は少ないだろう。


「エビリス、手を貸してくれないか?」

「つまり時間稼ぎをしろということだな」


 俺が時間を稼ぎ、後方で高火力の魔法を生成してなるべく短期決戦を仕掛けるということらしい。

 実力で勝てない状態で長い時間戦うことになると敗北は濃厚だ。いや、今の時点で既に怪しい。


「そういうことだ。協力してほしい」

「他に策はなさそうだしな。それで行こう」


 作戦においては問題はない。他に勝てそうな作戦は軽く考えると四通りほどあるが、どれも突飛な作戦で皆が把握するのは難しいだろう。


「エビリスくんって防御系だよね。相手、リーシャって子がいるよ」


 コリンが小さく手を挙げた。


「リーシャがいるのか?」


 マーフィンは意外そうに驚く。リーシャという人物が参加するとは考えていなかったようだ。


「うん。さっき食堂入った時に聞こえたんだ」

「そのリーシャとやらがいては問題なのか?」

「リーシャは侮れないんだ。長距離狙撃を得意とする魔法師で百発百中の誘導魔法を使える」

「狙撃であれば耐えられるだろう。教えてもらった防御魔法は実弾を防ぐことぐらいはできるだろう」

「それとリーシャの魔導具が特別なんだ。魔力の効果なのか威力が特別規格外なんだ」

「規格外か、俺が先頭に立てば真っ先に狙われるな」


 当然だ。もちろん後方支援を狙う可能性だってある。

 相手がどのような実力かはよくわからないが、マーフィンがそこまで言うぐらいだ。相当な実力者なのだろう。

 貴族の中には既に実戦経験があるものもいると聞いている。


「だいたいはわかった。なるべくリーシャには近づかないでおこう」

「ああ、その方がありがたい。目はいい方か?」

「そのつもりだ」

「頼んだ」


 マーフィンは俺の肩をたたく。期待しているぞと言ったように。

 チャイムがなり、模擬戦の開始まで残りわずかとなった。


「そろそろ準備に取り掛かろうか」


 マーフィンの一言で皆は個室を出て、俺とマーフィン、コリンは控え室へと向かった。


   ◆◆◆


 私はある不安を抱えたまま模擬戦に来てしまった。欠席もしたいぐらいだ。

 この不安感は今までに感じたことがない。


「リーシャ、よろしくな」

「マリークくん……こちらこそ、よろしくね」


 控え室に一足早く着いたつもりだが先に準備をしていた人がいたようだ。

 マリークは自慢の魔導具を見せびらかすようにして私の前に立つ。


「どうだ、今日のために新調したんだ」

「武器は信頼できるものの方がいいよ。変にカッコつけて足を取られないようにね」

「相手は一般学院だ。魔法なんてろくに使えない奴だろうよ」


 とてもつい最近、その一般学院にバカにされてた人が言うセリフではない。


「私はこの対魔導兵器があるからいいけど」


 そう、私には魔法を貫通する能力のある大型銃の魔導具がある。

 魔力を込めた弾丸を生成し、発射する特別な機構が組み込まれている。

 大抵の魔法障壁であれば破壊可能だ。そして、おまけに誘導魔法まで付与することができる。伝説級の魔導具に匹敵する能力を持っているのだ。

 しかし、模擬戦ということもあり威力は半分以上に抑えてある。


「いいよな、リーシャはそんな魔導具があって」

「代々受け継がれてきたものだもん」


 何代も続いたエンリッタの家系はこの武器とともに発展してきたと言っていい。

 千年前、この世界に再び災厄が訪れたとされている。その時にこの武器が扱える人材としてエンリッタ一族は適任と選ばれた。

 魔力の親和性が高いと言う理由だ。まさに勇者が聖剣に選ばれるように。


「そういえばオービスさんは見かけなかったか?」

「オービスくんならさっき食堂に行ってたよ」

「あれ、もうすぐ来るはずなんだがな」


 すると、控え室の扉が勢いよく開いた。

 私は身が飛び跳ねるように驚いてしまった。


「早いじゃねぇか、リーシャ」

「オービスくん、驚かさないでよ」


 急いで来たのか、少し息が荒かった。


「作戦通り行くぞ。予想外なことがいくつか起きたが、問題ない。模擬戦は俺らの手中にある」


 なるほど、こう自信満々に言うということどうやら裏工作が成功したみたいだ。

 一般学院の人には申し訳ないけど、これもまた戦争のようなものだから仕方ない。


「作戦通りなのね。それで私はどうすればいいのかな」


 オービスくんは作戦通りと言っているものの、詳しい内容はまだ聞かされていない。どのようなことを企んでいるのかわからない。


「ああ、リーシャは前衛で相手の盾を潰す。そしたら相手は混乱しまともに戦えないだろう」

「私の銃で相手の前衛を壊すのね」


 私の銃なら前衛の防御魔法を破壊するには十分だ。おそらく相手は高火力の魔法を使うようだ。そのための時間稼ぎに盾がいるとオービスくんは加えて説明した。


「それだと、他の人は? それなら私とオービスくんでどうにかなるよね」

「ああ、念には念をだ。もしお前が突破できない場合は次の作戦に移行する。そのための予備人員だ。マリーク、お前も例外じゃないぞ」


