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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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試験前日、魔王の激励と貴族姫の予感

 試験前日となった今日。

 この日であらかた訓練を終えておく必要がある。

 もちろん俺が担当していたのは『魔法射撃』と『魔術解析』のレナだ。


 『魔法射撃』は大丈夫だとして、問題はレナの方だ。

 他と比べ圧倒的な知識量を持っているレナだが、他の人とうまく協力が取れていないように思えた。

 今回は複数人で解析に取り掛かる競技だ。もちろんうまく協力する必要がある。

 うまく人と相談できれば問題ないだろうが、果たして自分の主張を言い出せるのだろうか。少し心配になってくる。


「おはよう。今日も勉強か?」


 教室の席に着いた俺は真っ先に横の席に座っているレナに話しかけた。


「あ、うん」


 そう呟いたレナの表情は少し疲れている様子であった。やはり何か悩みがあるのかもしれないな。

 ここは俺としても少しアドバイスをした方が良さそうだ。


「疲れているようだな」

「ちょっと夜更かししただけだから、大丈夫だよ」


 レナはそう言っているが明らかに疲れが表れている。それに何かに焦っているようにも見える。いや、実際焦っているのだろう。


「全然大丈夫そうには見えない。俺で良ければ相談に乗ろう」

「……自分より周りが優れてるように見えて、私も頑張らなくちゃって思って」


 少し間があったが、本心を話してくれた。


「自分に自信がないのか?」

「自信がないわけではないの。ただ、私がいなくても勝手に正解にたどり着いている気がして」


 自分が言い出さなくても大丈夫なぐらいチームとして成長している。ただ、それによってレナがより萎縮してしまっているとも言える。

 結果、そのせいでレナは無力感に駆られ、こうして猛勉強しているのだ。


「それでいいのではないか?」

「え?」


 意外な発言にレナは素っ頓狂な声をあげた。


「自分は自分の力を信じればいい。もしチームが間違っているなら自信を持って言い出せばいいだけだ」


 単純だが、その方がチームのためだ。自分の意見に自信を持つだけでもいい。まずはそこから始めるべきだ。


「ただ自分を信じる……ってこと?」

「まぁ、無理に周りに合わせる必要はないってことだ。その方が自分のポテンシャルを発揮できる」

「うん、自分の知識には自信がある。ちょっと元気出たかも」


 それならよかった。俺のためにも勝てるところは勝って欲しいから助言したのだが、少し出過ぎた行為だっただろうか。

 今はそんなことよりもレナの自信を取り戻すことが先決だろう。


「エビリスくんって、たまにすごいこと言ってくれるよね」

「すごいこと?」

「なんか先生みたいなこと言ったりとか、いい先輩みたいな感じがして」

「俺を見つけてくれたミリア先生が教えてくれたことだ。俺の力ではない」


 これ以上変な探りはされたくないため、話を止めてみる。


「それでも自分の引き出しに蓄えて、他の人に活かしてるんだからすごいよ」

「すごいのかな……」


 別段そこまですごいことでもない気がする。人の話を聞いて人は成長するものだからだ。


「今日、後でチームのみんなで話し合ってみるよ」


 レナは握り拳を胸元に作り、自分を勇気付けるようにそう言った。

 今までチームで無力感を感じ、孤立していたのだろう。


「まずは自信を持つことが大切だからな。応援するよ」

「そうだよね。ありがとう」


 レナは満足そうに笑みを向けた。

 やはり、美人だ。その笑みに俺は少し見惚れてしまったのだ。

 数秒たっただろうか、一瞬だったのだろうか。そんな空気感を知ってか知らずか、コリンが話しかけてくる。


「おはよ。なんかいい雰囲気だから壊しちゃった」

「おい」


 そのやりとりを見て、レナはまた笑みを零す。


「でも、そろそろ明日だよね。試験」

「ああ、そうだな。でもみんな大丈夫そうだし。問題ないだろう」


 実際魔法射撃に関しては勝利は確定のようだからな。

 しかし、唯一問題なのが魔術解析だ。これに関しては圧倒的に貴族学院が優位だ。

