魔王は教師になりたい
放課後の訓練場を後にした俺とレイはそのまま商店街を通って寮へと戻っていった。
寮へはどこか懐かしい感じがしたが、別に普段通りといった感じだ。
「エビリス様、今日はお味噌汁にいたしますね」
「お味噌汁か。ちょうど食べたいと思っていたところだ」
確かに味噌はかなり美味しかった記憶がある。いとど食べてしまったら虜になる。
それに使い方次第では様々な料理に利用することができるだろう。それほどの自由度の高い調味料なのであれば、今後も研究のし甲斐があるということだ。
「ふふっ、そういうと思っていました」
そう言ってレイが優しく微笑んだ。
そして、寮の前へと着いた。
「エビリスくん」
そこにはフィーレとリーシャ、そしてシエラの姿があった。
シエラとはあれからあっていなかったからな。
一度話して置きたかったことがあったのだ。
「どうしたんだ?」
「今日はフィーレの部屋に来てくれるかしら。理由はまた来てから言うわ」
「一応話しておきたいことがあるからね」
彼女らはそれだけ伝えて貴族学院の寮へと戻っていった。
俺も彼女たちに話しておきたいことが一つあるからな。ちょうどいい機会を作ってくれたと言うことだろう。
「私も一緒に行って大丈夫ですか?」
「別に構わない」
それから俺とレイは自分たちの部屋へと戻ってそこでおいしい夕食を食べることにした。
夕食は先ほどの味噌汁と旬の野菜料理を楽しんだ。
やはりレイと作る料理は非常に興味深い。いや、彼女の料理がではないな。これらの調理器具が興味深いのであった。
自分たちの料理を作り終えると、メライアとアイスが俺の影から飛び出してきた。
レイは二人の妖精のことは以前から知っていたから大丈夫だ。
「エビリス様、色々私は考えたのですが、これから私たちはどうすればいいのでしょうか」
「そうね。ずっと大魔王様の影もいいのだけど、ちょっと役に立ちたいなって」
「ふむ、どう言ったところで役に立ちたいんだ? 今でも十分に役に立っている」
俺がそう言うと二人は頭の上に疑問符を浮かべて俺の方を向いた。
彼女らには今までいろんなところで役に立ってくれた。
フィーレの影に入って彼女のことを守ってもらったり、アイスに関しては俺の支配の暴走をうまく抑え込んでくれていたりと様々な面で支えてくれたからな。
「俺の影の中でずっと支えてくれているようだからな。できることが限られているとは言え、色々と支えになってくれているのはありがたい。できればこれからも俺のことを支援してくれると嬉しい」
そう言うと彼女たちは嬉しそうな表情をしてくれた。
「大魔王様を支えるには当然でしょ?」「私の力がお役に立てるのなら光栄です」
それだけ言って彼女たちは俺の影の中へと入っていった。
それから夕食を食べて俺とレイは貴族学院の寮へと向かった。
エントランスの前にフィーレが待っていてくれたおかげで何事もなく、すんなりと彼女の部屋へと入ることができた。
そして、部屋に入るとそこにはリーシャ、シエラが椅子に座っていた。
「来てくれたのね」
「呼ばれたのだからな」
俺は空いた席に腰をかけると、すぐにお茶が運ばれてきた。
「それにしても話とはなんだ?」
俺は本題を切り出すことにした。
話したいことがあると俺を呼んだのだからな。こうしてお茶を飲むだけではないだろう。
「あ、聞きたいことがあったんだけど……エビリスくんってこれからどうするのかなって」
「どうする、将来のことか?」
「うん、私たち三人はこのまま卒業したら軍に入ろうと思うの」
まぁ彼女ほどの実力者に、シエラの知識量は非常に役に立つことだろう。そしてフィーレに至ってはその強力な勇者の力で様々な魔族や敵に順応することができる。
軍に入隊すると言う流れは普通なことだ。
「うむ、我ながら色々と考えていたのだが……やはり人に魔法を教える立場になろうと思ってな」
ちょうど話そうと思っていたことだ。
この際だし思い切って自分の思っていることを伝えよう。
「えっと、つまり教師ってこと?」
「まぁそうなるな」
今日の放課後で俺はふと考えたのだ。
人間の人たちが魔法が苦手な理由がわかったような気がしたのだ。
流石に魔族とは比べ物にならないぐらい魔力は少ないのだが、それでも彼女らが思っている以上には魔力を持っている。
