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かつて最強であった魔王は人間として生きていけるのか  作者: 結坂有
第二章 魔王は昇格試験を乗り越えたい
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魔王は教えたい

 試験発表から数日経った。マーフィンの作戦通り、チームで別れて訓練や勉強をしている。しかし、俺が配属している模擬戦は集まっていない。


 昨日、模擬戦でどう立ち回るか、簡単な戦略を立てただけで終わったのだ。

 実際は訓練などをしたところで貴族学院に技能的に負けらしい。聞いた情報だけでも十分戦力は違うようだ。

 模擬戦をすることになり、俺も魔法具を手に入れる必要が出たのは予想外だったが、大丈夫だろう。お金は食費だけでそれ以外にはほとんど出費していない。


「エビリスくん、ちょっといいかな」


 一人の女子に声をかけられる。その人はベラという女子で、魔法射撃を訓練していた人だ。

 授業を見ていたが、魔法精度は高い方だ。十分に競技戦で戦力になる。


「どうした?」

「『模擬戦』って訓練とかしないよね。だったらちょっとこっちの訓練に協力してくれないかな?」

「別に構わないが、どうして俺なんだ? マーフィンとかいるだろ?」

「マーフィンは、形成魔法の方に行ってるんだ。だから頼れるのエビリスくんしかいなくて」


 確かに俺は魔法精度も速度も周りに合わせている。つまり、平均的にできる人ということだ。

 もちろん、いずれこうなることはわかっていた。

 平均的にできる人は教える立場になりやすいことは知っていたのだ。


「わかった。訓練場に行くよ」

「ありがと」


 俺はベラに連れられて、射撃訓練場に向かうことにした。

 射撃訓練場には空中に複数の的が用意されており、ランダムに移動している。中心に当てるとポイントが高く付くルールだ。この手の競技は古くからあるが、魔族の世界では実戦向きではないとされていた。

 訓練場ではすでに何人かは練習をしていた。


「見た所、女子だけだが?」

「そうね。マーフィンの裁量でこうなったの。みんな魔法精度が高いからそうなってる感じかな」


 確かに精度が高い人だな。こうも女子だけだとびっくりするものだ。


「それでどこが問題なんだ?」

「なんとか的には当てることはできるの。でも、速さが足りないのよ」

「速さ、か」


 限られた時間でどれだけ撃ち落とすか、それだけでもポイントは取れる。

 的に当てると二ポイント、さらに中心に当てるとプラス三ポイント。正確に的を撃つと一つで最大五ポイント得られる。

 制限時間は四十五秒、常人であれば八〇個程度当てれるぐらいだろうか。仮に八〇個落とせたとしても最大ポイントは四〇〇ポイントだ。

 しかし、それは正攻法でやった場合だ。同時に複数攻撃できる魔法であればもっと多くのポイントを得ることも可能だろう。もはやこの競技は正確性よりも多く的を射抜くことが最善手だろう。


「どうにかならないかな?」


 ベラがどうしてもと言ったような顔をする。


「魔法はなんでもいいのか?」

「ルールでは遠距離系の魔法でのみ破壊可能って書いてあるよ」

「なるほど」


 的の材質は魔法で作られた金属だ。それを魔法で浮かべてランダムに動かしているだけ、それなら打開策はある。


「今の訓練内容は?」

「今は速度の練習より、精度の練習だね。速く撃つよりも高得点を狙ってるの」

「そうか。わかった」


 遠距離系であれば魔法の制限はない。的の材質は土系統の魔法で作られた金属、そして、一定の区間をランダムで動いているとなれば作戦はあるな。あとはこのシステムがどう対応するかだな。


「速度の練習も精度の練習もしなくても大丈夫な方法がある。試しに俺がやってもいいか?」

「え! いいの?」


 ベラが嬉しそうに飛び上がった。


「なんで嬉しそうなんだ?」

「だ、だって、エビリスくんの魔法だよ!」

「俺の魔法がどうしたんだ?」

「あんな綺麗な魔法はエビリスくんぐらいだよ!」


 ベラが喜んで話していると、先ほどまで射撃の訓練をしていた女子たちがこちらを注目してきた。


「俺の魔法が綺麗?」

「うん。間近で見てみたいなと思ってたの。授業では離れてみていたから」

「それより、綺麗なのか?」

「青くて、神秘的で、なんか綺麗なの。それは他の人も思ってるよ」


 すると、訓練場の女子たちも大きく頷いた。


「わかった。俺の後ろならどこにいてもいい。一つブースを借りる」

「やった! みんなエビリスくんの後ろで見れるよ!」


 そう言うと、ぞろぞろと五人とも俺の後ろに張り付くように見ている。

 ベラが俺の肩を叩いて説明する。


「そこのボタンを押すと、競技がスタートするの。準備できたら始めていいよ。私、見てるから!」

「わかった」


 こうもじっくり見られると恥ずかしいものだ。

 俺はボタンを押し魔法陣を形成する。その魔法陣は電撃系統の魔法だ。さらに区間指定の条件を組み込んでいる。そうすることで、的が動く範囲で電撃系統の的に電撃を当てることができる魔法の完成だ。