 問題に関してもどれほど複雑な魔法陣が出題されるかもわかったものではない。試験というからにはそれなりにレベルが高いものになるだろうが。


「魔術解析の方は大丈夫そうなのか?」

「チームのみんなで中等魔術士試験の問題を解けるまでは行けたけど……高等魔術士試験のレベルにまでは達してないかな」

「中等のレベルでも結構な問題だよね。五人いるけど、一年生ではいい方だよね?」

「そうかもしれないけど、貴族学院はどんな教育を受けているかわからないから」


 一般学院と貴族学院では授業のペースが違うそうだ。どのような分野まで貴族学院が進んでいるか想定できれば対策は組めるが、難しいところだろう。


「自分の実力を発揮すれば、必ず結果につながる。勉強とはそういうものだ」


 マーフィンがそう言いながらこちらに向かってくる。

 以外にもその言葉が頼もしく聞こえた。


「レナも自分なりにチームに貢献するといい。マーフィンもそう言ってるんだ」

「うん、そうだね。そろそろチームのところに向かうよ」


 レナは少し気まずそうに支度を始め、教室を後にした。


「ごめん、邪魔したかな」

「そんなことないよ。レナも今神経質になってるだけだと思うから」


 コリンがそうフォローしてみせる。


「明日から試験だしな。俺たちも力になれることをしようか」

「そうだね」


 そして俺たち三人はそれぞれの訓練場に向かった。

 言うまでもないが、俺が担当している射撃女子たちは三万ポイントは当たり前という点数になっていた。


   ◆◆◆


 私は長距離魔導射撃場の控え室に向かった。

 背負っていた大きな魔法具を台に置き、一息つく。流石にここまで大きいと持ち歩くのが億劫になる。

 しばらくすると、控え室の扉が開いた。


「リーシャ、ちょっといいか」


 私が自分の魔法具を手入れしているところに一人の男がやってくる。オービスだ。


「オービスくん、どうかしたの?」

「お前には貴族学院一年生を代表して、模擬戦のメンバーになってもらう」


 貴族学院で試験内容が発表されてから一ヶ月以上経っているが、試験に関してなんの話し合いもしていない。

 私は自分の腕を磨いたり、知識を身につけたりしていた。

 もちろん、前日である今日も例外ではない。これから自分の得意分野である長距離射撃の最終チェックを始める予定だった。


「一般学院の状況でも掴めたのかな?」


 もちろん、貴族学院でも負ければ進級に響く。一般学院の評価基準は知らないけど、貴族学院の評価基準は”競技にいかに立ち向かうか”という過程を評価するようだ。

 一般学院の方よりは難しい設定のはず、私たちがするべきことは自分たちがどのように競技に立ち向かうかということなのに、リーダーを引き受けているオービスくんは全く話し合いをしない。

 少し不信感があるものの実力に関しては私より上だ。何か策でもあると信じている。


「一般学院には申し訳ないが、勝利は確定だ」

「どういうこと?」

「お前が模擬戦に参加すれば、全戦全勝になるだろうな」

「オービスくんのことだから奇策でも思いついたのかな。それで私は一回負けてるし」


 実際貴族学院に入って初めて負けた相手が目の前にいるオービスくんだ。

 それまでは地元で負け知らずだったからショックもあったけど。


「そんなに警戒することはない。ルールのギリギリを攻めているだけだ」

「下手すれば失格になるよ」


 そう私が釘を刺してみるが、オービスくんは不敵な笑みを崩さなかった。


「問題はない。お前さえ参加してくればな」

「わかった。でも何かあったら全責任はオービスくんが取ってね」

「ああ、美人のお前なら責任は取るぜ」

「そういう意味じゃないから」


 オービスくんは冗談を払うように笑い飛ばし、部屋を後にした。

 私はこの時、何か悪い予感がした。

 この銃型の魔法具を向ける相手が気になったのであった。

こんにちは、結坂有です。

今回は前日ということで、一般学院と貴族学院それぞれの視点で進行しました。

これからどのような試験になるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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