 つまり、私で通用しないのであれば次の作戦があると言うことらしい。


「そのことは教えてくれないの?」

「お前がもし相手に捕まったらどうする? 作戦が筒抜けになるんだぞ。それで負けたらそれこそお前の責任だ」

「そんなすぐには捕まらないよ」

「お前の狙撃は確かに貴族の中でトップレベルだ。しかし、所詮スナイパーの類、近距離に持ち込まれてはお前の強みはなくなる」


 確かにその通りだ。部下は無駄な詮索はしない方がいいと言うのがその例だろう。

 だが、これは模擬戦だ。本物の戦争ではない。そこまで神経質にならなくても大丈夫そうだけど、オービスくんはそう言う人だったか。


「じゃあ、命令どおり働きます」

「ああ、そうしてくれ」


 私は軍隊式の敬礼をする。もちろん、遊び半分でやったことだ。

 どんな時でも冷静に、それが私が今できることだ。

 まぁ、全然冷静になれていないのだけれど……


   ◆◆◆


 試合が始まる寸前、俺たちは陣形を整えて待機していた。

 控え室で最終的な打ち合わせを終え、戦場になるであろう会場に俺たちは向かったのだ。

 そして、今開始の合図を待っている状態だ。


「エビリス! あまり前に出過ぎるなよ!」

「ああ、わかってる!」


 前線が出過ぎると支援が難しくなるからだ。


「あと! 倒せそうな敵はしっかりと倒すように!」


 コリンがそう付け足して言う。

 もちろん、マーフィンは止めようとしたが、合図が鳴った。

 それと同時に会場に木々が生い茂り、森が出来上がっていた。本物に近い木々はまるで瞬間移動をしたかのようだ。

 一辺が三〇〇メル(=約三〇〇メートル)の会場が森へと変貌したのだ。


「こら、コリン。そんなことは言わない約束だろ」

「でもエビリスくんならできそうじゃん」

「確かに戦闘能力は高そうだ。でも貴族に囲まれては流石に何もできないだろう」

「それもそっか」


 後方でそのようなやりとりが聞こえた。

 もちろん、俺の耳は常人よりよく聞こえるものだ。


「エビリスくん! じゃあ、無理しない程度で!」


 うん、あまり変わっていないな。それでこそコリンだ。

 俺は前方に集中する。もう戦闘は始まっているのだ。

 相手を戦闘不能にするのがこの模擬戦のルール、つまりは殲滅戦だ。


「もう少し前に出てみる! 何かあればすぐに戻る!」


 俺は()()()()()()()()に前に出ることにした。


「ちょ、エビリス! それは無しだって」


 俺は聞こえないフリをした。

 当然、後で怒られるだろうが、俺の本性を隠し通すならもう少し離れた方が都合がいいのだ。

 これもこの試合を勝つと言う目的の中でやらなければいけない。さらに相手を全滅させてはいけない。全ての敵を俺が倒したとなれば大問題だ。

 次に、なるべく配下に手柄を譲る。前衛である俺は攻撃に回ることもできるが、それは結果的に俺の本当の能力につながる。

 いい具合に暴れたらあとは後方の生徒に任せる方がいいだろう。


 しばらく前線を進めていると、一人の気配が感じられた。どこにいるかまるで見当がつかないが、おそらく俺の動向を監視しているのだろう。

 相手はかなり警戒している。その警戒心は良い心得だ。しかし、そのせいで本隊の位置が丸わかりだ。

 仮に俺を監視している人が偵察兵だった場合、距離はそう遠くないと言うことだ。

 つまりこの近くに本隊がいると言うことを示している。

 味方との距離は五〇メルもないだろう。


 その刹那、木々の枝が弾けるような音がした。それと同時に俺は前方に防衛用の魔法障壁を展開した。

 長距離狙撃、つまりこれがそうだろう。かなりの威力だったが防げるではないか。学校で習った防衛魔法で防げたのは幸いだ。

 もしこれが魔導貫通とやらの攻撃なら危なかっただろう。

 発射位置は音から逆算するに、ここから一五〇メルといったところだろうか。

 随分と遠いな。俺の時代の銃であればこの距離は正確に届かないからな。


 さらに俺は警戒する。ここで監視役を倒すか、他の方法で防衛するか。

 敵陣で長居をすると、選択肢がなくなるが俺は後者を選ぶことにした。つまり防衛だ。

 次弾が発射されたようだ。銃声は聞こえないが、枝が弾ける音が聞こえた。

 それと同時に俺は再度魔法障壁を展開した。今度は魔法障壁にヒビが入った。少しずつ威力が上がっているようだ。

 だが、二発無駄にした。それはリーシャにとって大きなミスだ。最初から全力で撃つべきものだった。


 音を頼りに正確な場所を割り出すことに成功した。

 俺は本隊を無視して狙撃手がいるであろう場所に全力でダッシュした。

 みるみるうちにその場所に近づいていく。

 すると、相手は動揺したのか立ち上がった。森に同化していたが、それではすぐにわかってしまう。

 二発を撃つ間隔は約二十五秒、つまり次の装填まで二十五秒ほどかかると言うことだ。


「なっ!!」


 二発目を撃ってから十秒もかかっていない状態でこちらを狙ってきた。

 撃てるのか。それにしても速すぎないか?