 常人であれば、この魔法陣は複雑のようだ。

 俺は五秒で魔法陣を作り上げることにした。


「うわぁ、綺麗」


 後ろから感嘆の声が聞こえるがそれを無視して、俺は魔法陣を発動させる。

 五秒魔法陣の生成に使い、残りの四十秒間は電撃がこの魔法陣から雨のように的に降り注いだ。

 そして、予想通りものすごい勢いで的を撃ち落としていく。


「ええ!! やば過ぎでしょ!」

「ポイントがすごいことになってるよ!」


 俺の後ろにいた女子はさらに盛り上がっていた。

 そして競技終了の合図が出て、的の生成が止まる。


「どうだった?」

「三万ポイントだよ!」


 これでも三万か、俺としてはだいぶ速度を落としたつもりだったが、やりすぎたか。


「世界記録、軽く超えてる」

「そ、そうなのか」


 複数の的に最高精度、最高速度だとして、単純計算で俺なら十万ポイントはいける競技だったが、人間はそうはいかないのだろうか。

 人間の脳の処理速度からしてそこまで不可能という事でもない。

 実際俺はそこまで苦労はしていない。


「これなら勝てるよ!」


 電撃系統の攻撃は一秒に満たない間に到達する。この競技で一般的な魔法は空気系、破壊系、光系が主流のようだ。電撃系統は光系統には速度で劣るものの電気が流れやすい金属に向かうと言う性質のため基本的に狙う必要がない。

 さらに範囲指定をすることで効率を上げた。普通にすると言うのは真っ向から考えていない。

 実力では貴族学院が優勢、だが考え方を変えればこのような方法だってできる。


「どんな魔法使ったの?」

「電撃系統と範囲指定の魔法陣を使った。発動に時間がかかるが、あとは魔力を流し続けるだけで的を撃ち落としてくれる」

「そんな作戦があったのかぁ。みんな直接魔法を当てることしか考えていなかったもんね」


 この方法が使えるのは試験当日の公式戦一回限りだろうな。これが公になればルールが変わるに違いない。


「俺らの作戦は貴族学院には秘密だぞ。マーフィンがそう告げていたからな」

「もしかしてこれってマーフィンの策?」

「マーフィンの策ではない。完全にオリジナルだ。でも思考を柔らかくして考えろと言うのはマーフィンも言っていたな」


 ここはマーフィンにも譲った方が後々良さそうだ。


「エビリスくんって意外と切れ者だもんね」

「科学の授業で習ったことだ。切れ者でもないよ」

「確かにそうかもね」


 ベラが何か嬉しそうに笑った。


「よーし、みんな。この魔法陣を練習して本番で勝利を収めよう!」

「「おー!」」


 気合の入った声が訓練場に響いた。これなら勝利は間違いないだろう。


「今日はありがとうね」

「勝利でもって感謝を伝えてくれ」

「うん!!」


 ベラの元気な声を背中に俺は訓練場を後にした。




 教室に戻るとレナが行き詰まった顔をしていた。


「どうしたんだ?」

「高等魔法が、わからないの」


 真剣な顔でそのようなことを言った。


「『魔術解析』だったな。どこがわからないんだ?」


 レナが手にしていたのは高等魔術の一種だ。追尾性をもった雷撃、そして爆破の効果を持つものだ。戦場でもよく見かける魔法陣だ。


「高等魔術の条件で法則性が読み解けないの」


 なるほど、法則性か。

 魔法陣にはある法則性がある。それを読み解いた上でやっと意味を理解できる。しかし、それを判断するのは最初のうちはかなり難しい。

 教えてやることもできるが、授業で習っていないことをなぜ知っているのかと聞かれたらどうすることもできない。ここは気付かせることにするか。


「高等魔法は結局のところ基本魔法の派生だ」

「そうだけど」

「案外、法則もただ組み合わせただけかもな」

「え?」

「昔聞いたことがあるんだ。魔法陣はパズルだって。細かく見ていてはわからない」


 魔法陣を細かく分けて考える。つまりこの呪文の意味は、この記号は何か、などは関係ない。パズルのピース一つでは全体の絵柄まではわからない。しかし、広くみることでその絵柄の全体像が見えてくる。

 それは魔法陣でも言える。魔法陣全体を大きくみると案外気付くことがあるのだ。


「視野を広げて、大きく見ろってこと?」

「そう言うことだ。俺にはこれはよくわからんが、どこかで見たことがある魔法陣だなと思ってな」


 レナは魔法陣の書かれた紙を逆さまにして見る。


「これって、基本魔法の雷撃属性に似てるような……」


 そこまではいい。あとは空気の振動を操る熱系統の記号、そして追尾性を意味する呪文を読み解くだけでこの魔法陣は解析できる。


「あ、わかった」


 レナは魔法陣をまとめた大きな本を手に取り調べる。すると、答えがわかったようだ。


「当たってる」

「よかったな。どんな魔法なんだ?」

「この本には、追尾性雷撃魔法の一種で、拠点を破壊するのに使うそう」

「ふむ、強そうな魔法だな」

「そうね。でも欠点もあるから動くものには使えないね」


 もうそこまで理解したのか。魔法解析は実戦でも役に立つのはそれだ。魔法の性質がわかる上に欠点までわかるからだ。

 この魔法であれば、雷撃の部分だ。これのおかげで簡単に防がれてしまうのだ。

 拠点の破壊なら問題ないが、相手が人間ならそう簡単に倒すことはできない。


「法則性がわからなくても大丈夫そうだな」

「うん、なんかね。ありがと。ヒントになったよ」

「それはよかった」


 レナは満足そうに笑った。


 『魔法解析』『魔法射撃』はまず問題ないだろう。あとはマーフィンが担当している『形成魔法』ぐらいか。それがうまく行っていたら模擬戦は手抜きができる。

 つまり、俺の実力が知られずに済むと言うことだ。

 俺の実力は今の所、頭が切れるが魔法技能は一般レベルといった評価だろう。


 俺はこの平穏な日々を楽しむために実力を隠し切ることを決意したのだ。

こんにちは、結坂有です。

今回は魔王は実力をあまり知られずに生徒たちを指導していきました。


それでは次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやーいいねー王道展開いい(^^) しかしフラグも立てちゃったね。模擬戦、手抜きは出来ないね。
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