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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
最終章 魔王は人間になることはできない
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学院は混乱に飲まれる

 地下から出て外に出た俺は久しぶりに新鮮な空気を吸ったような気がした。

 魔造生命体の放つ悪臭はそれほどに強烈なものであったからな。


「この気配、何か貴族学院から妙な力を感じるけど」


 エリーナが外に出てすぐにそう反応を示した。

 確かに妙な力を感じる。


「貴族学院……教頭が何かをしようとしているのね」

「行ってみるか?」

「エビリス、くん」

「なんだ」


 先ほどから俺を見る目が変わっているミリア先生が俺の方も向いてそう尋ねてきた。

 それにしても俺の正体を知った彼女は先ほどから少し言葉にとげがあるような気がする。


「さっきは動揺しちゃってごめんなさい。これからも力を貸してくれるかしら?」

「ああ」

「それにしても元々魔族だったとは思わなかったわ。でも今は人間なのでしょ?」

「その通りだ」


 どうやら俺のことを人間だと認識してくれたようだ。


「ミリア?」

「だって、よくよく考えてみれば魔族の森に一人で生き残れるわけがないからね」


 そう言ってミリア先生は頷いた。

 まぁ下級の魔族しかいない森だ。それなりの魔術師であれば生き残ることができても不思議ではないが、俺のような少年には無理な話だろう。


「それに、シャワーの時だって人間の体してたし」

「体の形ぐらい魔法でなんとでもなるがな。とにかく今は人間でミリア先生の教え子だ」


 俺がそういうと彼女は少し顔を赤くして俯いた。


「……とにかく、貴族学院の方へ向かうよ?」


 エリーナが話を切り替えて、貴族学院へと向かった。


 貴族学院はすでに混乱状態で、生徒たちが校舎から逃げるように校庭に集まっていた。


「何があったのかしら」

「この臭い……さっきの魔造生命体だよね」

「間違いないが、これほど強いとはな」


 先ほど教頭という男が放った魔造生命体も強烈臭いを放っていたが、貴族学院から漂ってくるこの悪臭は尋常ではない。


「気を失わないように慎重に進みましょう」

「おそらくだが、これは勇者フィーレを足止めするためのものに違いない」

「え?」


 ミリア先生は俺に聞き返してきたが、すぐに理解したエリーナは近くの生徒に話を聞いていた。


「二人とも、急いだ方がいいわ」

「やはりか」

「うん。フィーレとオービスがこの奥で教頭と戦ってるって」

「なら、急ごうか」


 俺がそういうと二人は俺の後を追うように走ってきた。

 この悪臭は魔法で防がないと気を失ってしまうだろう。

 当然、魔法に不得手な勇者は魔法障壁で悪臭を防ぐことができない。長居すれば彼女とて体力を消耗してしまう。


 悪臭の中、俺たちは急いでその強烈な臭いを放っている教室へと辿り着いた。


「フィーレ」

「エビリス……くん?」


 フラフラと力を失いかけているフィーレが俺に気付いた。


「動くな」


 俺はすぐに彼女に魔法障壁で悪臭を防いだ。

 すると、彼女は深呼吸してその新鮮な空気を肺に送り込んでいた。


「何があったかわかるか?」

「ええ、オービスくんが奥へと向かっていったわ」

「そうか」


 俺も奥へと向かおうとすると、フィーレが俺の腕を引き留めた。


「待って、教頭がどこかへ向かったわ。エビリスくんは彼を追って欲しい」

「私とミリアが魔造生命体を倒すから」


 エリーナが親指を立ててそういう。

 確かに彼女たちに任せてみてもいいだろう。

 どれほど強力だったとしても上位の魔族ほど強くはないからな。


「ああ、任せた」


 そう言って俺はその教室をでた。


 しばらく外を探していると、リーシャから念話が送られてきた。


『エビリスくん、助けてくれてありがとう』

「気にするな。教頭を見なかったか?」

『えっと、執務室に向かったはずよ』

「そうか。案内してくれるか」

『うん』


 彼女はそう返事をしてその部屋へと案内をしてくれた。

 そして、その執務室へと入った。


「っ!」

「何をしているんだ」

「何をって、それは私の台詞……っ!」


 俺は魔力の腕で教頭を壁に押し付けた。

 何が起きているのか分からずに彼はもがくだけであった。


「この騒ぎはお前が引き起こしたようだな。目的はなんだ」

「……」


 喉を圧迫されているために言葉を発することができない。


「話すことができないか?」


 俺がそう聞くと彼は顔を青くして頷いた。

 しかし、俺は力を弱めることはしなかった。


「編入試験の時も妙な動きをしていたな。それに進級試験も無理難題を押し付けてきた」

「……」


「俺だけならまだしも、ここで必死に勉学に勤しんでいる生徒にまで危害を加えるなど俺は許さない」


 どうやら教頭は気を失ったようだ。

 酸欠による意識の喪失、教頭とは名ばかりでなんとも弱々しい奴だ。

 俺は魔法で教頭の意識を覚醒させると、彼はすぐに怯え始めた。


「っ!」

「何が目的かを聞いている。もう一度窒息させようか?」

「こ、これは大義のためだ!」


 彼は汗だくになりながらもそう言って意思を示した。


「大義? 何が大義だ。生徒の未来を潰すことがか」

「一般学院の生徒など必要ない。ここは強力な魔法師を育成する場なのだっ」

「そうだろうな。だが、一般学院にも素質を持った奴もいる」

「……貴族の家系は安定して強い魔法師を産む。それに対して一般学生の奴など弱い奴ばかりだ」


 確かに魔力だけでみれば遺伝で強い魔力を持った子供を産むことができる彼らを優先して育成することは正しいことのように思える。

 しかし、そこまでして強い魔法師を保存する必要はあるのだろうか。

 これからは戦争の時代ではない。平和な世界だ。

 魔法も戦うためのものではなく、人々の暮らしを豊かにするものだと思っている。

 科学はそれを体現しているようなものだ。魔力の有無に関わらず誰しもが扱える科学は非常に便利なものだと思っている。


「魔力だけが魔法の強さではない」

「強き者が世界を支配する。これは今も昔も変わらないではないか!」

「確かに強き者が世界を支配するな。だが、その本質は変化している」


 魔王時代であれば魔力や軍事力が強ければ支配できた。しかし、今は違う。

 今の時代で強き者というのは魔力や軍事力ではないのだ。


「なら、何が世界を支配するんだ?」

「世界を支配するなどと考えること自体が古い考えだと言っている」


 誰も争いなど求めない平和な世界こそが理想だ。

 皆が皆のために精一杯生きていく。

 人間というものは集団で生きるものだ。

 集団で過ごしている限り人間はどこまでも発展できる、進化できる。

 世界を支配してしまっては孤独になってしまうのだ。かつての俺のようにな。

こんにちは、結坂有です。


教頭を取り押さえた魔王ですが、今までの怒りが爆発してしまうようですね。

そして、魔造生命体の方はどうなったのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



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