魔王は邪魔を取り払う
翌日、俺とレイは今日の授業を受けるために学院に向かっていた。
当然昨日と同じく教室では俺を明るく出迎えてくれる生徒がすでに集まっていた。
すっかりクラスの人気者になってしまったわけだが、別に悪い気はしていない。
むしろこの瞬間を楽しいと感じている自分がいるのだ。
魔王時代の頃は自分から魔族の民と距離をとっていたことがあったからな。
「エビリスくん!」
皆の挨拶の中に一際大きい声で俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら呼びかけてくれたのは昨日話しかけてきてくれたマリンであった。
「どうした」
「今日も教頭先生が何かを埋めてたよ?」
「なるほど、やはり危険な何かなのかもしれないな」
昨日も何かを埋めていたようだ。
生徒が登校している中、一体何をしているのかは分からないが、調べてみる必要がありそうだ。
「やっぱり調べる?」
「確かにな。昼休みにでも調べるか」
「エビリス様、昼間に調べにいくのですか?」
しかし、これが罠の可能性もある。
罠だからといって立ち向かわないわけにもいかないからな。
どちらにしろ、危険であることは変わりない。
「ああ。後で向かう」
「わかりました。私もお供します」
「わかった。マリン、その場所を案内してくれるか?」
すると、彼女はうんうんと大きく首を縦に振った。
「では三人で校庭に向かうとするか」
「はい」
そんな話をしていると、ミリア先生が教室に入ってきた。
「それではホームルームと授業を始めるわね」
彼女はそう言って朝のホームルームを始めた。
やはりミリア先生の科学の授業は面白いものだ。
今日は分子の話をしてくれた。
電気が発生する仕組みなどもどうやらその分子と電子が関わっているそうだ。
ふむ、魔法と組み合わせれば強力なものが作れるかもしれないな。
そして、授業が終わると昼休みに入った。
「エビリス様、行きましょうか」
「ああ。マリン」
「あ、うん!」
俺がマリンの名を呼ぶとすぐに駆け寄ってきた。
それから校庭に向かい、彼女に案内されて埋められていたという場所に向かう。
まずは昨日の場所から向かうことにした。
地面に触れてみるとまだ土が柔らかいところがあった。ここに埋められていたようだな。
「ここのようだ」
「掘り起こしてみる?」
「ああ」
マリンが魔法で土を軽く掘り起こした。
すると、土の中から黒い箱のようなものが出てきた。
「これ、昨日埋めてたものだよ」
「そうか。調べてみるか」
俺は触れることはせずに魔眼でそれらを調べてみることにした。
しかし、その黒い箱のせいか、魔眼の魔力が遮断されてしまっている。
やはりそう簡単には正体を暴くことができないか。
「エビリス様?」
「少し下がってろ」
その黒い箱を俺が手で持ち上げる。
やはり軽いな。
そして、その蓋を開けてみると中からは骨が出てきた。
「こ、これって!」
「魔族の骨、それも頭蓋骨だな」
「エビリス様、これは儀式に使われるものですよね」
レイの言うとおり、これは儀式に使うようなものだ。
人間や魔族の骨を使った儀式はいくつもある。その中でもこの頭蓋骨を使ったものは呪術に関する魔術だ。
「おやおや、こんなところで何をしているんだい?」
「っ!」
すると、奥から一人の男がやってきた。
「教頭、ですね」
「レイさん、あなたがこの学院に来た時から怪しいと思っていましたが……こうなるとは思ってもいませんでした」
「これは呪術の類ですね。何をしようとしていたのですか?」
「場合によっては許されないことだ」
俺がそう言うと教頭は俺の方へとゆっくりと近づいてきた。
「一般学院の小僧が貴族と同じ授業を受けるなど、そのようなおかしなことがあってはいけないのですよ」
「なんだ、そのようなことか。貴族学院は確かに強いが一般学学院にも強いやつはいる」
「そんなことはないのですよ」
そう言って教頭が手をあげると、後ろから人間の骨が無数に集まり始め一つの巨大な怪物へと変わっていた。
やはり、死呪の類か。
「エビリスくん、後ろ!」
「わかっている。マリン、俺から離れるな」
「う、うん!」
すると、教頭は高笑いをしてから俺の方を見た。
「こいつはあのニヒルロードと呼ばれる奴とは違う意思を持った怪物です。殺せるものなら殺して……」
「意思を持っていようがただの骨の塊だ。何も怖くはない」
俺が指を鳴らすと骨の怪物は一瞬にして崩れていった。
「なっ! どうして!」
「もともと不完全な魔法だ。魔力の淀みを少し操作すれば全て崩れ去る」
「一般学院、それもこんな田舎者にっ!」
「魔族の森はもともと魔族の都市だった。田舎者ではない」
そうだ。魔族の森は俺が築き上げてきた素晴らしい文明を持っていたのだ。
今はその名残すら残っていないがな。
「くっ、ここは一旦引くとしましょう」
そう言って教頭はバラバラになった骨を魔法で回収してこの場から離れた。
「エビリスくん、さっきのって?」
「死呪の魔法だ。死んだ者の体を使った古い魔法だ」
とは言っても俺の時代では最先端の魔法であった。
だが、今となっては廃れてしまった魔法なのだろうな。図書室にもあのような呪術の魔法が載っている書物はなかった。
「……ベラの探してた魔法、かな」
「ん? ベラが探していた魔法?」
「うん。彼女もこんな魔法のことを調べようとしていて、図書室を探し回っていたけど見つからなかったみたいで」
確か図書室で見かけた時も何かを探してたな。
この死呪の魔法を調べて何をするつもりだったのだろうか。
「エビリス様、戻りましょうか」
「そうだな」
とりあえず、あの怪物を生み出す魔法は阻止できた。
これであの共同授業もうまく進むといいのだが、加えて教頭のやつも策を考えてくることだろうな。
こんにちは、結坂有です。
貴族と一般との初めての共同授業を邪魔しようとしている教頭ですが、次は一体どのような邪魔を仕掛けてくるのでしょうか。
そして、ベラはなぜ死呪と言った魔法を調べようとしていたのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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