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恐ろしい事態に直面する

 翌朝、俺が起きるとフィーレも起き始めた。


「すまない、起こしたか?」

「いいえ、起きるの待ってたから」


 どうやらフィーレは俺が目を覚ますのを待っていたようだ。


「何か話したいことがあるのか?」

「重要な話ってわけではないけれど、聞きたいことがあって」


 ふむ、フィーレの気になっていることがよくわからない。

 昨日のクリシアナの件で何かわかったことでもあるのだろうか。


「なんだ。言ってみろ」

「うん、リーシャの魔力について知ってることあるの?」

「知っていることか?」


 リーシャの魔力の正体、それはニヒルの力であることだ。

 そのおかげで彼女には他の人よりも特殊な魔力を扱うことができる。

 例えば、あの魔弾の誘導性であったり魔力に対して高い貫通性能を誇っているのはそのニヒルの力のおかげである。

 確かにフィーレや本人には言ったことがなかったな。


「なんでもいいの。話せることだったらでいいから」

「わかった。だが、ここで話すのは無理だ」

「そうだよね。今日は訓練のない日だし、少し散歩しましょう」

「ああ」


 それから俺たちはリーシャとレイを起こさないように早暁(そうぎょう)の基地へと散歩を出た。

 一応何があるかわからないからとフィーレは聖剣を装備しながら外に出る。まだ肌寒い外の空気はとても新鮮で体に染み渡るような感覚がして、とても気持ちが良い。


「外の空気は気持ちいいわね」

「意識を覚醒させるにはちょうどいい」

「……ここだったら話せるかしら?」


 周囲に誰もいないことを魔力を這わせることで確認した俺は話すことにした。


「本人には話すべきことではないのだがな。彼女はニヒル、つまりあの神の力と呼ばれるものの力が混じっている」

「そう、なのね」


 俺の言葉を聞いたフィーレはそこまで驚くことはなく、そもまま軽く頷いて見せただけであった。

 薄々と気付いていたことだったのだろう。

 わざわざ時間を見計らって俺に話しかけてきたぐらいだからな。


「驚かないのか?」

「ええ、彼女の力は他人と違うのは見ていてわかるもの。まさかそんな力だとは思っていなかったけれどね」

「なるほど」


 流石に長い間、彼女と一緒に過ごしていたのならそう考えて当然なのかもしれないな。

 彼女の魔力は他人と一線を画しているのは誰が見ても明らかだからな。


「もしかして、彼女の家系に関係しているのかしら」

「詳しくは言えないが、彼女の先祖と会っているからな」


 すると、フィーレは「ふーん」っとだけ言って前を向いた。


「やっぱり知っている人の方がいいわけね」

「どういうことだ?」

「別に、気にしないで」


 少し頬を膨らませたフィーレはしばらく沈黙のままであった。


 それから基地を一周回ったあたりでなんらかの気配を感じた。ほんの微かな気配だが、危険なものであるのは間違いない。


「フィーレ」

「ええ、感じるわね」


 この気配は強大な魔力の持った魔族の気配だ。

 上位魔族のそれに近いもの、それも数十体以上はいるはずだ。


「俺たちが対処した方が良さそうだが……待て」

「どうしたの?」

「基地内にも魔族がいる」


 軽く魔力を這わせたところ、基地の方にも魔族が何体かはいるようだ。

 一体どこから入ってきたのだろうか。

 俺たちは先ほどまで基地の外周を歩いていたが、今までそのような気配すら感じていなかった。


「まずいわね。基地に戻りましょう」

「ああ」


 異変を受け止めきれずにいたが、俺はフィーレの言葉で基地の内部へと向かった。

 リーシャやレイもいることだからな。

 それにリーシャのペンダントも危険を発信していないことから、彼女たちはまだ安全ではあるようだ。


 そして、基地の内部へと足を進めるとそこには大量の兵士の死体が散乱していた。


「これは……ひどいわね」

「意識外からの一撃で皆殺されたようだ」

「蘇生はできるのかしら」


 俺は頭蓋の粉砕された兵士の死体に魔力を流し込んだ。

 やはり、魂を抜かれているか。