魔法において魔族は才能など必要ないぐらいだ。息をするのと同じなのだからな。
だが、人間は普段から魔力を利用していない。だからこそ、自分に力がないと錯覚している。
と言うことは少しでも魔法のコツのようなものを掴めば、誰であれ魔法を扱えるのではないだろうか。
そんなことを帰宅途中で考えていたのだ。
「意外だわ。あなたほどの力がある人が軍にいたらいいのにと思うのだけど……」
「もちろん軍には協力しよう。またあのような輩が出ては困るからな」
「……それにしても教師か」
すると、リーシャは肘をついてため息混じりにそう呟いた。
「これから大変そうだね」
続けてそう言った彼女はどこか不安そうな顔をしていた。
何をそんなに不安なのかわからないが、あまり良い意味で捉えていないようだ。
「ふと思ったんだが、人間は血筋など関係なく誰でも魔法を扱えるのではないかと思ってな」
「どう言うこと?」
「いや、貴族は普段から魔法を訓練しているだろ? 一般の人たちは魔法を扱うことを普段からしていない」
「えっと、魔法を使っている歴が違うってこと?」
「そう言うことだ。貴族であれば血筋だからと自分に魔力があると信じれる。しかし一般の人たちはそうはいかない。貴族の血筋には負けると思っているからだ」
いろんな人たちと出会ってきたのだが、潜在魔力量はどの人たちも同じようなものだ。
ただそれを発揮できていないだけで、やろうと思えば誰でも軍用魔法程度なら扱えるはずだ。
まぁ才能というものはあるのかもしれないがな。
「……つまりは貴族と一般の垣根をなくしたいってことだよね?」
「もともと同じ人間なのだ。才能の有無はあれど皆、最初は同じようなものだ」
「確かに平等な世界を作るのならそのほうがいいのかもしれないわね。それにエビリスくんほどの実力者なら生徒たちは光栄でしょうね」
フィーレが言うとおり俺は魔法に関して最強だと自負しているからな。それに支配の力は魔法に対して絶大な能力を持っている。
そして、魔法の知識もそれなりに持っていると思っているからな。
教師として生きていくのは可能だと思う。
「これからは平和の時代って感じだし、エビリスくんが本気を出す時があるとは思えないしね」
ニヒルロードのような脅威がまた発生すれば状況は変わるだろうが、そうすぐにはそう言ったことは起きないはずだ。
それにもし来たとしても俺がまた支配の力でどうにかするまでだ。
「教師、ね。エビリスらしいわ」
シエラも静かに俺の話を聞いていたようで、そう小さく頷いた。
別に深い意味はない。
俺が人間になるためにももう少し時間がかかるかもしれないが、教師となっていろんな人たちと関係を築いていくことで少しでも人間のことを理解できるかもしれないからな。
ふむ、これからは忙しくなりそうだ。
◆◆◆
とある少女の話。
私はまだ子供だ。
私の両親は幼い頃に下等魔族に殺された。
当然、孤児院にいるわけなのだが、魔力適性が有るとして将来は魔法学院に入学させられることが決まっている。
孤児院でも魔法の本を読んだのだけど、さっぱり意味がわからなかった。
それでも自分に魔力適性があると言うことは魔法が扱えると言うことなのだろう。
今の私にできることは自分の魔力を信じることだけ、これからのことは後々考えればいいだけだ。
それにしても、魔法学院はどんな場所なのだろうか。私の教師は一体どうなるのだろうか。
気になることばかりだ。
まだ五年も先の話なのに……
こんにちは、結坂有です!
今回にて最終回となりました!
いかがだったでしょうか。これからも魔王の物語は続いていきますが、これにて一旦は終わりとなります。
最後の少女は一体どんな人なのでしょうね。
まだ未定なのですが、新たな物語が始まりそうです。
みんなの応援で僕は支えられてきました。
今連載している作品や、執筆段階の新たな新作も楽しみにしていただけたら幸いです。
これからもたくさんの物語を皆さんにお届けしていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします!
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