 俺は撃てないと確信していた。撃つと銃身から弾と火薬がなくなる。二つがなくなればただの金属の筒だ。

 そう思っていた。


   ◆◆◆


 私は狙撃位置についた。しかし、相手が見えない。

 それでも私は安心していた。偵察が出ているので相手が見えなくとも正確な位置が割り出せる。


 すると偵察から魔力伝達で情報が届いた。

 そこを目標に狙撃する。第一射は通常弾だ。もちろん防がれたようだ。魔法障壁を展開していたなら当然だろうか。

 次に魔法障壁を破壊できるギリギリの威力で発射、これもダメだ。


「ここはもう少し引いて撃つしかないかな」


 そう思っていると前方からものすごい勢いで一人の男性が走ってきた。

 私は急いで立射に態勢を整え、スコープを覗く。

 こんなにも早く攻撃を仕掛けてくるなんて、一体どんな人が私に突撃しているのだろうか。


「……!!」


 声にならない小さな声を出してしまった。

 以前、マリークくんから助けてもらったエビリスくんだった。ものすごい勢いでこちらに向かってくる。その顔はあの時の顔ではなかった。

 何かに本気になっている時の顔だ。その真剣な顔をスコープで見つめる。

 一秒にも満たない時間が長く感じられるような体感だった。

 だが、今は模擬戦、撃たなければ私がやられる。そうなる前に……


 と、思ったが既に遅かった。

 彼は既に私の眼前にまで迫っていたのだ。

 思わず私は引き金を引いた。


   ◆◆◆


 ドゴオオン!!


 凄まじい銃声が鳴り響いた。おそらく競技で使用される最大火力だろう。

 俺が数歩手前に展開していた魔法障壁は木っ端微塵に砕け散り、銃弾は俺をめがけて飛んできている。

 賭けは負けたが、これはやるしかないな。魔力で脳の回転速度を高速にする。そうすることで、認識として時間が遅く感じるようになる。

 そうなれば弾丸は避けることはできる。しかし、この弾丸には魔力が込められており、誘導性を持っているようだ。

 まずはこれを惑わす必要がある。


 俺は一瞬にして分身を作り上げ、弾丸の誘導を惑わすことにした。

 そして弾丸は俺の首元を掠め、後ろの木々に着弾する。ものすごい威力だ。

 あれをまともに喰らえば防御魔石が発動して俺は戦闘不能に陥るだろう。


「なんで!」


 目の前のリーシャとやらは、ありえないと驚いていた。

 フードで被っていたため顔や体の全貌は見えないが、女性であることはすぐに気づいた。


「素早い装填だったな。高速系統の魔法でも使っているのか?」


 リーシャは一瞬何を言っているのか理解できないようであった。


「まぁいい。チェックメイトだな」

「……うん」


 そう言うとリーシャは自ら防御魔石に手を触れ、第二障壁がリーシャの体を覆った。

 これで時間稼ぎは十分だろう。あとは、伝達だ。

 俺は空中に大きな煙を発生させ、本隊の位置を報告させた。


 しばらくすると、大量の矢がその周辺に降り注いだ。

 単純だが、矢は森の木を代用した。もちろん、物体は魔力で簡単に加工できる。その上、重量を大きくする魔法で重い矢の完成だ。それを高高度に打ち上げて、落下させる。

 それだけで多少の障壁なら貫通できる。矢の雨は避けるのに必死だ。かろうじて生き残っていたとしても第二波としてさらに雨が降り削いだ。

 きわめつけは打ち上げた矢を標的として誘導性を持たせた電撃系統の魔法で一帯に雷を発生させる。

 これでほとんどは壊滅するはずだ。

 しばらくすると、アナウンスが鳴った。


『一般学院の勝利!』


 これで安心した。

 しかし、一瞬であったとしても本気を出してしまったのは不覚だ。

 少なくともこのリーシャには気付かれているかもしれないな。

 そんな不安感を抱きながら、俺は自軍側に戻ることにした。

こんにちは、結坂有です。

魔王はまだ気付いていないようですが、リーシャと対峙しましたね。それとリーシャの能力も判明しました。

次回は進級試験の終わりを描いていきます。


それではまたお会いしましょう。

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