 蘇生してもただ傷が完治するだけで生き返ることはないだろう。


「いや、この人の魂も存在していない。殺した後に回収されたようだ」

「そんな、どうしてこんなことを?」


 異臭漂うこの現場は凄まじい状況であった。

 壁には苦しみ踠いたのか血の手形が大量に付着しており、その下には原型を留めていない肉の塊が散乱している。

 その様子を口と鼻を押さえながら見つめているフィーレは目を細めて若干の恐怖を感じているようだ。

 流石の勇者でもこのような惨状を見てしまっては恐怖するのだろうな。


「魂の回収、やはり魔導具の媒体に使おうとしているのだろうな」

「前に行っていた人間を媒体にした強大な魔導具ってこと?」

「それもあるのだが、なんらかの儀式の可能性もある」


 魂を使った儀式はろくなものではない。

 主に呪い系統の儀式なのかもしれないが、融合させて特殊な生命体を作り出すのにも使われる。

 まぁ魔導具にしろ、儀式にしろ危険なものには変わりないのだがな。


「……ごめんなさい。私、ここは耐えられないわ」


 しばらく内部の様子を見ていた彼女は目を伏せてそう言った。


「すまないな。もう出ようか」


 まだどこかに魔族がいるかもしれないが、外に出て彼女を落ち着かせることがいいだろう。

 兵舎のエントランスの惨状を目の当たりにした俺たちはすぐにその建物から出ることにした。

 外にはまだ危険な気配が漂っているが、視界には魔族はいない。


「っ! リーシャたちは?」


 外に出て冷静になったのか、フィーレは部屋に残してきた二人のことを心配し始めた。


「今確認しているが、まだそこまでは魔族が向かっていないようだな」

「……兵舎から離れてるしね。すぐに行きましょう」

「そうだな」


 離れていては何もできないからな。

 ここはすぐにでも合流しておいた方がいいだろう。

 しかし、すぐ現れてまたすぐ消えたように思える。

 あの現場は血が乾いていない新しいものだった。気配を感じてすぐに向かったはずなのだが、魔族の一体とも会っていない。

 一体何が起きているのだろうか。


 すぐに俺たちが寝泊まりしている小さな部屋へと向かうと、リーシャとレイが朝食の準備を始めていた。


「大丈夫なの?」


 扉を開けてすぐにそう言った第一声をあげたかのフィーレに二人は驚いていた。


「大丈夫なのって、フィーレこそ大丈夫?」


 リーシャが少し動揺しながら、彼女に問いかけた。

 彼女たちの様子から察するにここには何も被害がなかったようだ。

 レイもまだ魔族の気配に気付いていないのか、普通に振る舞っている。

 一応魂情報を確認したのだが、以前と変わりない。

 乗っ取られている可能性もないか。

 隠密に優れた魔族が兵舎の兵士たちを一方的に狙ったのだろうな。


「……エビリス様、どうかなさいましたか?」

「いや、今この基地が攻撃されていてな。すぐにでも対処した方が良さそうだ」

「え? 攻撃?」


 俺の言葉に一番驚いたのはリーシャであった。

 それも当然だろう。これから朝食を食べようとしていたぐらいだからな。


「ええ、兵舎が壊滅しているわ。他の施設にも魔族が向かっているかもしれない」

「私たちもすぐに行くわ」


 そう言ってリーシャは銃型の魔導具を取り出して戦闘態勢に入った。


「相手は上位魔族だ」

「わかったわ。すぐに侵入してきた魔族を倒そう」


 俺たち四人は部屋を出てまだ基地内に潜んでいるであろう魔族の捜索に出た。

 そして、基地の外部にいる魔族の本体にも注意しながら、俺たちは基地内を探索するのであった。

こんにちは、結坂有です。


本日も朝に投稿できなくて申し訳ないです。


フィーレは仲間のリーシャの力について詳しく知りたいようですね。

仲間をよく知ることは今後の連携に関わるからなのでしょう。

そして、隠密に優れたニヒルに侵された魔族は一体なんなのでしょうか。

魂を回収して何を企んでいるのか、気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



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